安倍首相の対北強硬姿勢こそが最大の国難というこれだけの証拠

 

安倍首相にできるのは「言葉の戦争」

ところが、本当のところ安倍首相にできるのは、情けないことに、「言葉の戦争だけである。日本は単独で北朝鮮を攻撃するだけの能力を持っていない。従って、安倍首相がどんなに「あらゆる選択肢」とか強がりを言ったところで、実際に軍事的圧力をかけられるのは米国だけで、日本は安保法制を発動してその後方支援をしたりエスコートしたりするのが精一杯である。米国の大きな背中の斜め後ろに隠れながら、「お前なんかやっつけちゃうぞ。うちのお兄ちゃんは強いんだからな」と声だけ上げている駄目な弟、という風情に、向こうからは見えているのである。

他方、経済制裁について言えば、北朝鮮の貿易の9割は中国相手で、その中国は石油供給を完全に絶って北朝鮮を破滅させたり暴発させたりするほど追い込むことは、自国の安全保障上の利益に反するのでやらない。ということは、経済制裁も今がすでに「最大限」に近く、それに対して日本は(かつては北の2番目の貿易相手だったが)既に7年も前から北との貿易額はゼロであって、この面でも自ら出来ることは何もない

従って、安倍首相にとってまことに残念なことに、金正恩はほとんど日本に関心がなく、彼がいま仕掛けている切羽詰まった対米戦略ゲームの中では、安倍首相はバイプレイヤーとしてすらもカウントされていないのである。

北は「日本に向かって」撃っていない!

そうは言っても、「北朝鮮は日本に向かって度々ミサイルを発射しているではないか」と安倍首相は意気がるかもしれない。確かに先頃は北のミサイルが2度も北海道・襟裳岬の上空を通過し、Jアラートが発せられて新幹線が止まったり、その方面に急遽パトリオット迎撃ミサイルが配備されたりする騒ぎとなった。

しかし、北朝鮮がいま取り組んでいるのは、ICBMの射程を本当に北米大陸に達するところまで伸ばすための実証実験である。それを本来の飛翔コースである中国東北~東シベリア~北極海~ハドソン湾~ワシントンの方向に発射実験を行うことは不可能であり、また南東に向かって撃つとグアムの米軍基地への攻撃と誤解されるし、その他の島も散らばっていて危ない。そこで、北太平洋からハワイとロサンゼルスの中間辺りの比較的無難な海域を狙って撃っているのであり、その方向に撃つと、たまたま襟裳岬の上空を通るというだけの話で、別に「日本に向かって撃っているわけではないのである。

しかも、国際常識では航空機の安全確保に必要な領空範囲は100キロ前後までとされていて、それより上は公共的宇宙空間であって、そこをミサイルや人工衛星が通過しても騒ぐ理由は何もない。そう指摘されると、政府・防衛省は「いや、間違って日本領内に本体や部品が落下した場合に備えるのだ」とか言っているが、軌道計算不能の突然の落下物をPAC3で撃ち落とすなど、技術的に全く不可能なお伽噺である。

だからといって、北朝鮮が日本に核・ミサイルを向けることは絶対にないのかと言えば、そんなことはない。仮に米朝戦争になれば、北朝鮮は確実に朝鮮国連軍後方司令部のある横田空軍基地はじめ全ての在日米軍基地を攻撃するし、それだけでなく、米軍の後方支援活に出た自衛隊部隊や基地も攻撃する。いや、基地1つ1つでは面倒なので、化学兵器や核兵器を装着したミサイルで首都ど真ん中を撃ったり、日本海岸に面した原発群を通常爆弾のミサイルで撃ったり、向こうにはいくらでも選択肢があって、少なくともその中のいくつかはすでに実戦的なターゲッティング(目標設定)の対象となっているだろう。今年3月に北が4発の中距離ミサイルを同時発射した後に、金正恩は「今回の実験は在日米軍基地を目標にしている部隊が実施した」と言ってはばからなかった。

従っていま日本の総理大臣がやらなければならない喫緊の国難解消策は、金正恩とトランプの危なっかしい駆け引きで瓢箪から駒のように悲惨な戦争が勃発しないよう事態を沈静化することであって、それを煽って日本に戦火を招き寄せることではない。

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