突然の「エルサレム首都」発言でトランプは誰を試したかったのか

2017.12.11
 

今回の発言を受け、イスラエルとの闘争を繰り返してきたパレスチナの組織「ハマス」指導者、イスマイル・ハニーヤ氏は、「インティファーダ(イスラエルに対する民衆蜂起)」を呼びかけた。シリアやイランからの支援も途絶えたハマスには、かつてのような自ら組織的な蜂起を指揮する影響力は大きくない。しかし、トランプ氏の発言は、押し殺していたパレスチナ人の感情を大きく逆なでした。第一次インティファーダ(1987年から1993年頃)が民衆の自発的な抵抗から始まったように、いま起きているデモや抗議活動がさらに拡大化する懸念もある。

イスラエルのユダヤ人もまた、この発言を歓迎しているとはいえない。私が電話やメールで話を聞いたイスラエル人たちの多くは、「トランプは余計なことを言った」という意味のことを語った。また、イスラエル軍戦車部隊の予備役大尉は、「トランプはおれたちに戦争をさせるつもりか」と憤った。

トランプ氏の発言がパレスチナ以外の中東地域において及ぼす影響は、今のところ見えない。しかし、この「首都認定発言が、過激な思想を持つイスラム教徒がパレスチナ問題と過激思想をリンクさせ、欧米などでテロを行う口実にする可能性も否めない。組織としての「イスラム国」は事実上壊滅したとはいえ、思想としてその存在までが消えたとはいえない。新たに現れる過激思想の肉付けとして、この発言が利用されることもありうる。

また、なによりもこの発言は、イスラエルによる占領下で様々な不自由を強いられながら生きるパレスチナの人々の尊厳をさらに貶める行為であることは間違いがない。

トランプ氏は「首都認定」と同じ記者会見の中で、「米国は双方が受け入れ可能な和平合意の仲介に全力を尽くす」と述べた。しかし、彼の考える和平とは、圧倒的な力による「受け入れがたい和平を一方的に弱者に押し付けるものにすぎない。この姿勢は、彼の外交政策を見ると一貫している。

CNNの報道によると、パレスチナではデモ隊と治安部隊の衝突で2人が死亡空爆でも2人が犠牲になった。実際に銃撃や空爆を行ったのはイスラエル治安部隊や軍であるにせよ、その生命が奪われた原因はトランプ氏の発言によるものだ。

他者を屈服させることで得られる和平があると信じているとしたら、知らずに新たな混乱の火種をまいていることになる。その火種がいかに危険であったかは、のちにトランプ氏が身を持って経験することになるかもしれない。

藤原亮司

藤原亮司(ふじわら・りょうじ)

ジャーナリスト/ジャパンプレス所属。1967年、大阪府生まれ。1998年からパレスチナ問題の取材を続けている。その他シリア内戦、コソボ、レバノン、アフガニスタン、イラク、ヨルダン、トルコ、ウクライナなどにおいて、紛争や難民問題を取材。国内では在日コリアン、東日本大震災や原発被害を取材している。著者に『ガザの空の下 それでも明日は来るし人は生きる』(dZERO刊)。

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