旧式のロメオ級潜水艦以外は潜水艇
Q:古くてポンコツの北朝鮮潜水艦は、どんな陣容ですか?
小川:「旧ソ連のロメオ級潜水艦を23隻ほど持っています。潜水艦らしいのは、これだけです。ロメオ級はNATOコードネームで、ソ連海軍の計画名は633型潜水艦です。水中排水量1830トン、全長76.6メートル、速力水上15/水中13ノット、最大深度300メートル、乗員54人、魚雷発射管8門、兵装は魚雷14発または機雷28個。ソ連、中国、北朝鮮が1957~1984年に建造し、中国の100隻近くはすべて退役しました。もちろんロシア海軍も使っていません」
●海軍第167軍部隊を視察する金正恩第1書記(Huffington Post)
※2014年6月16日に朝鮮中央通信が配信した写真10枚。緑色に塗られているのがロメオ級潜水艦。艦橋に乗ったり潜望鏡を覗いたりと、金正恩氏は満足げな様子。
小川:「日本が太平洋戦争末期に建造した伊二百一型潜水艦は、水中排水量1450トン、全長79メートル、速力水上15.8/水中19ノット、航続距離5800海里(1万キロ以上、ただし水上を14ノットで航行した場合)、乗員31人(計画)、魚雷発射管4門、兵装は魚雷10発です。これを見れば一目瞭然、ロメオ級は第二次世界大戦末期の潜水艦と変わらない代物だとおわかりでしょう」
「ついでながら、日本が大戦中に3隻配備した伊四百型潜水艦は、水中排水量6560トン、全長122メートル、速力水上18.7/水中6.5ノット、航続距離3万7500海里(水上を14ノットで航行した場合、地球1周半)、乗員157人、魚雷発射管8門、兵装は魚雷20発に14cm砲1門、特殊攻撃機『晴嵐』3機搭載、安全潜航深度100メートルというお化けのような巨大潜水艦(潜水空母)でした。第二次世界大戦中の潜水艦としては世界最大で、通常動力型潜水艦としては2012年まで世界最大でした」
「北朝鮮はほかに、サンオ級潜水艦を約40隻保有しています。これは水中排水量277トン、全長35.5メートル、速力水上7.6/水中8.8ノット、行動半径250海里(463キロ)、乗員20人(ほかに水中工作員6~10人)、魚雷発射管2または4門(2または4発)の小型潜水艦です。潜水艇と呼ぶ資料もあります。米軍がつけたサンオとは、朝鮮語でサメのことです。就役は1991年からで、沿岸の哨戒、情報収集、工作活動(特殊部隊員の潜入/回収)などを主な任務としています」
小川:「ユーゴ級潜水艇は北朝鮮で開発・生産されたもので、ユーゴスラビアで設計されたという説から、そう呼ばれています。水中排水量110トン、全長20メートル、乗員4人(ほかに水中工作員数人)で、工作員潜入/回収用の潜水艇です。1960年代に配備が始まり、現在でも20隻ほど保有しているようです」
●ユーゴ型潜水艇(「日本周辺国の軍事兵器」サイト)
「ヨノ級潜水艇(またはヨンオ級潜水艇)は、北朝鮮が建造し、北朝鮮やイランが保有している新型の特殊潜水艇です。水中排水量123トン、長さ29メートル、速力水上11/水中8ノット、乗員32人、魚雷発射管2門。1965年に配備が始まり、36隻が建造され、北朝鮮は現在10隻ほどを運用しているようです。ヨノは朝鮮語で鮭のこと。イランは2007~12年にカディール級潜水艇を21隻配備しましたが、これはヨノ級潜水艇と同型です。北朝鮮が3隻輸出した後、イランがライセンス生産したものでしょう」
「2010年3月26日、韓国海軍のコルベット艦『天安』の沈没事件が起こると、韓国海軍は原因を北朝鮮のCHT-02D重魚雷による攻撃と断定、さらにヨノ級潜水艇がそれを発射した可能性がある、としました。北朝鮮側は関与を否定しています」
「さて、ここまででロメオ級潜水艦約23隻、サンオ級潜水艦(潜水艇)約40隻、ユーゴ級潜水艇約20隻、ヨノ級潜水艇10隻ですから、合計して93隻です。これ以外の潜水艦は持っていないと思ってよいでしょう。以上のうちたしかに『潜水艦』と呼べるのは70年以上前の第二次大戦レベル、残りは『潜水艇』レベルです。北朝鮮の潜水艦は、隣国である韓国の艦艇を攻撃する、または韓国に工作員を上陸させる以外に、できることはほとんどないのです」(聞き手と構成・坂本 衛)
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