暗殺恐れて首相が電撃辞任。レバノンでいま何が起きてるのか?

2017.11.20
 

首相辞任は反イラン強調の演出か?

サウジとイランの対立は、サウジが2年前からイエメンの内戦に介入したことで激化した。イエメンでは「アラブの春」でサレハ元大統領が辞任し、その後をハディ暫定大統領が受け継いだ。サレハ元大統領はシーア派武装組織のフーシ派と手を結んで巻き返し、サヌアを支配するまでになった。サウジはハディ暫定大統領を支援し、フーシ派への空爆を続け、フーシ派を支援するイランを非難している。

サウジは2016年1月にイランと国交を断絶した。サウジはこの時、国内少数派のシーア派指導者を処刑し、イランで反サウジデモが起こって、在テヘランのサウジ大使館が焼き討ちされた。サウジはこれに抗議して断交を決めた。

サウジのイエメン内戦への介入は、2015年に国防相になったムハンマド皇太子の決断だった。しかし、介入してもイエメン情勢は思うようにならず、泥沼状態になっている。アラブ世界の主要国といわれるサウジが、国境を接するイエメンを軍事的にコントロールできないことは、サウジの軍事力の弱さを示している。

一方のイランはイラク戦争でサダム・フセイン政権が倒れた後は、シーア派政権の後ろ盾となった。さらにシリア内戦では、自分の影響下にあるヒズボラの地上部隊をシリアに介入させ、イラクのシーア派民兵も動員して、アサド政権を支えている。

サウジとイランの対立と言ってもあくまで政治、外交的なもので、イランと直接対峙する軍事的な対立にはなりえない。湾岸諸国もイランの脅威は感じていても、軍事的な対立を求める国はない。

「イラン敵視」を掲げたトランプ大統領が就任した後、サウジの主要紙シャルクルアウサト紙に2月中旬、政治コラムニストのアブドル・ラシード氏は「アラブ諸国が反イランでトランプ政権と協力していると批判する者たちはイランとの戦争を恐れているが、そのような紛争は選択肢でもないと保証しよう。もし、トランプ大統領がイランに対して大規模な軍事行動をとることを決めても、我々はその後をついて行くことを拒否するだろう」と書いた。

このコラムは、サウジ政府や湾岸諸国がトランプ政権と友好関係を維持しようとすることを擁護する内容だが、イランとの戦争は望まないアラブ世界の本音が表れている。

サウジのムハンマド皇太子は国内で権力固めをするためにもトランプ大統領の歓心を買うため、対イラン強硬策を打ち出す必要がある。しかし、湾岸地域でイランに対して緊張を激化させる力はないし、周辺の諸国も望んでいない。そこで使われたのが、レバノンのハリリ首相ということになるだろう。

それに対して、4日夜、イエメンからリヤドに弾道ミサイルが発射され、サウジ軍が迎撃する事態となった。フーシ派による攻撃と見られる。ムハンマド皇太子はミサイルがイランから密輸されてフーシ派に渡ったと非難した。これも4日に起こったことは偶然とも思えないが、ハリリ首相に反イランを言わせても、自分には火の粉は降りかからないだろうと高をくくっていたサウジの思惑を砕くためのミサイル発射とみるのは、うがちすぎだろうか。

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