中国では結婚できない男性が3400万人。一人っ子政策の深刻なツケ

 

「天価彩礼」横行の背後、犯罪と騒乱を生む「光棍危機」

それでは「余剰男3400万人」からどういう問題が生じてくるのか。それに対し、中国人民大学社会と人口学院の陸益龍教授はメデイアに対して、「農村地域における売買婚姻の氾濫や性犯罪の多発」などの問題が生じてくることを指摘しているが、その中で彼が例として挙げているのは、中国のマスコミでも時々大問題として取り上げられている「天価彩礼」の話である。

ここでいう「天価彩礼」の「彩礼」とは、中国古来の婚姻儀礼の一つであって、結婚を正式に決める前に、新郎側の家は新婦側の家に一定金額の現金を送る風習である。日本の場合の結納金にあたるが、中国で特に問題となっているのは、その吃驚するほどの相場の高騰である。

中国のネット上で流布されている「2016年全国各省彩礼相場一覧表」によると、湖南省、山東省、浙江省などでは彩礼平均相場は10万元(約160万円)であるが、旧満州の東北地方や江西省、青海省となると、どういうわけかそれは一気に50万元台に跳ね上がっている。極め付きは上海天津で、両大都市の彩礼相場はなんと100万(約1600万円)元台に上っている。

経済大国の日本の都会部でも、「結納金1600万円」となったら、たいていの親が度肝を抜かれてしまおうが、中国の農村部となると、それはなおさらの法外な高額である。だからこそ、「天価彩礼」=「天に届くほどの高い彩礼相場」という言葉が生まれてくるのである。

中国中央テレビ局が去年2月に陝西省農村部で行った「天価彩礼」の実態調査によると、たとえば本省楡林地区の彩礼相場は、新郎側の家の裕福度によって10万元から20万元不等となっており、宝鶏、壟県などの地域でも相場がほぼ同じである。そして全省の農村部を平均すると、彩礼相場は10万元程度となっているが、それは、陝西省農村家庭の平均年収の10倍以上にもなる金額である。

年収の10倍以上、日本の感覚でいえば要するに数千万円以上か億円単位のお金を出して嫁をもらうこととなっているが、それはもはや「人身売買同然の世界である。実際、上述の陝西省農村地域では、「嫁を買う」というのは日常的慣用語となっている有様である。

沿岸に近い安徽省の場合、彩礼のことで今流行っているのは「万紫千紅」である。中国の人民元は、5元札は紫を色の基調とし、100元札は紅色となっているから、「万紫千紅」とは要するに、5元札1万枚、100元札千枚、総計15万元、それはすなわち彩礼の相場である。しかも、銀行の振込では駄目なので、新郎の家は実際、「万紫千紅」の札束を新婦の家に運んでいかなければならない。

もちろん農村では、この「万紫千紅」を婚約相手の家へ運んでいく財力のある人は少数である。そうなると、大半の適齢の男たちは結婚しなくても結婚できない状況であるが、農村部の女性がさらに都市部に「流失」していくことも多くあるから、深刻な嫁不足にさらに拍車をかけることなっている。

こうした中で、全国では今、一つの村の適齢男の大半はできないという光棍村があちこちで出現している。そして、絶望的な状況に陥っている「光棍」の男たちは働く意欲も失い、毎日のように群がって賭博に興じたり集団的喧嘩を起こしたり、挙げ句の果てには窃盗、強姦、殺人などの凶悪犯罪に走っていくのである。

それは、農村の地域社会にとっては深刻な問題であると同時に、中国共産党政権にとっても隠れされている政治的危機の一つとなりつつある。もともと、経済成長から取り残されて貧困に喘いでいる多くの農村地域は人々の不平不満が高まっていて騒乱や暴動の多発する地域でもあるが、絶望的状況に置かれている「光棍」たちの存在はより一層、こうした騒乱や暴動の多発を誘発する要因となっている。というよりも、「光棍」たち自身はまさに社会に対する不平不満の塊であり、騒乱や暴動を起こす主力軍となりやすい存在であろう。

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