日本に見切りをつけたトランプ氏と「ゴルフ外交」やってる場合か

 

「日米は100%一致している」という決まり文句

こんな風に、安倍首相のトランプ政権に対する外交は間が抜けていることの連続である。

トランプがダメでも日本が先頭を切ってTPPを守って「TPP 11」として推進すれば、いずれ米国が戻ってくるという絵図もすでに破綻しつつあって、それどころかトランプは「通商法301条」「スーパー301条」「不公正貿易慣行」「輸出自主規制」等々、30~40年前に使われて今では死語となっていた通商ゾンビ用語を総復活させて振り回し、さらにはそれを韓国には適用せずに日本には平気で適用するという、著しく非友好的な態度を剥き出しにした。

その時にトランプが3月23日に吐いた言葉は、たぶん安倍首相を眠れないほど苦しめたのではないか。いろいろな訳が出回ったので、私なりに訳し直すと、こうだ。

私は日本の安倍首相らと会談することになるだろう。彼はいい奴だし友達だが、〔その時〕彼らの顔にはほんの少しの微笑しか浮かばないだろう。その微笑とは『こんなにも長い間、米国に対する〔通商上の〕有利を貪ってこられたのは信じられないくらいだ』という微笑だ。しかしそういう日々はもう終わる。

 

(I’ll talk to Prime Minister Abe of Japan and others, great guy,friend of mine, and there will be a little smile on their face and the smile is: ‘I can’t believe we’ve been able to take advantage of the United States for so long.’So those daysare over.)

どうせトランプはその場の思いつきでしゃべっているので、いちいち気にすることはないとは思うけれども、しかしこの口ぶりは、少なくとも「100%一致している人はもちろん、ある程度は好意を持っている人に対して言える台詞ではない。だからフロリダでは、「ゴルフなどやっている場合ではない」との認識の下、安全保障でも通商でも、どうやってトランプの気紛れと真剣勝負するか、戦略戦術から言葉遣いまでを真剣に練り上げて臨むべきであるけれども、そういう感覚は安倍首相には絶無である。

日米が「100%一致している」とは、安倍首相が対北朝鮮戦略に関して言い続けてきたことで、それは北に対する「対話のための対話」は拒絶して、米国を盟主として日韓がその両脇を固めた「米日韓反共軍事同盟という超時代錯誤の図式で、戦争をも辞さない覚悟で「最大限の圧力」をかけ続けるという、つまるところ「圧力のための圧力路線にほかならなかった。しかし、その方向性で日米が「100%一致している」というのは虚偽で、米国の一部冷戦勢力やネオコン残党などはそうかもしれないが、全部がそれで染まっているわけではない。だからトランプは、南北が手を携えて米国を「和平」プロセスに引き込もうとした時に即座にそれに対応して、圧力と対話のダブルトラック路線を採ってきたのであって、最初から100%一致していることなどあり得なかった

で、こうなってしまうと、安倍首相は日米が「100%一致している」と言い続けてきたことについて、国民に対して誤判断を認めて謝罪し、そこで気を新たにしてこのようにしに北東アジアの平和と日本の安全を実現して参りますという構想を示さなければならないはずだが、彼にはその発想も力量も何もない

その外交的・戦略的白痴状態のまま、何とかして朝鮮半島の和平プロセスの落伍者ではなく、何らかの意味ある存在であることを内外に示すために、安倍首相が思いついたことはと言えば、トランプとゴルフをして日米首脳がゴルフ趣味において「100%一致している」ことを天下に知らしめることでしかなかった。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年4月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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