食品メーカー世界一~食の巨大王国ネスレ
この「キットカット」を作っているのがネスレ日本。実はネスレ、スイスに本社を置くグローバル企業で、創業は1866年。アンリ・ネスレが栄養失調に苦しむ乳幼児を救うため乳製品を開発したのが始まりだ。その後、コーヒーやお菓子をはじめ食のラインナップを拡大。今では世界191の国と地域でビジネスを展開し、現地法人は100を越える。グループの時価総額26兆4000億円は食品メーカーで世界第一位。まさに食の巨大王国なのだ。
その日本法人は兵庫県神戸市にある。実はネスレ日本も100年以上の長い歴史を持つ。創業は大正初期の1913年。従業員はおよそ2500人。グローバル企業だから外国籍の社員も多く働いている。
そのオフィスの中を犬が歩いていた。「ペットのケアのビジネスをやっている部署なので、やはりペットを持って来て一緒に仕事できるというのが普通なんじゃないかな」と言うのは、社長兼CEO、高岡浩三(57歳)だ。
ネスレは「フリスキー」「モンプチ」といったペットフード事業も手がけている。さらに「ペリエ」などのミネラルウォーターや調味料「マギーブイヨン」も。ネスレ日本は現在、20以上もの食のブランドを扱っている。
その中にはもちろん「ネスカフェ」も。今年、日本で発売50周年を迎えた「ネスカフェ・ゴールドブレンド」は、CMをきっかけに火が付き、現在、日本で最も多く飲まれているコーヒーブランドだ。
兵庫県姫路市にあるネスレ日本姫路工場に20トンコンテナが到着した。中身は全部コーヒー豆。作業員が鎌を手にして袋に切れ目を入れる。するとコーヒー豆がまるで滝のように流れ出してそのまま貯蔵庫に運ばれていく。
「ネスカフェ・ゴールドブレンド」は時代とともに進化している。50年前はインスタントコーヒーとして発売されたが、最近のものは、「レギュラー・ソリュブルコーヒー」と書いてある。実は4年前、ネスレは従来のインスタントコーヒーをやめ、レギュラー・ソリュブルコーヒー一本でいくと、宣言したのだ。
そのレギュラー・ソリュブルコーヒーの見た目はインスタントと同じ。何が違うのかというと、細かく挽いたコーヒー豆の粉末をコーヒーの抽出液に加えて、豆を包み込むようにする。そこにお湯を注ぐと包まれていた豆の粉末が顔を出すから、インスタントに比べ、淹れたての味と香りが引き立つようになるのだ。食のプロやマスコミが他社のレギュラーコーヒーと飲み比べをしたところ、6割以上が「レギュラー・ソリュブルコーヒーの方がおいしい」と回答した。
このレギュラー・ソリュブルコーヒーを世界に先駆けて導入したのがネスレ日本なのだ。
グローバル企業ネスレのジャパンミラクルとは?
社長室にはある記念品が置かれている。「150周年の式典がスイスの本社で去年ありまして、今、世界で最もイノベーションを起こしているマーケットということで選ばれたのが日本だった」(高岡)ということで贈られたものだ。100カ国以上にある現地会社の中で、日本法人が最も高い評価を受けたのだ。それはジャパンミラクルと称えられた。
高岡はそれまでマイナスだったネスレ日本の売上げの伸び率を、社長就任後、一気にプラスに大転換させた。その要因を「もっとも大切なのは大きなイノベーションを起こすことで、顧客が気がついてない問題を発見しなければいけない」と語る。
高岡がいうイノベーションとは、顧客が気付いていない問題を発見し、解決すること。その象徴ともいえるのがコーヒーマシンの「バリスタ」だ。ネスレ日本がアイデアを出し、スイス本社と共同で開発した。レギュラー・ソリュブルコーヒーを使って、一杯ごとに淹れたての味と香りが楽しめる。
「一人、二人世帯が圧倒的に多いですから、コーヒーも昔と違って家族で一緒に飲むものではなくて、一人一人バラバラに飲む時代になった。1杯だけ作るっていうのは面倒になってきたんです」(高岡)
家庭でもコーヒーを手軽に楽しめないか。その顧客の問題を「バリスタ」が解決。「ネスカフェ」の家庭向けシェアナンバーワンは確固たるものになった。
さらに「バリスタ」で新たな需要も開拓した。それはネスレ日本の弱点だったオフィス需要だ。
東京・丸の内にあるウシオ電機のオフィスの一角に「ネスカフェ」の「バリスタ」があった。わずか30円で本格的なコーヒーが味わえる。コーヒーを補充しているのはウシオ電機総務部の三宮奈津子さん。アンバサダーとして、ネスレ日本から無償提供された「バリスタ」をオフィスに設置し、同僚たちが飲んだ分の代金を集める。そのお金でコーヒーの補充を行うという仕組みだ。
5年前にスタートしたこのアンバサダーには今や35万人が登録している。バリスタがオフィスにあることで、薄れがちだった社内コミュニケーションが活発になったという。ネスレ日本は、一杯のコーヒーから新たな価値を提供しているのだ。