妻の裏切り
しかし、母がいよいよ危ないという時に、Aさんは妻から離婚を切り出される。
もはや母自ら養子を解消することはできない状態であり、離婚となれば、Aさん名義の資産についても財産分与となり、母が死ねば、相続として受けることができる分の資産は全て妻のものとなる。
Aさんは、どこに相談しても無理だと言われ、何か証拠があればいいのですがという逃げ口上を聞いて、探偵のところにきたのだ。
確かにここから一矢報いるための作戦を立てることはできるが、それが成功するかは保証できない。まずは、Aさんの奥さんがどんな人物かを知るところの調査から始まり、日常行動から交友関係を調べ上げて行くところがスタートラインになる。
類似するような相談は無数にあるが、ここから依頼に発展するのはおよそ6割といったところで、もはや手遅れとなってから泣きついてくるように依頼をしようとするのが1割くらいいる。
もうダメだろうというときは、私は依頼を受けない。それこそ、依頼主にとっては無駄な費用であり、我々にとっては無駄な労力だからだ。
調査を有効に活用
私がこのAさんの事例で依頼を受けようと考えたのは、Aさんの話からであった。
もちろん、夫婦のいざこざもあり、相当に恨言も強い主観も話には入っていたが、客観的な事実だけを追えば、Aさんの妻は、法律のほの字も、税のぜの字も知らないであろうという環境にあり、それでも、この離婚話の段では、自信満々に何が取れるかというところまで交渉が進められていた。
つまり、ここには入れ知恵、ブレーンとなる人物がいると推測するのが一般の猜疑心というものだろう。
調査では、Aさんの妻の行動を中心にその交友関係を洗った。
Aさんの妻は、離婚話をしたと同時に別居をしており、その住所はAさんに伝えていなかったが、調べればすぐに判明する。こうした調査のことを我々探偵は「宅割」と呼ぶが、離婚話と同時に別居したケースにおいては、「宅割」と同時に「不貞(ふてい・浮気のこと)」が判明することが多い。
このケースにおいても、「宅割」をしたところ、同居する異性がいることが判明した。ただ、即時に同居と判断するわけにいかないので、調査を続けて、一定期間同居している証拠を粛々と集めた。
「別居してしまえば、結婚生活は破綻する」という誤った知識がどこで広がったのか不明だが、Aさんの妻はそう認識していたようで、まるで夫婦のような生活を別居先でしていた。
いわゆる「婚姻破綻」は、夫婦としての関係性が破綻しているとみなす状況のことを指すが、一方的に別居しても、簡単には破綻とはみなされない。近年、この別居期間が短くなって5年ほど別居すれば、破綻したとみなされるという情報もあるが、これは方程式的な問題ではなくて、その別居の内容も重要な判断材料になる。
詳細を調べていくと、浮気相手はテニスサークルの仲間で、不動産業を細々と営むバツイチ男性であった。不動産業には「宅建」などの法律を学び試験をパスしなければならないハードルがあるから、この男性は法律とは無縁の一般人よりは法に明るいし、税務にも明るい。
この男性はサークルの飲み会で、Aさんの妻が養子になっていて、Aさんの母が痴呆症を発症して施設におり、体調が極めて悪くて入退院を繰り返しているという情報を得て、アドバイスをするという名目で近付いた。
そうしているうちに男女の関係となり、多くある不動産資産を運用して一財産儲けようと画策した。あわよくば、Aさんと離婚させれば、Aさん名義の資産の半分は財産分与で手にすることもできると色気を出したわけだ。
Aさんの妻の計画は露呈するが・・・
計画が調査により露呈し、浮気相手としてこの男性はAさんから損害賠償請求を提訴された。Aさんの妻の方もAさんから賠償請求を受ける羽目になった。
ここまでくれば、あとは弁護士さんの腕次第という仕事になるが、泥仕合にしていくと、資金源が薄い方が結局不利になっていく。
現段階では結果は出ていないが、一矢報いるという目的は達成できたと考えていいだろう。
しかし、このようなケースは確かに多いが、Aさんの妻が浮気をしていなかったら、別居をしなかったら、Aさんの母が亡くなってしまっていたら、という「もしも」の要素が一つでもあれば、調査をしても無意味だし、財産は相当に持っていかれることになるだろう。