東京五輪というドロ船から逃げ始めた聖火リレー芸能人の出口戦略

reizei20210316
 

かつて原発事故対応の最前線となっていた福島県のJヴィレッジを皮切りに、3月25日から7月23日までの予定で全国を回る東京五輪聖火リレー。しかしながら五輪自体については、その開催すら危ぶむ声が多いというのが現状です。開会まで残り約3ヶ月となりましたが、誰がいつ、どのような判断を下すのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、利害関係、新型コロナ、責任問題という「3つのファクター」を勘案しつつ、五輪開催の可否について考察しています。

五輪開催の可否、3つのファクターを考える

菅内閣だけでなく、実行委も、IOCも含めて五輪をやるのか、やらないのか、決めていないとしてどんな検討がされているのか、一向に話が見えません。勿論、彼等なりに情報を管理していて、本当のことは喋らないと堅く決意しているからでしょう。とにかく現時点では大事なことは話さない、態度の問題としてそうしているのは分かります。

何故かということも、薄々は分かります。利害が錯綜しているからです。五輪を強行開催する、その場合に無観客でやる、海外観光客は入れない、いやこうなったら中止だ、いやいやパリに譲ってもらって2024年に東京でやる、色々な選択肢があるわけですが、「決定のプロセスで曖昧に態度表明をする」と、表明されたパターンにおいて損する人、トクする人が出て大騒ぎになり、決定がひっくり返されてズブズブになる危険があります。

そうなると、下手に選択肢を提示したり、見当の方向をオープンにしたりすると、結論が出なくなるわけで、だったらダンマリを決め込むしかない、そんな態度です。コミュ力のない政治家が陥るパターンに他なりません。いずれにしても、開催の可否による利害調整の難しさという話が1つ目の「ファクターA」です。

もう1つは、実際に開催できるかどうかですが、これは今回の五輪に関してはコロナの感染拡大の動向によります。これを「ファクターB」としておきましょう。

更にもう1つ、全く別の問題があります。それは「誰がどのように」して「開催」もしくは「延期」または「中止」を決めるのかという問題です。つまり誰の責任で決めるのか、あるいは言い出すのかといった問題、これを「ファクターC」としておきましょう。

このABCは複雑に絡んでいます。

まず、利害についての「ファクターA」を考えてみましょう。思いつくままに整理してみますが、結構複雑ではあります。

(Aの1)ハコモノは造ってしまったので維持費以外はこれ以上の流出はないが、仮に東京五輪が「マボロシ」になってしまうと、その建造物のブランド的な価値は下がるかもしれない。

(Aの2)無観客にするか、海外観光客を入れるかという問題は、宿泊業界と航空業界に関しては大きな問題。但し、関係者としては、断腸の思いで既に「ゼロ」は織り込み済みという感触も。

(Aの3)選手にしてみれば、2020にベストコンディションを持っていくようにキャリアを設計、少なくとも2021にそれを維持する努力をしているので、中止や延期の負荷は大。

(Aの4)スポンサーや芸能人などで、五輪をブランド価値向上のチャンスに考えていたグループは、世論の反対が多数派になる中で「出口戦略」を考慮中であろう。少なくとも聖火リレーの辞退は、ブッキングの問題ではなくて、アンチ五輪、アンチコロナの世論を敵に回したくない中での真剣な判断か。

(Aの5)実行委が公言しているが、マンションとして売却済みの選手村は、1年入居を待ってもらっており、これ以上の延期は購入者との民事上の係争を生んで、キャッシュフローの上で双方が不幸になる模様。

(Aの6)中止や再延期の場合のIOCの資金繰りは相当に苦しいはず。その場合の放映権契約がどうなっているかにもよるが、中止、延期の場合の「保証金」などで保険ではカバーされていない部分について、どういったカネの流れになるのかは依然として不透明。

(Aの7)IOCとケンカになった場合に、招致活動スキャンダルの更なる暴露など、日本が何かを人質に取られている可能性はゼロではないかも。

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