くら寿司の空回り。炎上動画よりも深刻な「減収減益」本当の原因

 

アルバイト店員による「不適切動画」で大きなダメージを受けたくら寿司。3月1日にはハンバーガー販売を開始し起死回生をかけますが客離れに歯止めがかからず、今期の減収減益が確実視されています。なぜ同社はここまで追い詰められてしまったのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、くら寿司凋落の原因を、現地に直接足を運んで取材を重ねて分析しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

ハンバーガーに消費者がNO。空回りの「くら寿司」、今期の減収減益確実か

「無添くら寿司」チェーンを展開する、くらコーポレーションの売上が苦戦している。

3月には、1日に回転寿司業界初となるハンバーガーの発売、18日に大阪の観光名所・通天閣の目の前に新世界通天閣店をオープンと話題性十分の攻めの経営を行った。にもかかわらず、既存店売上高は前年同月比5.3%減全店売上高も前年同月比1.4%減、となっており、パッとしなかった。

2018年度(18年11月~19年10月)の開店から14ヶ月を経過した月別既存店売上高推移を見ていると、全ての月で前年を下回っている

全店売上高も、昨年12月に前年同月を3.5%上回った以外は、どの月も前年を下回っており、このまま行けば今期は減収減益の結果に終わる。なお、国内店舗数はこの5ヶ月間で424店から430店まで6店舗増加している。店が増えているにもかかわらず、売上が下がっており、集客力が明らかに落ちている

確かに「くら寿司」の元アルバイト店員が、2月に公開したバイト炎上動画の影響もあるだろう。元アルバイト店員は何を思ったのか、まな板に載った寿司ネタにさばく前の生魚の切り身をゴミ箱にいきなり投げ込み、そこから取り出してまな板に再度載せ直し、包丁を使って寿司ネタにスライス。シャリと合わせて寿司に仕上げ、回転レーンに流したのである。顧客が食べてしまった可能性が高いのではないかと、思わせる内容だった。同種の他社のバカッター類に比べても、不潔感不快感が突出し、たいへんなイメージダウンをもたらした。

けれども、同社は当該アルバイト店員を解雇するだけでなく、裁判も辞さない厳しい態度で対処しており、世間も同種の事件が起こらないようにする抑止効果に期待し、むしろ好意的に見ているのではないだろうか。

それ以前から売上が下降線をたどっていたのも事実で、バイト炎上動画のみに不振の原因を求めるのも違っている。ちなみに、くらコーポレーションの2018年10月期(17年度)の連結売上高は1,325億円(前年同期比7.9%増)、経常利益76億6,000万円(同6.1%増)。その前の17年10月期(16年度)は連結売上高1,227億7,000万円(前年同期比8.0%増)、経常利益(同7.0%増)であった。これまで順調だっただけに、今期に入ってからの不振が際立っている。どうして、ファミリー層に高い人気を誇り、成長を続けてきた「くら寿司」は、変調をきたしてしまったのだろうか。

「くら寿司」と言えば、回転寿司業界に先駆けて、サイドメニューに注力し、いわゆるファミレス化の最先端を走ってきた。

食のニーズが多様化し、家族といえども一緒に食事に行って、注文しているメニューがバラバラという時代に、寿司オンリーの店では限界にぶち当たる。また、魚価の高騰傾向から、単価を高く取れるサイドメニューでしっかり売上と利益を確保することで100円寿司が維持できる

回転寿司の成長を妨げていた、寿司を食べたくない人をいかに来させるか、100円の価格をいかに維持するか。この2つの課題に果敢にチャレンジしたのがくら寿司」のサイドメニュー強化で、「スシロー」、「はま寿司」、「かっぱ寿司」などといったチェーンも続いた。

しかしその結果として、目を引くサイドメニューばかりに世間の注目が集まってしまい、その弊害として、特に「くら寿司」は寿司のレベルアップを決して疎かにしているわけではないのだが近年はそう見られがちな傾向が強くなっている。実際「くら寿司」の近年放映された記憶に残るTVのCMは、うな丼、牛丼、豚丼、カレー、かき氷、スパらってぃ(カルボナーラ風ラーメン)、ハンバーガーなど、寿司とは関係ないものばかりである。それぞれの商品は確かに面白く、寿司屋がこんなメニューも出すのかと意外性があり、カレー用のライスにシャリを使うなど、「くら寿司ならではの工夫が凝らされている

だからこそ、次々とヒットして「くら寿司」の売り上げを押し上げてきたのだが、昨夏に出して、発売2カ月で100万杯を突破したわた雪のような食感が特徴のかき氷「夢のふわ雪」シリーズ以来、目ぼしいサイドメニューのヒットがなかった。そろそろ弾切れの感がある。

昨年7月には、創業以来41年間守ってきたシャリに使う酢を、3種の黒酢をブレンドした「健康黒酢」に変更。寿司の大きな改良で、シャリの旨味が増したはずなのだが、集客上あまり効果があったようには見えない

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