「津波の高さの想定を下げろ」原発事故を招いた東電副社長の一言

 

2011年3月に発生した福島第一原発事故。あれから7年以上の月日が経っていますが、未だ故郷の土を踏めずにいる人々が多数います。その責任はどこの誰が負うべきなのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、事故を巡り東京電力の旧経営陣が訴えられた裁判の内容を詳細に分析し、責任の所在を判断する基準を提示しています。

大津波「長期評価」を歪めた内閣府、対策を怠った東電

福島第一原発事故をめぐる経営者の刑事責任を問う東電裁判で、10月16日の第30回公判から旧経営陣に対する被告人質問がはじまった。

原発の安全対策を担当していたのが、最初に登場した武藤栄元副社長だ。

「想定外だった」と主張し続けてきた東電だが、この裁判のなかで、政府の専門部会による「長期評価」にもとづき、最大15.7メートルの津波が福島の原発を襲う可能性があると、事故の3年前に東電内部で試算されていたことが判明している。

なのに、対策が講じられることはなく、武藤元副社長は「土木学会に検討を依頼せよ」と部下に指示していた。いわば「検討という名の先送りだ。

検察官役の指定弁護士にこの点を問われた武藤氏は「長期評価の信頼性は専門家でも意見がばらつき、報告した担当者から信頼性がないと説明を受けた」と語った。つまり「長期評価を重視しなかったことを明らかにしたわけである。

最大15.7メートルの津波を想定して沖合に防潮堤を建設する場合、数百億円規模の工事費がかかり、工期も4年と見込まれた。

絶対安全ということはありえないが、こういう試算が出た以上、最大限の対策を立てるのが、原子力をあずかる会社の責務であろう。経営陣のソロバン勘定で安全対策がないがしろにされたと疑われても仕方がない。

武藤氏に津波の計算結果を報告した社員の1人は会社の対応について「津波対策を進めていくと思っていたので予想外で力が抜けた」と法廷で証言した。

「長期評価」を重視する社員もいたのに、経営陣はあえて軽んじた。なぜ、その差が生まれるのか。見過ごせないのは、「長期評価に対する政府の姿勢だ。

「長期評価」の信頼度を低める画策が「原発ムラと内閣府の間で進められた形跡がある。

今年5月9日の第11回公判。「長期評価」をまとめた政府の地震調査研究推進本部・長期評価部会の部会長、島崎邦彦氏(東京大学地震研究所教授)が証言した内容は衝撃的だった。

島崎氏の部会は原発事故の9年前(2002年)、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域のどこでも、マグニチュード8.2前後の地震が発生する可能性があり、その確率が今後30年以内に20%程度」という「長期評価」を公表していた。

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