日本酒「獺祭」は、どんな常識を覆して倒産寸前から蘇ったか?

 

安倍首相がオバマ元大統領やプーチン大統領に贈ったことでも話題となった日本酒「獺祭」。今や国内のみならず海外でも大人気となっていますが、実は日本酒造りに欠かせないと言われる杜氏が不在の酒蔵・旭酒造で作られていることをご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』では著者でMBAホルダーの青山烈士さんが、杜氏がいなくとも銘酒を作ることを可能にした旭酒造の戦略と、世界的人気を得ることに成功した戦術を分析しています。

ノウハウの見える化

世界に誇る日本酒「獺祭(だっさい)」を作っている企業を分析します。

旭酒造(日本酒「獺祭」の製造・販売)

戦略ショートストーリー

美味しいお酒を楽しみたい方をターゲットに「品質味への徹底したこだわり」に支えられた「美味しい、飲みやすい」等の強みで差別化しています。

イベントなどを通して、「獺祭」の美味しさを体験してもらい、店舗での鮮度管理に努め、品質を維持することで、日本酒好きに限らず幅広い顧客の支持を得ています。

分析のポイント

ノウハウの見える化

酒蔵での酒造りは伝統的に杜氏(とうじ)と呼ばれる酒造りの最高責任者が中心となって職人の仕事として行われています。つまり、酒の味や品質は杜氏にかかっていると言っても過言ではありません。そのような業界にあって、「旭酒造」では、杜氏がいない状況での酒造りを進めています。

以前は、「旭酒造」でも杜氏の経験に頼った製造をしていたそうですが、その杜氏がいなくなってしてしまったことをきっかけに、杜氏がいない状況で酒造りをすることになったようです。

普通に考えれば、杜氏がいなくなるということは、酒造りを諦めても仕方がないような状況ですので、「旭酒造」の当時の社長である桜井博志氏が杜氏抜きで自分たちで作りたい酒を作るという決断をしたことは、すごいとしか言いようがありません。

そして、杜氏がいない酒造りを進める中でデータ管理に力を入れたことが、「獺祭」が成功するうえで大きなポイントになったと思われます。杜氏の経験に頼った酒造りでは、基本的に、酒造りのノウハウは杜氏の頭の中にあります。頭の中にあるからこそ、その杜氏抜きには酒が作れないということになるわけです。

数値で管理することで、酒造りのノウハウが見えるようになれば杜氏抜きでも酒造りができるようになり、改善点も見えるようになるため、根拠を持って品質を追求することができるようになります。

ちなみに、酒造りの工程は、

  • 洗米→蒸米→麹造り→仕込み→上槽→瓶詰

という流れで構成されており、「旭酒造」の米を水洗いする洗米の工程ではお米の重さや洗う時間、使う水の温度などを数値で管理し洗米後の米の持つ水分を0.3%以下の精度で厳密にコントロールしているそうです。お米の水分量0.3%以下というのは、恐らく試行錯誤の上で算出された基準値だと思われます。このように数値化することが、品質の維持・向上にもつながるということです。

「旭酒造」の現在の会長である桜井博志氏の口癖のひとつが「見える化していこう」とのことです。実際に「旭酒造」は、酒造りのノウハウをデータ化(見える化)することで、素人でも美味しい日本酒を作ることに成功し、日本酒は冬に仕込むものという常識を覆して四季醸造を行い、上質なお酒の大量生産を実現しました。さらに、大量生産のデータを蓄積し、改善に活用することで品質の向上に役立てています。まさに「見える化、「獺祭の成功の要因の一つであるといえるでしょう。

現在は、20カ国で親しまれている「獺祭」ですが、今後も日本を代表するお酒として、世界に広がっていくことを期待しています。

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