暗殺恐れて首相が電撃辞任。レバノンでいま何が起きてるのか?

2017.11.20
 

イスラエルも反イランに同調か?

気になるのは、ムハンマド皇太子のサウド家の中の権力固めがすんなりと進むかどうかであり、ハリリ氏が辞任してもレバノンではまた政治が空転するだけとしか思えない。ただし、懸念がないわけではない

16日、サウジのアラビア語のインターネット・ニュースサイト「イラフ」がイスラエルのエイゼンコット参謀総長にインタビューした。サウジのメディアがイスラエルの参謀総長と記者会見したのは初めてだ。記事の見出しは「イスラエルの参謀総長:レバノンでヒズボラと対抗する意図はない」というものだが、記事の中で「イスラエルの参謀総長は『サウジとイスラエルはイランに対抗することにおいて共通の利益がある』と語った」と書く。

一問一答の中では「ワシントンで参謀総長たちの会合があった時に、サウジの代表団の話も聞き、彼らが語ったイランに対抗しなければならないと語ったのは同感だった」というエイゼンコット参謀総長が語っている。

サウジ系メディアがイスラエルとサウジの関係構築を肯定的に書くことは異例のこと。「アラブの春」以来、言論統制が強まっているサウジで、サウジ系メディアとイスラエルの参謀総長の会見は、ムハンマド皇太子の意に反するものではないはずだ。

イスラエルが、シリアで影響力を強めるイランやヒズボラを自国への脅威ととらえているのは明らかである。このような米国-イスラエル―サウジの「反イラン同盟」が、今後、どのような動きにつながるかは予断を許さない。

image by: Omer Hindawi / Shutterstock.com

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり)

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)。最新刊は『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。ツイッターは @kawakami_yasu

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