ものづくりの町の結晶~新興家電メーカーの挑戦
ツインバードの本社工場でこの日、作っていたのはコーヒーメーカー。だが、「これは良品計画さんの全自動コーヒーメーカー。毎日260台作っていますが、追いつかない状態です」(生産管理部・太田友美)と言う。無印良品で2ヶ月待ちになっている人気商品だが、実はツインバード製。他社の商品の製造も請け負っているのだ。
それを支えるのが燕三条にある83社の協力工場。例えば日研シェルモールドは、金属を鋳型に流し込んで作る鋳造の技術を持つ。砂の型を壊すと、中から出てきたのは「フラットカッター」。無印良品のコーヒーメーカーに入る豆を挽く刃だった。
「燕三条の技術を使いながら、お客様に圧倒的な感動を提供できる会社になることができると思っています」(野水)
一方、小林研業は金属の表面を磨き上げるエキスパートだ。実はこの工場、こう見えて世界に認められた高い技術を持っている。見せてくれたのはアップルの「iPod」。この工場の技術に惚れ込み磨きを依頼したのだ。
今、作っているのがツインバード製品のパーツ。お鉢のような形の金属を職人さんが磨きにかける。一つずつ磨き上げること30分。出来上がったパーツは鏡のように輝いている。小林研業の武田喜雄さんは「海外の製品に負けない高付加価値の商品を世に送り出せば、燕三条のブランド力の向上にもつながると思うんです」と言う。
パーツはツインバードの組み立て工場に。他にもピカピカの支柱や大きなモーターが、協力工場から届いていた。これらを組み立てていく。お鉢のようなパーツはモーターに被せられた。作っていたのは扇風機だった。
燕三条の技術力を結集した扇風機「ピルエット」(8万6400円)。音が静かなのはゆっくり回るDCモーターを採用しているから。自然に近い柔らかな風が吹いてくる。最大の特徴が360度回転すること。これなら部屋のどこにいても心地のいい風が届く。
2013年、種子島宇宙センターから打ち上げられた「こうのとり4号機」。このロケットの中にツインバードの技術の結晶が搭載されていた。
それが「スターリングクーラー」と呼ばれる冷却装置。スイッチを入れるとあっという間にマイナス100度まで温度を下げられる。宇宙で採取したチリなどを保存するのに使われた。商品開発部の駒田淳は「小型のものでマイナス100度の世界を作れるのはツインバードだけだと考えています」と胸を張る。
この技術は身近な所でも既に活かされている。「スターリングクーラー」を使った業務用冷凍機「ディープフリーザー」。ワクチンなどの冷凍保存が必要な医薬品の運搬で活躍しているのだ。より安全に病院へ運べるように。ツインバードが命の現場でも一役買っていた。
~村上龍の編集後記~
「ツインバード」はメッキ工場としてスタートし、技術開発を続けて下請けから脱却し、銀のトレーなど大ヒット商品を生み出した。
だが、あるとき、家電の製造を開始する。なぜ家電を作ることができたのか、野水さんに伺うまで、「謎」だった。
培われた高度なメッキ技術、それにさまざまな工場群を擁する「燕三条」があって、はじめて可能になったのだ。だから、他は、真似ができない。
伝統という縦軸と、相互に信頼する協力企業という横軸、それらが交差するポイントを持つのは、おそらく「ツインバード」だけだろう。
<出演者略歴>
野水重明(のみずしげあき)1965年、新潟県生まれ。1989年、長岡技術科学大学大学院工学研究科修了後、ツインバード入社。2011年、代表取締役就任。
source:テレビ東京「カンブリア宮殿」