ネパール、そして他の国にも~途上国と日本を結ぶ
ヒマラヤの国ネパール。一人当たりのGDPはアジア最下位。この国でも山口は2009年からものづくりを始めた。
「バッグに使える素材を探したんですけど、国によって素材が違うのは当たり前。それに気づくのにも時間がかかりました」
何を作るべきか、悩みながら街を歩いていて見つけたのが、ネパール産のシルクのストールだった。数少ないネパールの伝統工芸品だ。
山口が訪ねたのは原材料の産地、標高1400メートルのサンクー村。最後は車も通れない山道を徒歩で30分、たどり着いたのは40年続く一軒の養蚕農家だった。年間4キロの繭を生産している。
今回、山口が訪れた理由は2015年のネパール大地震。都市部に大きな爪痕を残したが、山間の村の被害も大きかった。その復興状況を確かめにきたのだ。実は地震の前からネパールの養蚕農家は減り続けており、この10年で10分の1になってしまった。
村で残るのはこの一軒だけ。質の高い繭に敬意を払い、マザーハウスは相場の2倍で買い付けている。農家の女性は「国が繭を買い取っていた時は生活が苦しかった。今はマザーハウスが高く買ってくれるのでありがたいわ」と言う。
養蚕農家で作られた繭は、首都カトマンズにある提携工房に集められる。ネパール各地から集結する繭は年間4トン。それをストールにするのは地元の主婦たちだ。
まず繭を古くからある糸より機で一本の糸に紡いでいく。できた糸を、今度は機織り機を使って生地に。昔ながらのやり方で手間をかけて作るこの生地に山口は惚れ込んだ。
「よく見ると不均一なんです、縦糸も横糸も。薄い部分もあるし厚い部分もある。それが味というか温もりになっている」
地元の主婦たちも「手間と時間がかかるので、日本のお客さんが認めてくれたら、嬉しいわ」と、ここで働けることを喜んでいた。
丹精込めて作り上げたネパール産のシルクのストールは、バングラデシュ産のバッグとともにマザーハウスの店舗に並び、存在感を放っている。
ネパールだけではない。昨年末にオープンした東京都千代田区のジュエリー専門店、「ジュエリーマザーハウス」。ここにはインドネシアの銀細工のアクセサリーやスリランカ産のサファイアをあしらったリングなど、いずれも山口のオリジナルデザインの製品が並んでいる。
マザーハウスは創業以来、毎年、お客と職人を引き合わせるイベントを開いている。東京・秋葉原で開催された「サンクスイベント2017『奏』」。ステージに立ったのは、あのモルシェドだった。「私はバングラデシュでバッグの開発をしています。今日は皆さんに会えて光栄です」と挨拶する。
イベント終了後には、直接触れ合う時間も。文化も言葉も違う者同士で理解し合う。それがいい物作りにつながっていくと、山口は言う。
~村上龍の編集後記~
山口さんはいじめ、非行、柔道、そして途上国における起業と非常にユニークな人物に見える。だが実は「アンフェアに立ち向かう」というオーソドックスな価値観に貫かれている。マザーテレサやチェ・ゲバラと同じだ。
根性という言葉が苦手らしい。根性でサバイバル出来るような安易な時代状況ではない。
現場に行き、目標を発見し、その実現に必要なことは全部やる。その過程でさらに多くの重要なことに気づき信頼に支えられたネットワークが作られていく。
ユニークでも何でもない。経営者の王道を歩んでいる。
<出演者略歴>
山口絵理子(やまぐち・えりこ)1981年、埼玉県生まれ。2004年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。2006年、バングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程修了。同年、マザーハウス創業。
image by: Alastair Wallace / Shutterstock.com
source:テレビ東京「カンブリア宮殿」