一方、中国勢力の侵食が台湾以上に問題となっているのが、オーストラリアです。オーストラリアでは、中国政府が特定団体への献金や寄付することで、間接的にオーストラリアの政治に関与しているという懸念が高まっていました。そこで、オーストラリアのタンブル首相は、12月5日に新たな「反スパイ法」や「外国人干渉防止法」の制定を発表しました。
タンブル首相は「法制では特定の国を対象とするつもりはない」と言ったものの、同時に「中国がオーストラリア内政に影響力を振るおうとしている」とも述べており、中国を意識したものであることは明らかです。
これに対して中国側は反発して、「タンブル首相の発言は中豪関係を損なうものだ」と批判しました。しかしタンブル首相は「内政干渉だ」と批判し、毛沢東がかつて言ったとされる「中国人よ立ち上がれ」をもじって、「オーストラリア人よ、立ち上がれ」と述べました。このことは、中国勢力の浸透問題が切実な台湾でも大きく報じられています。
タンブル首相といえば、もともと親中派として知られていました。長男は北京留学の経験があり、そこで元中国共産党幹部の娘と知り合い、結婚した人物とされています。つまり、タンブル首相の息子の義理の父が、中国共産党の元幹部だというのです(長男は否定していますが)。
● オーストラリア新首相、親族に中国共産党元幹部? 「中国寄り」に国内から懸念 通信網構築に中国企業の参入前向き
じっさい、タンブル首相は2015年の政権発足当時から、ダーウィン港の中国企業への99年間の租借を決定したり、治安当局の反対にもかかわらず、国内のブロードバンド網の構築に中国企業を参入させようとするなど、かなり中国に寛容な人物だとされてきました。
しかし、ここ数年、オーストラリアでは巨額のチャイナマネーによる、中国のオーストラリア支配への懸念が急速に高まっていました。今年、メディアの共同調査によって、少なくとも5人の中国系人物が政界への巨額献金や賄賂を通じて、オーストラリアの内政に干渉してきたことが明らかになりました。そしてその背景には中国共産党の浸透工作があることが暴露されています。
● 中国共産党によるオーストラリア政府への全面浸透 その手口とは
オーストラリアはこれまで、中国からの投資移民を積極的に受け入れてきました。その結果、中国人の数が激増し、大きな勢力となりつつあります。オーストラリアの大学では、中国政府の立場と相容れない教材を使った教師が中国人学生から批判され、謝罪に追い込まれるといった「事件」も起きています。
● 中国人学生に「謝罪」する豪の大学教師たち…台湾や領土表記で「不快な思い」と批判、ネットで拡散
また今年11月には、オーストラリア人研究者が中国の内政について書いた『Silent Invasion(静かな侵入)』という書籍が、中国政府からの訴訟を恐れて出版が見合わされるということもありました。中国人や中国企業を無警戒に受け入れた結果、オーストラリア人の主権が脅かされる事態が拡大しているのです。
● 中国当局の反発恐れ、政治研究書の出版見合わせ オーストラリア