「キレる老人」が増えているのは本当か? 精神科医が徹底解説

 

物忘れだけが症状ではない

ただ、この「性格変化」が、認知症のサインであることも少なくない。認知症の症状と言えば、物忘れや日時がわからなくなるなどの症状を思いつくが、そればかりではない。認知症には、アルツハイマー型認知症、脳血管型認知症などあるが、もっとも「自分の異常性」に気がつかない、あるいは病識がないタイプは、前頭側頭型認知症である。物忘れよりも、病識低下が主症状と言ってもよい。

たとえば前頭葉だけが萎縮する前頭側頭型認知症は、頭部MRIなどで前頭葉のはっきりした脳萎縮が確認されれば、診断が可能である。しかし前頭側頭型認知症ではないにせよ、「キレる高齢者」は、前頭葉機能が低下していると見なしてわたしは構わないと思う。一昔前ののんびりした時代ならば耐えられた前頭葉が、慌ただしい現代社会の動きに耐えられず、「キレる」という形で悲鳴を上げているのかもしれない。

しかし、ここで考えてほしい。かりに認知症の患者が「自分の異常性」に対する認識、つまり病識を持ち続けたならば、どんなに辛酸な老後になるだろうか。自分が少しずつ日常生活に必要な機能を失い続け、家族や他人に迷惑をかけていく。それは、子供の病気のように回復することは決してなく、自分らしさを失う恐怖と絶望があるのみである。認知症の人たちは、「自分の異常性に気がつかないことも余生を考える上でも非常に大切なことではないだろうか。

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精神科医の西多昌規です。一般書やブログ、SNSには書きづらい精神科医療とメンタルヘルスの裏の実情を紹介します。医学研究や医学部教育の問題点にも切り込みます。

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