五輪も市長選も大失敗。菅義偉首相「最悪の退陣劇」を招いた7つの誤算

takano20210906
 

先日掲載の「菅首相が辞任の意向。GoTo復活、酒提供容認でも批判殺到で万策尽きた?」でもお伝えしたとおり、9月3日、突如首相辞任の意向を発表した菅義偉氏。ギリギリまで自らの延命策を模索していた首相がまさに「電撃退陣」を決意するに至った背景には、どのような事情があるのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、その裏に「7つの誤算」があったとして、各々について詳しく解説。一連の菅氏の動きを「史上最悪の退陣劇」と強く批判しつつ、現役首相が総裁選不出馬という道を選ばざるを得なかった理由を推測しています。

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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年9月6日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

オロオロ、ジタバタ、コロコロの挙句にプッツン/7つの誤算が重なった末の菅義偉首相の頓死

先週の本誌は「菅義偉政権の終わりが『見えてきた』」と題し「菅プッツン」の可能性があることを指摘したが、まさにそのようになってしまった。

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それにしても、政権末期の首相がこれほどまでにオロオロ、ジタバタ、コロコロを繰り返した挙句にプッツンしてすべてを投げ出してしまうという醜態を演じた例はなく、まさに史上最悪の退陣劇となった。もちろん菅自身の素質が何より問題であるけれども、こういう人物を1年前にほぼ満場一致の無競争でリーダーに選んでおきながらそれを支えられなかった自民党の劣化、それを含めてこの国の衰弱ぶりは目を覆いたくなるほどである。

横浜市長選での惨敗で弱気に

本誌が繰り返し指摘してきたように、菅の希望的観測に頼った総裁再選戦略は、五輪さえ始まってしまえば人々はコロナ禍も忘れて金メダルに夢中になり、内閣支持率も上向きに転じるので、それを背景に無投票再選、その勢いで衆院選も自民党が単独過半数を割らない程度の敗北で乗り越えられれば長期政権への道も開かれるだろう……というものだった。

ところがこの「GoTo五輪」作戦は大失敗で、直前に改めて緊急事態宣言・蔓延防止措置を発布・延長してもなおコロナ感染は燃え盛り、医療逼迫が各所で始まるという最悪事態となり、人々は五輪を楽しむどころではなかった《誤算その1》。

そこを何とか挽回しながら月末に向けていい流れを作りたいと思ったのだろう、菅は8月8日告示・22日投開票の横浜市長選に着目した。周知のように、菅政権になってからの重要選挙で自民党は負け続けており、とりわけ今年4月の衆参3補選での全敗と7月都議選での敗北は大きな打撃となった。それに対して横浜はそもそも自分の地元で、市議時代から「陰の市長」と呼ばれたほどの地盤を築き、現市議の中に自分の元秘書が5人もいるし、経済界との繋がりも深い。しかも立候補するのは兄弟のような関係にある小此木八郎=前国家公安委員長で、小此木自身も父=彦三郎の時代から横浜に強固な地盤を持つ。そこへ総理大臣である自分が全面支援に入れば勝つに決まっていて、そこで「選挙に弱い菅」という悪評は断ち切れるだろうと踏んだ。

1つの懸念は、どういう訳か小此木が「IR反対」を掲げて立候補したことで、「IR誘致」の張本人である菅が応援するのは辻褄が合わない。しかしそこは彼のいつもの「争点隠し」の手法で、聞かれて困るようなことには触れない、仮に聞かれても答えないということで押し通そうということだったのだろう。しかしこれは完全に裏目に出て、小此木の「IR反対」は嘘でもし当選すればコロリと賛成に変わるに決まっているという相手陣営からの攻撃をかわすことができず、それが大惨敗の一因となった《誤算その2》。

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衝撃的なことに、小此木票の出方を見ると、菅の衆議院選挙区である同市の西、南、港南の3区合計で自分が落選しかねないほどの劣勢で、自民党神奈川県連内でも「菅では総選挙は闘えない」という空気が広がった。菅周辺によると、そこから彼は急に弱気になり、「俺って、人気がないんだ」と呟くなど、オロオロし始めたという。

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