失望の米朝共同声明。アメリカ本国でも真っ二つのトランプ評価

 

中国は「朝鮮半島の非核化」という言葉を使って米国を牽制していますが、これは韓国に駐留している米国軍の核兵器の撤去をも含む話で、私は米国はこれに(段階的ではあるものの)応じると思います。中東と違って、朝鮮半島には石油利権もないし、極東には(米国で多大なロビー活動をしている)イスラエルのような存在もないので、朝鮮半島の緊張さえ解消することが出来れば、極東の軍縮は米国政府にとっても理にかなった話です。

さらに、トランプ大統領は、北朝鮮の復興に必要な資金は韓国と日本に出させる、と明言しているので、これにも注意が必要です。交渉が下手な日本政府が、「朝鮮半島の平和のため」という名目で、(大した見返りもなく)何兆円ものお金を約束させられてしまう可能性が大きいと私は見ています。

つまり、簡単にまとめると、トランプ大統領が目指している決着は以下のようなものになります。

  1. 朝鮮戦争の正式な終結
  2. 北朝鮮による核兵器の破棄
  3. 韓国に在留している米軍の縮小
  4. 韓国と日本による北朝鮮の経済支援
  5. トランプ大統領によるノーベル平和賞の受賞

1.はすぐにでもできる話ですが、2.と3.は方向性だけを決めて、時間をかけて交渉・実施していくことになると思います。特に2.は、上に書いたように「金正恩が安心して核を放棄できる環境」を整えることが必須です。

4.は当然、韓国は本気なので、日本だけが出さないというのは国際世論的に許されない状況に(上手に)追い込まれる可能性が高いと思います。

本来ならば、そこで拉致問題の解決、日本企業による北朝鮮内でのレアメタルの採掘権の取得などを条件にした上での支援にしたいところですが、そんな難しい交渉が、米国を交えた4国協議の場で日本政府に出来るとは思えないのが、とても懸念です。

特に韓国と北朝鮮は、2つの独立した国のままで(つまり金正恩の独占体制を維持したままで)、EUのような自由貿易経済圏を作ろうとするでしょうから、そこに日本がどこまで絡めるか(もしくは絡みたいか)がとても重要な話になると思います。

韓国と北朝鮮が自由貿易経済圏を作り、人や物の行き来が自由に出来るようになれば、北朝鮮が(独裁体制の維持のために)行なっている情報統制や言論統制が効かなくなるので、長い目で見れば、良い方向に(民主的な方向に向かうと私は期待しています。

しかし、こんな動きを見ていると、辺野古のサンゴ礁の埋め立てが時代遅れでとても馬鹿げていることのように私には思えます。平和交渉と経済連携を通じて、国と国との緊張を解消し、韓国と同様に日本の在留米軍も縮小する方向に持って行く(その結果、辺野古の飛行場は不要になる)のが、今の日本政府が取るべき戦略なのではないでしょうか。

 

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年6月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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