車の中で眠そうにする兄弟。兄の方は弟の右腕、上腕のあたりを大丈夫とさすっていた。
阿部 「蹴られたか? 男に」
頷く兄弟の様子を見て、阿部は病院に向かうようにと言った。
病院で診断書をもらい、医師に事情を説明して写真を撮ってもらったりすればこれ自体が虐待を表す証拠になるし、怪我をしてれば、暴行罪が成立するから、警察の介入が見込めるわけだ。
夫 「自分、地元で、友達が病院やってるんです。そこに行きます」
阿部 「いいですね。じゃあ、議員さんとか警察とか知り合いいませんか?」
夫 「警察は地元にはいませんが、両方いますよ」
阿部 「尚更いい。市役所はどうです?」
夫 「同級生がいます」
阿部 「全員、今日集められますか?」
夫 「集めます」
夫の友人である医師に事情を話すと、彼はすぐに診察を始めた。夫の電話でこの病院に同級生らが集まり、軽いミーティングが始まった。叔母から母親には外泊の許可が出ていると連絡が入り、この間にいかに動くかが最重要項目として話し合われた。
少年 「大丈夫かな」
阿部 「大丈夫だろ。とりあえず、アイス買いに行こうぜ」
少年 「アイス?」
阿部 「アイス。腹減ってきたし」
阿部は診察の終わった弟の方も連れて、道路の向かいにあるコンビニに兄弟と歩いた。全員分のアイスを袋に入れて、兄弟の分をその場で出して、「食っていいぞ」と手渡した。弟の方はアイスに夢中で、はしゃいでいる。
阿部 「で? 君のお母さんがあの男を切れるかどうかが問題なんだよ。その辺、どうだ」
少年 「うん、僕にもわかんない。」
阿部 「結構、ダメな人多いんだよな」
少年 「…その時はその時だよ」
阿部 「その時はその時か。お前、随分大人だな。アイスは子供のくせに」
阿部は病院に戻り、アイスを大人たちにも配り、役割の確認をした。
医師が言うには、古い痣が複数箇所あり、腕は打撲していた。骨折はないが、男に蹴られたことは明らかで、通報してもよい件だと判断したそうだ。議員は児童相談所に問い合わせをし、警察は被害の通報があれば動くという段取りができ、さらに集まってきた友人らにも役割ができた。阿部は彼らのモチベーションをさらに上げるために、得られた証拠類の説明を、病院の待合室の一角を使い行った。一部暴走しそうな者に、暴走しないように注意し、あとは地元の大人たちに任せる事にした。