「会計検査院が調査する」という首相発言を受けて参議院が検査院に調査を要請したとはいえ、安倍首相は検査院にあるていどの「忖度」を期待していたに違いない。だが、さすがに検査院も独立性を自ら否定するようなことはしなかった。
国有地の売却価格が妥当であったかどうかの調査はまぎれもなく会計検査院の所管である。録音データに記録された財務省理財局や近畿財務局の担当者の発言から、過去に例のない国有地大バーゲンをやったことが推測されるが、それを裏づけるためにも、調査権限を持つ会計検査院の判断は重要な意味を持つ。世間の注目を浴びている以上、迂闊なことはできない。
検査院は
- 国有地の貸付、売却の経緯
- 価格算定手続の適正性
- 行政文書の管理状況
─について調査を進めた。当然、注目されたのは「価格算定手続きの適正性」である。
周知の通り、政府は小学校建設用地に廃棄物が埋まっている欠陥(瑕疵)があることを認め、その撤去費分を土地売却価格から差し引くという理由で、値引きをおこなった。
だがそもそも、1銭の値引きも必要なかったのでははないのか。そういう議論がある。この点については後述するとして、検査院の報告書がどういう見解を示したかをまず、確認しておこう。
報告書にこういう記述がある。
(財務省の依頼を受けた)大阪航空局は試掘した5か所のうち1か所の深度3.8メートルに廃棄物混合土が確認された結果をもって敷地の面積4,887平方メートルに対して深度3.8メートルを一律に適用して処分量を算定した。
すなわち、敷地全体にわたり地中3.8メートルの深さに47.1%の割合でごみが混入しているとして、ごみの量を1万9,520トン、撤去費用を約8億2,000万円と見積もったのだ。
これについて検査院の報告書は「対象範囲を妥当とする確証は得られなかった。廃棄物混合土を3.8mの深度で確認したという裏付けは確認できなかった」と算定方法の適正性を否定した。校舎建設のため杭打ちした深さ9.9mまで廃棄物が埋まっていたという見方についても根拠はないとした。
検査院は当初、値引き額が最大6億円過大だったと発表するつもりだったようだ。それをとりやめた背景について、官邸、あるいは財務省の圧力を指摘する向きもあるが、これについては定かではない。
会計検査院としては、かなり踏み込んだ検査報告といえよう。さきの衆議院選では獲得議席のわりに安倍政権への批判が強いことも明瞭になった。ポスト安倍をにらんだ動きも出ており、霞ヶ関の空気が変わりつつあるのかもしれない。
だが、官邸はもちろん、財務省など関連省庁は、これまでの無理な国会答弁との一貫性を保つため、「価格交渉」と「金額交渉」は違うなど、説明にならない説明を今国会でも繰り返している。