平和協定交渉が北の目的
北朝鮮が歯を食いしばってでも核・ミサイルを開発・配備しようとする最大の目的は、朝鮮戦争以来70年近くにわたって怯え続けてきた米国による核恫喝を抑止し、それによって辛うじて成り立つはずの戦略的拮抗関係を背景に、38度線の休戦協定を平和協定に置き換えて朝鮮半島の国際法的な「戦争状態」を解消すると同時に、米国と国交関係を樹立して、国家消滅や体制崩壊の恐怖に苛まれることなく経済建設に励むことができる道を拓くことであって、それ以外にない。
そのことを、米国の外交・国防政策の実質を担っているティラーソン国務長官、マティス国防長官の2人、その後ろに控える共和党系外交政策エスタブリッシュメントの大御所であるキッシンジャー元国務長官らは十分に理解している。ティラーソンは「北朝鮮の政権交代を求めておらず、政権崩壊も望んでおらず、朝鮮半島の統一も求めておらず、非武装地帯の北に米軍を送ることも考えていない」という「4つのNO」路線を繰り返し表明している。ところがトランプは、北に対する「炎と憤怒」だとか「今は嵐の前の静けさだ」とか、北への軍事攻撃を示唆するような激情的な発言を繰り返している。
中国はじめ韓国、ロシアなど周辺関係国も欧州も、これを「人情刑事と強面刑事の役割分担戦略(a good cop-bad cop strategy)」(10月16日付ニューズウィーク)、つまりトランプに戦争も辞さずという恐ろしげなことを言わせ、空母やB1爆撃機を半島周辺に派遣するなどして圧力をかけるけれども、最終的には交渉による解決に落とし込んでいくのが米国の本音だと理解していて、それが世界常識である。
ところが、ただ一人そうでないのが安倍首相で、彼はトランプの戦争をも辞さずというのが米国の本音だと捉えて、そこで日米が完全に一致したことを今回の日米首脳会談で喧伝し、それに歯止めをかけようとするティラーソンやキッシンジャーを「軟弱者」としてトランプから隔離しようとさえしている。