「無礼講」では済まない?酒好きと酒乱の違いを精神科医が解説

酒好きと酒乱
 

元TOKIOの山口達也氏が犯した強制わいせつ事件では、残されたメンバーの記者会見で、松岡氏が「正直、僕らは依存症だと思ってました」と語り、アルコール依存症というものに注目が集まりました。 今回のメルマガ「精神科医・西多昌規が明かすメンタルヘルスの深層」では、著者で精神科医の西多昌規さんが、精神科医の目線で「酒好きと酒乱の違い」を解説しています。

無礼講はどこまで許されるのか?

元TOKIOの山口達也氏が犯した強制わいせつ事件は、アルコール依存症が背景にあったことはほぼ間違いないようだ。テレビやネットでも、コメントのクオリティの差は大きいあるにせよ、専門家の意見が出ない日はないくらいだ。

アルコール依存症の論考については、現代における第一人者である松本俊彦先生のわかりやすく治療につながる解説がいちばん参考になる。検索すれば書籍やインターネット記事などたくさん見つかるが、松本先生の主張を要約すれば、依存症=快楽追求のなれの果て、ではなく、苦痛を和らげるためにすがるのが依存の病態であり、刑罰よりも治療、依存となるものをシャットアウトするより、他者からのサポートの方が重要であるというものだ。まったく賛成である。

芸能人の依存症といえば、ほとんどは覚せい剤であった。以前は徹底的なメディアによるバッシングという社会的刑罰だったが、最近では興味本位のバッシングよりも依存症の専門的治療が望ましいという冷静な意見も、ネット上では増えてきている。

しかし注意したいのは、依存症という困難な病気に苦しんでいるので、可愛そうだからすべての行為が免罪されていい、とする風潮である。当事者が超人気グループのイケメンアイドルでは、こういった受け止め方が出てくるのもありうることだ。とはいえ、酔っ払いの問題行動は、すべて「無礼講で済ませていいのだろうか

それには、酔っぱらい、専門用語で「酩酊という定義をはっきりさせておく必要がある。酩酊には、精神医学的にはちゃんとした分類がある。 酩酊にも医学的分類がある。

酩酊にも医学的分類がある

「酩酊」とは、アルコールの急性薬理作用のことである。酩酊は、大きく分けて下記のような二種類の酩酊がある。

1. 単純酩酊 アルコールの血中濃度上昇に伴う一般的な反応

2. 異常酩酊 情緒不安定で衝動的、攻撃的となる異常な反応

単純酩酊は、アルコール血中濃度の上昇に伴う反応である。はじめは気分が明るくなる、多弁になるといったよく見られる症状だが、濃度が上がってくると千鳥足や呂律が回らなくなるなど危なっかしいことになる。さらに血中濃度が上がれば、意識がなくなりいわゆる「急性アルコール中毒」と言われる症状となる。花見や宴会シーズンに救急外来に運ばれるのは、このパターンだ。

酒癖が悪い異常酩酊は、これはあまり知られていない知識だが、二種類に分類される。複雑酩酊と病的酩酊だ。

1. 単純酩酊 アルコールの血中濃度上昇に伴う一般的な反応

2. 異常酩酊 情緒不安定で衝動的、攻撃的となる異常な反応

2−1. 複雑酩酊 酒癖が悪い、酒乱

2−2. 病的酩酊 少量の飲酒で非常に攻撃的・情緒不安定。健忘もみられる。

複雑酩酊は、「酒癖が悪い」「酒乱」のことである。高いアルコール濃度(要は飲み過ぎ)による酩酊による興奮が非常に長く続くが、その行動は周囲から見てもある程度は了解できるというものだ。この「了解できる」というのが、なんとも曖昧な基準である。もしも周囲がイエスマンばかりならば、セクハラやわいせつ行為を周囲が「了解」してしまう状況もあるので、定義として用いるにしては客観性を欠く。

病的酩酊も「酒癖が悪い」「酒乱」なのだが、複雑酩酊との決定的な違いは、ほんの少しだけのアルコールで「酒乱」になってしまう点だ。しかも周囲から見ても「これはありえんだろ」すなわち「了解不能」な行動を起こしてしまう。しかも始末の悪いことに、意識障害が著明まったく覚えていないという特徴がある

社会的な事件の場合は、責任能力の問題が生じてくる。たとえば病的酩酊での問題行動では、本人に責任能力があるとしてよいのだろうか。アルコール依存症の責任問題について、次回取り上げる。

image by: shutterstock

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精神科医の西多昌規です。一般書やブログ、SNSには書きづらい精神科医療とメンタルヘルスの裏の実情を紹介します。医学研究や医学部教育の問題点にも切り込みます。

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