実態は「沿岸海軍」
Q:まず、北朝鮮の海軍力について概観してください。
小川:「アメリカ政府の分析によれば、北朝鮮海軍の兵力は2017年現在、次のようになっています」
【北朝鮮海軍が保有する艦艇】(出典:欧米の資料など)
潜水艦92隻
フリゲート艦3隻
コルベット艦6隻
ミサイル艇43隻
大型巡視艇158隻
高速魚雷艇103隻
哨戒艦艇334隻以上
輸送艦艇10隻
沿岸防衛ミサイル発射台2台
ホバークラフト130隻
掃海艇23隻
小型艇8隻
測量船4隻
小川:「潜水艦はもちろん通常動力のものだけで、潜水艇と呼んだほうがよい小型潜水艦を数多く含んでいます。巡洋艦(Cruiser)、駆逐艦(Destroyer)といった大型水上艦艇も保有していません」
「『巡視艇』は、外洋に出ていく『巡視船』とは違い、近海を見張る小型船です。巡視船のうち大型のものは、海上保安庁の『しきしま型巡視船』が全長150メートル・基準排水量6500トンですから、全長161 メートル・基準排水量7250トンの海上自衛隊『こんごう型護衛艦』(日本が導入した最初のイージス艦で、一般的な分類では駆逐艦)と、さほど変わらない大きさです。海上保安庁の『巡視艇』は、35メートル型/30メートル型/23メートル型/20メートル型があり、大きなものでも総トン数100トンちょっと。ですから、『大型巡視艇』といっても、たかが知れています。北朝鮮の哨戒艦艇には、漁船に毛の生えたような船も含まれるでしょう。ミサイル艇と魚雷艇も小型艇です」
「ホバークラフト130隻だけは、異彩を放っています。というのは、弱小海軍国にしては数が異様に多いのです。米海軍は70隻以上のホバークラフトを運用しており、強襲揚陸艦や輸送揚陸艦に1~4隻ずつ積んでいます。海上自衛隊も、米軍と同じホバークラフト(LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇)を6隻持っており、おおすみ型輸送艦に2隻搭載できます。北朝鮮は、そんな米海軍の倍近く、海自の20倍以上のホバークラフトを保有しているのです。もちろん特殊部隊用で、北朝鮮は多数の特殊部隊を瞬時に韓国に上陸させることができるぞ、といいたいわけです」
「米政府の艦艇リストからも、北朝鮮の海軍は主として沿岸防備・警備が目的で、外洋での運用を考えていないことがわかります。持っているのは小型艦艇ばかりですから、海を越えて他国を攻めることなどできません。闇にまぎれて韓国に特殊部隊を上陸させるくらいが関の山なのです」
「しかも、多くの船が古く、整備不良もあり、経済制裁を食らって石油不足ですから、充分な行動能力はありません。米政府が数えたリストに含まれていても、港に係留されていてサビだらけ、やっと浮いているだけ、という船もあるでしょう。だから、北朝鮮の海軍を日本が恐れる必要はありません。ただし、北朝鮮漁船を見ると、こんなボロ船でよく外洋に出てきたものだ、という例がありますね。各国の常識では沿岸用の船でも、外洋に出てきて何か悪さするかもしれない、という点は想定しておくべきでしょう」