ミャンマーの犠牲者増加が、なぜ中国を利することになるのか?

shutterstock_1923394190
 

ミャンマーでは国軍が弾圧姿勢を強め、3月中に市民の死者が500人を超える事態となっています。日本政府もついに国軍を非難するコメントを発出するに至りましたが、ミャンマー軍の姿勢を転換させるには、中国の動向が鍵を握りそうです。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、中国にとってミャンマーがいかに戦略的に重要な位置にあるかを解説。死者数が天安門事件の公称死者数を超えたことで、軍部へ働きかけをする可能性が高まったと注目しています。

ミャンマーの犠牲者増を中国は利用するか

ミャンマーの軍事クーデターから2カ月。軍の強行策はエスカレートするばかりで、人権団体によると死者は30日現在、500人以上にのぼっています。

米国はミャンマーとの貿易と投資の協定に基づく協力関係を停止し、ミャンマー軍に関係する企業の在米資産を凍結しました。及び腰だった日本政府も3月29日、加藤勝信官房長官が市民弾圧を厳しく非難するとコメント、経済関係の見直しを示唆するに到りました。今後、国際社会がどのような形でミャンマー軍の姿勢を転換させるのかに関心が集まっています。

なかでも中国の動向は注目の的です。中国は今年1月、王毅外相を派遣し、ミャンマーとの関係強化の姿勢を強調しました。昨年1月には、習近平国家主席もミャンマーを公式訪問しています。

中国側は、与党NLD(国民民主連盟)を率いるアウンサンスーチー国家顧問側だけでなく、軍のトップであるミン・アウン・フライン司令官とも等距離外交を進めてきました。総選挙で惨敗した軍側に対しても、中国製武器の売却に便宜を図り、中国の影響力を維持してきた訳です。ミャンマーという国は、それほど中国にとって重要な戦略的位置にあります。

そのうち最も重視してきたのはオイルルートの確保です。中国は中東産原油の大部分をタンカーで輸入していますが、南シナ海の領有権をめぐって米国などと緊張が高まった場合、海上輸送ルートは使えなくなります。航路を封鎖される以前に、西側諸国からチャーターしているタンカーの多くが提供されなくなる可能性があるからです。

そうした事態に備える意味もあって、中国はミャンマーからパイプラインで雲南省などに原油と天然ガスを供給するルートを建設してきました。タンカー輸送が1バレル1ドルほどなのに対し、パイプラインは2倍以上のコストがかかりますが、喉元を締め上げられるような事態にあっては、パイプラインは重要な意味を持ちます。

このパイプラインのリスクは、軍だけでなくミャンマー政府とも対立するカチン族など少数民族による破壊活動です。中国としては、アウンサンスーチー側の政府が事態を安定させるのに期待する一方、場合によっては軍の強行策でパイプラインの安全を図ることが必要で、嫌でも、二股膏薬のように見えようとも、両者との関係を維持せざるを得ないのです。

そこで今回の軍の強硬姿勢による多数の犠牲者の問題ですが、中国はこれをどのように自国の利益に活用するか思案していると思われます。ミャンマーの犠牲者は、既に中国が公表している天安門事件の319人を上回っています。これは、ミャンマーで犠牲者が増えるほどに、人権問題や民主化弾圧について中国を非難する場合にも、天安門事件が大きく取り上げられることが減っていくことを意味しています。

中国の立場に立つとき、天安門事件の公称の犠牲者数を出し、その後の中国の国際的な立場を教訓とするよう、ミャンマー軍部に働きかけ、強行策を転換させて国際的な評価を手にし、同時にミャンマー軍部への影響力を強化することもひとつの選択でしょう。中国がどの段階で行動を起こすのか、政治のリアリズムの立場から冷静な視線が注がれています。(小川和久)

image by:Robert Bociaga Olk Bon / Shutterstock.com

小川和久この著者の記事一覧

地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEWSを疑え! 』

【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

print
いま読まれてます

  • ミャンマーの犠牲者増加が、なぜ中国を利することになるのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け