こういった問題もあり、逆に宅配を減らす方向に動いている企業もあります。代表的なのがピザ業界です。宅配ではなく「持ち帰り」にすると割安となるキャンペーンを行うことで、宅配にかかるコストを抑えようとしています。
ドミノ・ピザは持ち帰りの場合、1枚1,800円のピザが1,000円になるキャンペーンを行なっています。また、1枚ピザを購入するともう1枚が無料(2枚のピザのうち価格が安い方が無料)になるキャンペーンも展開しています。ピザハットやピザーラなども持ち帰りの場合に割安となるキャンペーンを行うことがあります。
このような実質的な割引となるキャンペーンを行うと利益の一部が消えてしまいます。しかし、利益の喪失よりも宅配にかかる人件費やバイクの燃料費などの削減効果の方が大きいため、ピザ業界では宅配しないで済むキャンペーンを積極的に行なっているのです。
2,000円程度のピザを無料にすると損失の方が大きいようにも思えますが、コスト構造を俯瞰してみると、一概にそうとも言いきれないことがわかります。
仮に原価率を30%とすると、追加で2,000円のピザを1枚無料にした場合、600円の原価が追加でかかることになります。ピザは複数枚を同時に仕上げることができるので、そのための作業コストの増加は限定的です。一方、宅配にかかる時間は往復で平均1時間程度と考えられますが、時給1,000円程度のアルバイトが1時間宅配するコストや燃料代を考えると、ピザ1枚を無料にするコストの方が少なくて済む可能性が高いことがわかります。
「Buy one get one free」と呼ばれる、追加で1枚を無料にするプロモーションをドミノ・ピザが行う理由はいくつかあります。お得感を演出できるので、売り上げを上げることができます。また、販売量が増加するため、仕入れコストや単位あたりの販管費(人件費など)を下げることができます。そして、先にも述べた通り、宅配コストを下げることができます。
その影響のためか、ドミノ・ピザの直近5期における売上原価率は一貫して上昇している一方、売上高販管費率は低下傾向を示しています。「Buy one get one free」を積極的に行っていった結果、原価率が上昇し、人件費削減効果などで売上高販管費率が下がっていったと考えることができます。
ただ、原材料の高騰やコスト削減努力の影響も考えられるため、一概に「Buy one get one free」の影響とは言い切れない面はあります。とはいえ、原材料の高騰だけで短期間でこれだけ売上原価率が上がることは考えづらいため、「Buy one get one free」などのキャンペーンの影響が強かったと考えられそうです。いずれにしても、宅配コストが低減することは間違いありません。
シャープのように、宅配にかかるコストがかかってでも、宅配を行うことで製品やサービスの付加価値を高めることができると考える企業がある一方、ドミノ・ピザのように、宅配にかかるコストが重荷になってきている企業もあります。時代の要請で宅配に注目が集まるなか、企業の事情で取捨選択されていくことになりそうです。
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