性的暴行疑惑のアベ友ジャーナリストを見逃した警察官僚の出世欲

 

被害を訴える伊藤詩織さんが納得できないのは当然だ。

伊藤さんはこの事件に関する著書『ブラックボックス』のなかで、山口氏を逮捕する予定だった2015年6月8日、ドイツ・ベルリン滞在中に捜査員A氏から電話があった時のことを詳述している。

もちろん逮捕の連絡だろうと思い、電話に出ると、A氏はとても暗い声で私の名前を呼んだ。「伊藤さん、実は、逮捕できませんでした…私の力不足で、本当にごめんなさい」(中略)「ストップを掛けたのは警視庁のトップです」(中略)「全然納得がいきません」と私が繰り返すと、A氏は「私もです」と言った。それでもA氏は、自分の目で山口氏を確認しようと、目の前を通過するところを見届けたという。…A氏は逮捕が止められた理由について、何も聞かされていないのだという。

A氏とて、なにも立件の難しい性暴力事件にかかわりたくはなかったかもしれない。しかし、性暴力を許せない伊藤さんの強い思いを無視できなかったのだろう。伊藤、山口両人が訪れた寿司屋やタクシーの運転手への聞き込み、ホテルの防犯カメラの映像から、伊藤さんが合意のうえでホテルに入ったのではないという確証を得たからこそ、逮捕状を請求し、交付されたのだ。

防犯カメラの映像は有力な証拠だ。山口氏はタクシーから降り、上半身を後部座席に入れて伊藤さんを引きずり出す。歩くこともできず抱えられて運ばれる伊藤さんの姿を、ホテルのベルボーイが見ている。ホテルのロビーを横切る映像には、足が地についていない前のめりの伊藤さんを山口氏がひきずってエレベーターの方向に消えていく光景がとらえられている。

足が地についていない大人の女性をエレベーターに乗せ部屋まで連れて行くのはかなり骨の折れることに違いない。無理にひきずっているのか、かばうように優しく体を支えているのか、実際にその映像を見れば二人の関係や心模様が感じとれるだろう。

捜査員のA氏は、この映像を見て初めて「事件性を認めたようだ」と伊藤さんは書く。もちろん、彼女の主観であるが、その後、A氏が捜査を進め、逮捕状をとるところまで山口氏を追い詰めたことは事実である。

逮捕を中止した理由を伊藤さんに説明したかという野党議員の問いに、警察庁は「経過がどうだったかについてはお答えを差し控えさせていただいている」と言うばかり。

野党議員たちによるヒアリングでは、この防犯カメラ映像を検察審査会に提出したかどうかも問題になった。

周知の通り、検察審査会は、不起訴とされた案件について異議申し立てがあった場合、くじ引きソフトで選ばれた一般市民がメンバーとなって、検察の決定の妥当性を審査する機関だ。

当然のことながら、事件の内容の説明、報告の仕方や、提示する証拠の選び方によって、シロウトの審査員たちを一定の結論に導くことは容易である。問題なのは、その説明をするのが審査される側の検察であり、事務局が、検察と癒着しやすい最高裁事務総局ということだ。

合意の有無についての有力な判断材料となる防犯カメラ映像を、審査員が見るのと見ないのとでは、印象が大きく異なってくることは言うまでもない。

これについて最高裁事務総局は「検察官が検察審査会にどんな資料を提出したかわからない」と、あいかわらず検察審査会をブラックボックス化し存在意義を毀損しかねない発言を繰り返している。

逮捕状執行をやめさせる決断を下すさい、警視庁捜査一課の幹部や刑事部長がこの防犯カメラ映像を見ていたかは疑わしい。おそらく見ていなかっただろう。

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