金正恩の訪中をテレビで知った安倍首相の失態と底が見えた外交力

 

1.非核化?

日本では「非核化」と言うと「北朝鮮の非核化」すなわち「北朝鮮に核を放棄させること」だと思っている人が多く、たぶん安倍首相もその一人ではないかと思われる。が、この言葉の国際標準に基づく正常な理解は「朝鮮半島の非核化」で、北朝鮮も韓国も中国も必ずそういう言い方をするし、米国も(一部の右翼やネオコンを別にすれば)公式にはそうである。その意味するところは、米国が朝鮮戦争以来の北に対する核攻撃の恫喝を止め、韓国はウラン濃縮施設と再処理施設を保有せずに核武装の権利を放棄し、そうすれば北も同様にするということである。

この「朝鮮半島の非核化」がクローズアップしたのは、冷戦終結に伴って米ブッシュ父政権が全世界の米軍基地から戦術核兵器を撤収することを宣言し、その一環として在韓米空軍が保有していた航空機搭載の核爆弾も撤去したからである。この時米国は、北朝鮮が在韓米軍基地を査察することを認めるとまで発表した。

それを受けて、盧武鉉と金正日の両政権間にも対話の機運が生じ、91年12月には南北間の和解と不可侵、交流と経済協力のための25条からなる包括的な「南北基本合意書」と、それに付帯する「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」とが結ばれ、共に92年2月に発効した。双方の総理が署名したその宣言の全文は次の通り。

南と北は朝鮮半島を非核化することで、核戦争の危機を除去し、わが国の平和と平和統一に有利な条件と環境を造成し、アジアと世界の平和と安全に貢献するために、次のように宣言する。

 

  1. 南と北は核兵器の試験、製造、生産、受付、保有、貯蔵、配備、使用を行わない。
  2. 南と北は核エネルギーを、ただ平和的な目的にのみ利用する。
  3. 南と北は核再処理施設とウラン濃縮施設を保有しない。
  4. 南と北は朝鮮半島の非核化を検証するため相手側が選定し、双方が合意する対象たちに対し、南北核統制共同委員会が規定する手続きと方法で査察を実施する。
  5. 南と北はこの共同宣言の履行のために、共同宣言の発効後一か月の間、南北核統制共同委員会を構成・運営する。
  6. この共同宣言は南と北がそれぞれ、発効に必要な手続きを経て、その文本を交換した日から効力を発生させる。

あくまで南北の共同宣言であるから、文面に米国が出てこないのは当たり前だが、この宣言を出すよう韓国政府に働きかけ、文案まで示して押しつけたのは米国だったと、「東亜日報」は解説した(04年9月16日付電子版)。つまり、この時ブッシュ政権は、全般的な冷戦終結に伴い朝鮮半島の冷戦状態も一気に解消すべく、米韓朝3者が核をなくすことで合意するという意味での半島非核化を実現しようとした。これが「非核化」ということの原義である。

また、94年10月の米朝の「枠組み合意」では、第3条「双方は核の無い朝鮮半島の平和と安全のために共に努力する」の中で、

  1. 米国は北朝鮮に対し、核兵器を脅威として用いないこと、ならびに使用しないことに関する公式な保障を提供する。
  2. 北朝鮮は朝鮮半島の非核化共同宣言を履行するための措置を一貫性を持って取り進める。
  3. 本合意文が対話を促進する雰囲気を造成していくことの一助となるため、北朝鮮は南北対話に着手する。

と、上記の非核化共同宣言を受けて、朝米韓の3者が半島非核化に取り組むべき事が謳われている。

もちろんこれらは、北の裏切り行為によって反故にされてしまうのだが、だからといって全く無駄だった訳ではなく、こうしたことの積み重ねの上に今日の状況が生まれているという経緯を無視してはならない。実際、韓国政府は未だに91年の非核化共同宣言を破棄せずに維持している。

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