アルコール性ケトアシドーシス
長期大量のアルコール摂取はアルコール性ケトアシドーシスという病気を起こします。糖質やタンパク質を含むような通常の食事を摂らない痩せた飲酒者によくみられます。毎日、朝から飲酒して、食事を摂らない生活が最も危険です。また、糖質とタンパク質を制限をして脂肪はたくさん摂るようなケトン体ダイエットをしながら、大量飲酒を続けていても起こりやすくなります。
症状をみてみましょう。典型的には、アルコール性ケトアシドーシスを発症すると、吐き気、嘔吐、腹痛をきたします。食あたりなどの急性胃腸炎の症状に似ていますね。長期大量飲酒をしていることを医師に話さないと、アルコール性ケトアシドーシスの診断が見逃される可能性があります。
アルコール性ケトアシドーシスは通常の血液検査ではわかりません。血液と尿中のケトン体という代謝産物が増えますが、通常のケトン体検査では引っかからないことがあるからです。その理由は、通常のケトン体検査はアセト酢酸を検出するものであり、アルコール性ケトアシドーシスでは、ケトン体のうちベータヒドロキシ酪酸が増えるからです。
ベータヒドロキシ酪酸を直接測定しないと、アルコール性ケトアシドーシスは、病院でも見逃される可能性があるのです。一方で、血液ガス検査では原因不明の血液のアシドースシスとされ、間違った診断や治療が行われることもあります。長期大量飲酒をしていることを医師に話すことは大切です。
アルコールによる低リン血症
アルコール依存症の患者さんではよく血液中のリンの濃度が下がります。原因は主に2つあります。1つはリンの経口摂取が下がることです。リンを多く含む食物には、肉類、魚類、ナッツ類、豆類そして乳製品などがあります。アルコール依存症の患者さんでは、これらの食品を取ることが少なくなるためにリンの経口摂取量が下がります。血液中のリンの濃度が下がるもう一つの原因は、リンの尿中への排泄が増えることです。その機序としては、アルコールによる腎臓の尿細管障害などが挙げられます。
リンは体でのエネルギー代謝で重要な役割を果たしています。エネルギーを貯蔵する重要な分子にATPがあり、その分子の中でリン酸が結合することによって蓄えられています。リンが不足するとATPも不足しますので、エネルギーの供給が妨げられます。そのため全身の筋力低下などをきたします。
アルコール依存症のある患者で低リン血症があると横紋筋融解症が起きることがあります。これは、筋肉の崩壊が起きる現象です。ひどい筋肉痛や血尿などをきたします。アルコール依存症ではないケースでは、低リン血症があっても横紋筋融解症を起こすことはほとんどありません。そのため、横紋筋融解症をきたす機序には、アルコールによる直接の筋肉の障害もあるだろうと考えられています。
文献
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