金正恩の訪中をテレビで知った安倍首相の失態と底が見えた外交力

 

4.日米一体?

安倍首相はずっと、「対話のための対話は不要」であって「最大限の圧力をかけ続ける」という「圧力のための圧力」(?)路線で「日米は100%一致している」と言ってきた。

対話のための対話とは何であるか定義不明のままでは、この言い方は単に対話を拒否するという意味にしか聞こえない。まあ恐らく本人の主観的意図としては、北がまずもって圧力に耐えかねて「ご免なさい」と膝を屈して核放棄を宣言すれば対話に応じないでもないということなのだろうが、これには何の成算もないばかりか、圧力をかけ続けてどこで相手が暴発するかの計算が成り立っておらず、全く以て戦略の体をなしていない

米国は確かに、安倍首相にそう言われれば「最大限の圧力をかけ続ける」ことに同意するが、しかし一度たりとも「対話は不要と宣言したことはない。安倍首相がそのことを分かっていなくて「100%一致」と言ったのか、分かっていて国民を騙そうとしたのかは不明だが、いずれにせよ、この「100%一致」が「最大限の圧力をかけ続ける」には掛かっているが「対話のための対話は不要」には掛かっていないという厳粛なる事実を指摘してきたのは、たぶん本誌だけである。

だから、このことを巡って「日米一体であったことなど一度もなかった。なのに、就任前のトランプに50万円のゴルフクラブを土産に会いに行くことから始まって、米日両国でゴルフ2回、事あるごとに電話会談数十回、娘のイヴァンカの事業への過剰寄付等々、まるで新米の営業マンのベッタベタ接待術総動員のようなへつらいぶりで親密さを演出してきたことの反動が、ここへきて一挙に出てきたのだと言える。

トランプが3月22日、対日貿易赤字への不満を露わにして「安倍首相と話をすると、ほほ笑んでいる。『こんなに長い間、米国を出し抜くことができたとは信じられない』という笑みだ。こんな時代はもう終わりだ」と語ったことは、安倍首相が夢見た「日米一体幻想の破裂を意味していると言える。

5.拉致?

それで度を失った安倍首相が、急ぎ日米首脳会談を設定して、何を言いに行くのかと思えば「拉致問題を忘れないでくれ」とお願いするのだという。拉致はもちろん日本にとって重大関心事ではあるけれども、米国はもちろん韓国や中国にとってはそうではなく、従って、今、北の核をどうするかで命懸けの勝負を賭けようとしている時に、余計なことを持ち込まないでくれ、それは日朝の2国間関係の中で自分で解決してくれと言われてしまうに決まっている。

そもそも、2002年9月の小泉純一郎首相の訪中による日朝平壌宣言に基づいてその1カ月後に5人の拉致被害者が“一時帰国”した際に、その5人を返さないという政府決定を主導して平壌宣言を破壊し、日朝間の交渉パイプを切断したのは安倍官房副長官であり、それを前後の見境ない右翼から「勇気ある決断」とか褒めそやされて勘違いしたのが「外交に強い安倍という幻想の始まりである。

実際には、拉致問題1つとっても、それから16年を経て何一つ進展しておらず、そのことを家族会や支援団体から糾弾され始めている。にも関わらず、自分でそれを打開する方策は何も打ち出せないまま、日米首脳会談でトランプに「何とかしてくれ」と頼みに行くなど、正気の沙汰ではない。

すべてを反共・反中・反北・反韓という時代錯誤の偏光レンズを通じてしか世の中を見ていないので、安倍首相はますます世界が見えなくなり、外交的な立ち往生に陥っている。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年4月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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