3月5日午前、北京で開幕した中国の第13回全国人民代表大会。開幕直前になって「2期10年」という国家主席の任期の廃止が発表されるなど、例年以上に全世界が注目する今回の全人代、新聞各紙はどのように報じたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。
中国の全人代開幕を新聞各紙はどう伝えたか
ラインナップ
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「正恩氏、韓国特使と会談」
《読売》…「習氏『一極体制』確立へ」
《毎日》…「韓国特使、正恩氏と会談か」
《東京》…「『プロ』消え 人脈たどり」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「習新時代 強める権力」
《読売》…「中国軍拡 米揺さぶる」
《毎日》…「「習氏が核心」徹底」
《東京》…「米との軍拡競争激化」
ハドル
4紙とも解説面に「中国」を取り上げています。これを題材にすることにしましょう。
満場の拍手という演出
【朝日】は1面中央の短い記事から2面の解説記事「時時刻刻」、7面、11面にも関連記事、14面社説。見出しから。
1面
- 習指導部、改憲案を提示
- 全人代開幕 主席の任期制限撤廃へ
2面
- 習新時代 強める権力
- 任期撤廃案 満場の拍手
- 駆け込み発表 疑問の声
- 集団指導体制 大きく改変
7面
- 不動産投機抑制
- 格差是正へ立法
- 中国、成長率目標据え置き
11面
- 中国軍 進む近代化
- 国防費8.1%増 兵力30万人減完了
- 習氏目指す「賢人政治」モデル
14面
- 中国国防費 不透明さが脅威深める(社説)
uttiiの眼
基本的な情報の中で、1面記事が特に強調しているのは、習近平氏の独裁が強化されると同時に、共産党による指導を「中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴である」(第1条)と位置付け、政府や軍に対して持つ共産党の優位性をいっそう明確化したという点。
しかし、2面「時時刻刻」では、必ずしも盤石ではない習政権の内実を見ようとしている。リードは「共産党の内外に渦巻く反対や不安の声を『圧倒的な賛成』の演出で覆い隠しながら、習近平国家主席の『新時代』が幕を開ける」とし、記事本文には、「国家主席の任期撤廃」は先月25日に突然発表されたもので、《朝日》も「反対派に議論する時間を与えないためではないか」という北京外交筋の話を伝えている。習氏の政治理念を憲法に盛り込むことについては1月の党中央委員会で発表されていたのだが、「主席任期撤廃」の件は、全人代開幕ギリギリになって公表された。そして、25日の発表直前、党長老の子弟らの摘発や共青団出身幹部の失脚が発表されていて、「長老や共青団を震え上がらせているのは、裏を返せばそれだけ抵抗があるということだ」(歴史学者の章立凡氏)との見方も。
また、《朝日》は「新中国の歴史を政治システムで見れば、毛沢東とトウ小平の時代に大きく分けられる」としたうえで、習近平新体制に懸念を示している。独裁と個人崇拝で大混乱に至った毛沢東時代を否定して生まれ、その後40年にわたって続いたトウ小平の集団指導体制、そしてその体制を保障してきた82年憲法。習氏はこれらを改変し、国家主席の任期を撤廃して、さらに自らの元に権力を集中させようとしている。氏ははたして、毛沢東時代の轍を踏むことにならないのだろうか。
記事が、習近平独裁、共産党独裁に批判的な分、「専門家」を使ってバランスを取ったのか、11面国際面の記事の最後に「考論」が付けられ、早稲田大学現代中国研究所長の天児慧氏の話が載っている。しかし、「習近平氏がめざす政治体制の改革は、西洋の政治文明への挑戦だ。習氏は中国独自の政治の仕組みをどうつくるかを本気で考えており、国家主席の任期制限の廃止はその現象の1つに過ぎない。描くのは『賢人政治』だろう」という文章にはちょっと吃驚した。日本の中国研究者の中では既に、習近平氏に対する「個人崇拝」が始まっているのだろうか。