世界的エンジニアが苦言。日本を叩き潰すMMT理論のバラマキ政策

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ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授らが提唱するや、またたく間に支持者が急増したMMT(現代貨幣理論)。国内でもれいわ新選組の山本太郎代表をはじめその有効性を評価する声は多く聞かれますが、はたしてこの理論は「正しい」ものなのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者で世界的エンジニアの中島聡さんが、MMTを「なんちゃって経済理論」とした上で、同理論に基づくバラマキ政策は、「一時しのぎの人気取りでしかない」とバッサリ斬っています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年12月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

MMTは打ち出の小槌か?

最近、経済記事などで、MMTModern Monetary Policy)と呼ばれるものを目にした人が多いと思います。もっともらしい名前が付いているので、まともな経済理論だと思い込んでいる人がいますが、これは、赤字国債を発行し続けているにも関わらず、インフレが起こらない日本を見て、米国の民主党議員が「米国も同じようなバラマキ政策をしよう!」と考えた結果、作り出した「なんちゃって経済理論」です。

そもそも、各国に政府から独立した機関として中央銀行が作られたのは、政権が票集めのために無尽蔵に通貨を発行することを禁止するためです。政府は基本的には税収を利用して国を運営せねばならず、将来の投資のために一時的に税収より多いお金が必要な場合のみ、国債の発行という形で民間からお金を借りることが許されていました

中央銀行は、それとは独立して、物価の乱高下を避けるために、通貨の発行量を国債の売買により調整する役割を担っています。経済が過熱して物価が上がり始めると、手持ちの国債を売る(売りオペ)ことにより通貨の流通量を減らして(金利を上げて)物価の上昇を抑えます。逆に経済が低迷してくると、国債を市場から買い取る(買いオペ)により通貨の流通量を増やして(金利を下げて)、景気に刺激を与えます。

多くの中央銀行は、物価上昇率(インフレ)のターゲットを2%程度に定め、そこを境に、「売りオペ」や「買いオペ」を行って来ました。

しかし、ここ20年ほど(日本では30年)、この仕組みがうまく機能しなくなっています。中央銀行がいくら通貨の流通量を増やしても、物価が上昇しないのです。

特に、日本やヨーロッパでは、金利はゼロどころかマイナスになっており、これ以上通貨の流通量を増やしても、市場は何の反応も起こさない「流動性の罠」と呼ばれる状況に陥っています。

なぜ、こんな状況(通貨の流通量を増やしても物価が上がらない)になってしまったのかに関しては、諸説がありますが、私は、グローバリゼーションとIT革命だと考えています。

90年以降、企業は工場やコールセンターを人件費の安い海外に移すことを積極的に進めて来ました。その結果、製品やサービスの原価が下がり、それが物価上昇を抑制する働きをして来たのです。

IT革命は、様々なものの効率を上げています。Amazonはオンラインで様々なものを売ることにより成長した企業ですが、実店舗を持たず、値段の比較を容易にするオンライン・ショッピングの成長は、やはり物価に下向きの圧力を与えているのです。

FacebookやGoogleは、テクノロジーを活用して、様々なサービスを無料で提供していますが、これもやはり物価に下向きの圧力を与えます。

つまり、グローバリゼーションとITという二つの革命が、物価に下向きの圧力を与えている結果、各国の中央銀行が大量に国債を購入しているにも関わらず、物価が上昇しない、という今の状況を作り出しているのです。

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