アイデア家電を次々と生み出す「ツインバード」は何が凄いのか?

 

客の声から新家電~「あったらいいな」を実現

本社の中にあるショールームには、まさにお客の声から生まれた商品が並んでいる。

例えば「緊急災害の時にも使えるライトが欲しい」という声から生まれたスタンド「LEDふとんライト」(8640円。メーカー希望小売価格、以下同)。普段はベッドサイドで使えるが、もしもの時は折り畳んで抜けば懐中電灯になる。

メガネや貴金属を綺麗にしたい」という声から作ったのは「超音波洗浄機」(1万800円)。メガネのなかなか取れない鼻あての油汚れが3分できれいサッパリ無くなる。

普段、客の声を吸い上げる中枢機関がコールセンターだ。一日に入ってくる問い合わせや苦情はおよそ300件。その声一つ一つがツインバードの開発のきっかけになるという。

夏場になって増えていたのが、意外にも掃除機に関する悩み。集まった声は「最初のような吸い込む力がなくなってしまった」「音はするが吸い込まなくなった」「使っている間に止まってしまう」……。

その原因はサイクロン式掃除機のフィルターにあるという。サイクロン式掃除機は吸い込んだゴミをダストボックスに溜める。しかし、その手前にあるフィルター部分は目詰まりしやすく、手入れを怠ると吸引力は低下。モーターが熱くなって止まることもある。

コールセンターに集まったお客の声は月に2回会議にかけられ共有される。

「夏場に早く掃除がしたいのに、止まっている状態を解消したい」(お客様サービス担当者)と、コールセンターから開発部にお客の声が直接伝えられるのだ。

この声を受けて、吸引力が落ちず、夏場でもモーターの止まらない掃除機の開発が始まった。担当するのは入社7年目の開発生産本部・古川泰之。早速デザインを起こす。古川はスティック型を採用。そのデザインからまず立体的な模型が作られる。作るのはこの道26年の商品開発部・本田貴司。手作業でデザインに沿った形にしていく。本田の腕が物を言う職人仕事だ。なんと、その日のうちに模型が出来上がった。

続いて掃除機の内部パーツの模型を製作。発泡スチロールの模型を参考に3Dプリンターで試作品を作る。フィルターの目詰まりを解消するために古川が出した答えが、紙パックの採用だった。「サイクロン式のダストケース部分に紙パックが入ります」と言う。

昔ながらの紙パックは手入れが簡単。これで厄介なフィルタートラブルもなくなる。さらに新しい紙パックも開発するという。ただし、古川にはまだ納得のいっていない部分があった。「力の弱い女性の方でも使っていただけるように、軽くするのがコンセプトのひとつなので、ここからさらに削ぎ落としていくというところですね」と言う。

こうした試行錯誤を繰り返しながらお客の声を反映した商品を作っていく。最後の関門が商品化決定会議。ここで野水がOKを出さない限り商品になることはない

古川は、従来のスティック型サイクロン式掃除機より700グラム軽くしていた。まさにありそうでなかった家電。野水のゴーサインをゲットした。

大手家電メーカーは企画から商品化まで2年かかるのが普通だが、ツインバードは最短で10ヶ月という早さだ。

「世の中全体がスピード感を持って変化していくので、それに半歩先んじて本当に便利な機能を提供していきたいと考えています」(野水)

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メッキ加工の下請けが人気家電メーカーに大変身

ツインバードの本社には、これまで作ってきた商品が展示されている。中には悔しい思い出となっているものもある。

1991年発売の電気釜飯器「和風炊飯器はがまくん」。今ではよく見る羽釜の炊飯器を30年近く前に作っていた。だが、「他のメーカーの炊飯器より美味しいと、満を持して量販店さんで販売したのですが、ほとんど売れなかったですね」(野水)。

他にも、録音もできる電子再録カラオケ「カラオケ歌道場」、阪神大震災を受けて作ったという「液晶テレビ付蛍光灯ランタン」など、昔から「いいと思ったモノは作ってみる」という柔軟な物作りの姿勢を持ち続けてきた。

ツインバードの創業は戦後復興期の1951年。最初は一軒家で洋食器などをメッキ加工する小さな下請け工場だった。

「下請けというのは発注元の商売に影響されやすい。あまりにもビジネスモデルとして不利だということで、親会社の注文を蹴って、自社製品の開発に踏み切ったんです」(野水)

創業から12年後に金属トレーの製造販売を開始。冠婚葬祭用に作ったトレーは1000万枚以上を売るヒットとなった。洋食器から家電へと舵を切ったのは野水の父で2代目の重勝。当時、洋食器を売っていたカタログギフトの取引先からリクエストされたのだ。

「冠婚葬祭用の製品というのは、毎年同じ物を差し上げると飽きられてしまう。電気ポットや電気ウォーマーなども開発してほしいとご依頼を受けたのが、家電製品にシフトしていくきっかけでした」(野水)

最初に作ったのは卓上照明。その後作った、触れるだけでライトがつく「調光タッチセンサーライト」は9万5000台のヒットを記録した。大手メーカーが参入してこなかったカタログギフトの市場でツインバードは成長してきたのだ。

野水は1965年の生まれ。子供の頃は工場が遊び場だった。ツインバード入社は1989年。取引先のなかった香港に赴任し、新規開拓する仕事に打ち込んだ。しかし帰国すると、会社は5期連続赤字という厳しい状況に追いつめられていた。

「とにかく今までのビジネスモデルの延長線ではジリ貧になってしまう」という危機感を持った野水は会社の建て直しを図り、2011年には社長に就任。会社のものづくりの方向性を大きく変える決断をする。

ビジョンを作ったんです。お客様の声に耳を傾けてあったらいいなを形にする。とにかく会社を変えたかったんですよ」

ビジョンを浸透させるため、野水は毎日、朝礼でそれこそ「壊れた蓄音機」のように繰り返し伝えてきたと言う。「客の声から始まるものづくり」はこうして始まった。

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