Apple Watchの登場で日本のエレクトロニクス産業は壊滅する

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日本のエレクトロニクス産業、何が問題なのか?

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第54号より一部抜粋

現地時間の3月9日(月)アップル社は、既に概要が発表になっていたウェアラブル端末『Apple Watch』の詳細を発表しました。ティム・クックCEOのプレゼンは、朴訥な語りがすっかり板についており、基本的には好評だったようです。

アップルとしては、この「ウォッチ」を医療用の端末に仕立てて行きたいということで、将来的には個々人の健康管理を、この「ウォッチ」を経由して行う壮大なシステムを構想しているようです。

ただ、現時点では「血圧センサー」を入れることは不可能だったようで、とりあえず「運動の記録」と「脈拍の管理」という機能に限定することになっています。ですが、同時に「iPhone」を使った疾病研究のプロジェクトもスタートさせるとしており、やはり将来的には、iPhone と「ウォッチ」が連動して、医療機関と結んで総合的な健康管理を行うような計画があるのは明らかでした。

全く新しい産業に参入する一方で、健康情報という究極の個人情報を扱うことで、反対に「政府機関などから個人情報を守って行くという信頼」を勝ち取って、良い意味での「多国籍・無国籍」のグローバルな、コンシューマー向けのサービスとしての独立性を維持して行こう、そんなビジョンも感じさせられたのです。

そのアップルの勢いを見ていますが、どうしても日本のエレクトロニクス産業の沈滞が気になります。60年代にはトランジスタラジオからカラーTV、70年代から80年代にはビデオデッキにオーディオと、日本の民生用エレクトロニクス産業は、世界を制覇して日本経済に巨大な勢いを与えたわけです。半導体も一時は世界を席巻して、アメリカとの間に深刻な通商摩擦を起こしたぐらいでした。

ですが、現在ではそのような存在感はないわけで、アップルの壮大な構想と大胆な実行力を見ていると余計にその落差を感じるのです。

2005年ぐらいまでには「デジタル家電」の「三種の神器」などが貢献して、それこそ「永遠の繁栄」がありそうに見えた日本のエレクトロニクス業界ですが、どうして10年も経たない中で大きな地盤沈下を起こしてしまったのでしょうか?

その理由は「デジタル家電の三種」を見れば一目瞭然だと思います。まず日本が世界に誇っていた「デジカメ」産業は、一部の高級品を除くとスマートフォンやタブレットに内蔵しているカメラ機能の高機能化と共に、大きく衰退してしまったわけです。

それから「薄型TV」の場合は、安易な技術供与の結果として世界規模での過剰生産と値崩れを起こしてしまい、産業としては壊滅的となりました。「DVDレコーダー」に至っては、ストリーミングやクラウディングといった新業態の前にはその存在価値すら消滅してしまったのです。

気がつくと、かつて日本がお家芸としていた「オーディオ機器」も「ビデオカメラ」も、そして「デジカメ」に「ファックス」といったものも、産業としては衰退するか消滅してしまう中で、ちっぽけな iPhone の中に凝縮されてしまったのです。日本企業はそれでも、高度な部品産業として、その iPhone に関与しているわけですが、最終消費者と携帯キャリアーを手玉に取って稼ぐアップル社に巨大な利益は持って行かれてしまっているのです。

それにしても、どうして「ウォークマン」を発明した日本、卓上電子計算機を発明した日本が、世界標準のコンピュータOS、オフィス・スィート・ソフト、スマートフォンといった分野で、全く歯が立たなくなってしまったのでしょうか?

それ以前の問題として、かつて日本が世界をリードする形で実用化したデジカメについて言えば、デジカメ産業は衰退した一方で、デジカメがなくては成立しない『フェイスブック』や『インスタグラム』といったSNSは国際的なビッグビジネスとなっているのです。

そこには、色々な要因が指摘できます。世界標準の「ソフトウェア」や「通信サービス」「コンピュータのアプリ」を作り上げて行くには、世界の共通言語である英語が自由に駆使できなくてはならないのですが、そのような人材が日本は少なかったこと、コンピュータ技術者は「潰しの利かない専門職」だとして常に冷遇され続けたこと、大きな背景として「目に見えない論理」のことを日本の文化は極端に苦手にしていたということがあると思います。

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第54号より一部抜粋

【第54号の目次】
1.巻頭言 日本のエレクトロニクス産業、何が問題なのか?
2.メイン・コンテンツ「プリンストン通信」(第54回) 読者のみなさまとの対話(拡大版「Q&A」)
3.連載コラム「フラッシュバック70」(第38回)

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』

著者/冷泉彰彦(作家)
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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