【イスラム国】ローマ征服宣言、もはや武力で抑えるしかないのか

小川和久© Daniele Lenzi - Fotolia.com
 

「イスラム国」はリビアからローマを窺う

『NEWSを疑え!』第372号より一部抜粋

イラクとシリアの「イスラム国」の英文広報誌『ダビク』は、2月12日に公開した第7号で、日本国民を脅迫するとともに、「イスラム国トリポリ州」(リビア)の部隊が、エジプト人のコプト派キリスト教徒21人を捕えたとして、その写真を掲載した。3日後、「イスラム国」は21人を海辺で斬首する映像を公開した。犯人の1人はナイフを海に向けて、「われわれはローマの南にいる。ローマを征服する」と豪語した。

イタリア政府は、リビア発の「イスラム国」のテロの脅威に危機感を強めている。リビアとイタリアの間の地中海では、密航業者の船がアフリカ・中東・アジアからの難民・不法移民を運んでおり、リビアの「イスラム国」は、その中にテロリストを紛れ込ませて、イタリアに送り込むことができるからだ。

2011年にカダフィ政権が倒れてリビアへの強制送還措置ができなくなり、また、リビアと中東のアラブ諸国で内戦が続いた結果、2014年には17万人の難民・不法移民がリビアまたはトルコからイタリアへと海を渡り、収容された。

折しも2月14日にはトリポリ沖で、小型の密航船の乗客を収容したイタリア沿岸警備隊の巡視船船長に、密航業者の男たちが自動小銃を突き付け、空荷の密航船を奪い返してリビアに戻るという事件が起きた。リビアの密航業者がイタリア沿岸警備隊に銃を向けたのは初めてのことだ。

リビアの「イスラム国」の映像による脅迫に対し、イタリアのレンツィ首相は、近いうちに軍事介入する可能性を示唆したが、その翌日には「軍事介入する時期ではない。国連安全保障理事会(決議)を待とう。国連は、過激派の武装勢力よりも圧倒的に強い」と後退した。イタリア陸軍10万人のうち、リビアへ派遣可能な兵力は、多めに見積もっても5000人ほどしかいないからだ。

実は、「イスラム国」は昨年にもローマ征服を唱えている。昨年10月11日に公開された『ダビク』第4号の表紙は、ローマ(バチカン市国)のサン・ピエトロ広場のオベリスクから、「イスラム国」の黒い旗がたなびくコラージュ写真だった。

小川和久

「イスラム国」の価値観における「ローマ」との戦いの意義は、米国の月刊誌『ジ・アトランティック』の3月号で、同誌寄稿編集者のグレイム・ウッド氏が詳しく解説している。

その最終的な戦いにおいて「ローマ」がどの国をさすのかは定まっていないものの、「イスラム国」はシリア北西部のダビクで「ローマ軍」との決戦に勝利することになっている。昨年12月、米軍人がイラクの地上に現れたという知らせ(おそらく誤報)に、「イスラム国」支持者が狂喜したのは、その最終戦争が始まると受け止めたからだという。

自らのことを、神が世界を終わらせるための手段だと主張している「イスラム国」は、かつての米国の人民寺院(1978年に913人が集団自殺)のような集団なので、対策は、その教えが誤っているとイスラム教徒が宣伝することと、「イスラム国」の武力を武力で封じ込めることしかない、とウッド氏は断じている。

静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之

 

『NEWSを疑え!』第372号より一部抜粋

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流のビジネスマンになり世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せません。
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