メルマガ登録

馬に近い人間から見た、馬、競馬

  1. アート・文芸
  2. 文芸
  3. エッセイ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【引退式の意味】メルマガ「馬に近い人間から見た、馬、競馬」 サンプル号
2014.2.13. (2014年 第0号 サンプル号)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

《目次》
1.私について少し
2.引退式の意味
3.サンプル号のあとがきとして


------------------------------------------------------------------


1.私について少し


ひょんなことがきっかけで、2013年の初夏から日本中央競馬会(JRA)
からプレスパス(撮影許可証)を預かって撮影することになったものです。
以前は約10年間、障がいを持っている子供たちが乗馬をする活動に参加
し続け、そこで子供を乗せている馬をひいたり馬の手入れを実際にやって
おりました。
それから2013年の春に渡米して約2ヶ月滞在し、カリフォルニア州の
サンタアニタ競馬場、ケンタッキー州のキーンランド競馬場、日本の
G1競走フェブラリーステークスの勝ち馬テスタマッタの生まれた牧場などを
訪問しました。そしてサンタアニタ競馬場ではアシスタントとして日本の
プレスパスに相当するPhoto Credential(フォトクレデンシャル)を預かって
撮影することもしました。
日本生まれ、日本育ちの日本人ですが、生まれて初めて撮影許可証を預かって
撮影した国が祖国の日本でなくアメリカ合衆国という、現代なら考えられる
ご縁にも恵まれました。

これまでも馬に近かった存在の人間でしたが、現在も以前とは違う意味で
馬に近い存在ともいえます。そのような人間が感じた馬のことを、皆様に
伝えることができればと思ってやりはじめました。


なお、ここで競馬の予想などを取り扱う予定は一切ありませんが競馬のことを
知らない、競馬が好きでない方にも楽しんでいただけるのではと思います。
またレースの写真等をアップすることはせず、文章で馬のことを伝えていきます。
競馬場の撮影で感じたこと、そしてそこから何か自分の経験をとおして馬とは
このような生き物であることを中心に当面は執筆していきます。
原則毎週火曜日に発行予定です。皆様にとって週に1度の楽しみになることが
できれば幸いです。そして時間とともに少しずつ変化していく私自身、文章内容も
楽しんでいただけたらと思います。


私の文章がおもしろそうだと思った方、このような私を応援したいと思った方、
私が何かこれからおもしろそうなことをすると思った方、読者になられることを
お待ちしております。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2.引退式の意味


日本中央競馬会の競馬場にて、年末には日本の3冠馬にしてフランスの
凱旋門賞勝利にせまったオルフェーヴルと日本ダービー馬エイシンフラッシュ、
年始には世界の短距離王者のロードカナロアと、名馬の引退式が相次いで行われました。
馬の引退式の意味として思い浮かぶことはまず応援してくれたファンの方への
お披露目なのではないでしょうか。そして関係者の方へのこれまで支え続けてくださった
ことへの感謝、労いの場にもなることとでしょう。


それでは馬にとってはどのようなものになるのでしょうか、私の経験を交えて考察してみます。
まず当然のことですが馬が引退、そして引退式の意味を理解できるはずがありません。
ある仕草を見て「この馬、引退すること分かっているんだあ」と勝手に解釈する人を
見かけますが、それはその人の中の物語を馬に投影し、勝手に解釈していると考えるのが
妥当でしょう。
それならば分からない馬なんかに引退式をやっても無駄だからやめたほうが良いというのも、
私は違うと考えております。

馬はたしかに言葉を喋りませんし、言葉を意味として理解しません。その一方で周りの人間の
感情をとてもよく感じ取る生き物でもあります。人間の、日本の社会で言われている
「空気を読む」という能力に長けていると書けばわかりやすいかもしれません。
もちろんこの「空気を読む」という能力は馬により高い馬もいますし、低い馬もいます。
ただ馬にこのような能力が大なり小なりあるということを踏まえていただいたうえで、
以下に書き記していきます。


引退式に臨む人たちはこれまで愛着を持ち続けてきた馬とのお別れをするのですから、
例外なくここまで自分の役割を全うすることができた、大変だったけれど充実した時間が
ひとまずこれで終わるのだな、という気持ちが湧き出てくるように想像します。
まさに言葉にすることが困難な気持ちになるのではないでしょうか。そして馬は信頼して
いる人たちの気持ちを読み取ろうとして、普段とは違うというものを感じるのではない
でしょうか。

私はこの「普段とは違う」と感じることが馬にとって重要であろうと考えています。
馬にはこれまでやっていた仕事、つまり普段の調教やレースをもうやらないといくら
言葉で伝えたところでまず理解することはないでしょう。しかし彼らなら今までにない
という雰囲気を察知することなら可能です。これは何かあるな、と伝われば馬にとって
も悪いことはないはずです。引退式に臨むときの人間の心理状況に関しては、
私の経験をもとに書いています。


私はかつて、障がいを持っている子供たちが乗馬をする活動に、学生時代も含めて
約10年間参加し続けていました。

そしてその場で初めて会った「ひまわり」という馬がいました。

このひまわりは自分の仕事、役目を理解しながらかつ、自分のこともよく分かっていた、
初めて出会った当時で推定23歳、人間の年齢に換算するとおよそ77歳くらい(*1)の
高齢馬でした。年齢の割に体もすごくしっかりしていて大変いい仕事をしていたのですが、
プライドがかなり高いところがあって下手な叱り方をしてしまうと怒りをあらわにして
しまい、どうしようもできなくなるようなところもあった馬でした。
そんな彼とは時間にしてみれば約1年半の、今思えば短い付き合いだったのですが特に
最後の半年間は、ほぼつきっきりでのものになりました。上記に書き記したように
付き合うのに大変な部分も多々ありまして、苦労ばかりさせられたことしか今も思い
出せませんし、そのエピソードを数えたらキリがありません。

そのような彼もやがて引退する時がやってきたのですが、彼が実際に引退すると聞き、
そして引退式を当時彼が所属していた会が執り行った日には胸からこみあげるものだけで
なく安堵も入り交じり、これまでに経験したことのなかった感情が出てきました。
ひまわりの引退の半年前から新しい馬がやってくる話も出てきましたし、年齢も考慮すると
引退は決して遠くないことは私なりに感じ取っていました。
ならば彼が引退するまで、彼が乗っている子供たちの落馬をゼロにしてその日を迎えようと
ある日、心に決めました。そしてその誓いは時折気の強いところを出した日もあったりして、
達成できないかもしれないと思ったこともありましたが、結果的に達成することができました。
引退式の日は目標達成した安堵感、そしてこれまで当たり前だった日々が終わることの寂しさも
入り交じってとても複雑な気分になりました。
そして私だけでなく他の人も大なり小なり似たような心境だったと思われます。

その日の午前中にジムカーナ競技(ジグザグを走ったり、横木を通過したりする競技です。
人間の運動会の障害物競走をイメージしていただくとわかりやすいと思います)のコースを完全に
覚え、しかも冷静ながらも力強く歩いてまさに理想的な行動をとりました。
ところが午後の引退式ではもう引退なんだという周りの人間の気持ちを汲み取ったと思われた彼は
打って変わり、あの状態では子供を乗せることができないほどの興奮を表に出しながら式に
臨みました。彼なりに何か今までにないことをやるのだということを理解しているようでした。

思えばこのひまわりは、特に最後の半年間は「独占している気分」そのものでした。
武豊騎手がディープインパクトの引退式の際に「独占している気分だった」と発言されたとき、
私はひまわりのことを鮮明に思い出したものです。もちろんひまわりは私の所有馬ではありませんでした。
しかし人を選ぶようなところもあった馬だったということもあり、子供たちを背に乗せているときや
その前後の手入れはずっと私がやっていました。

それゆえに彼は私の担当馬のような存在でもありました。
彼のあとにやってきたジョーという名前のクォーターホースは人間に対してすごく従順で
我慢強い性格でした。蹄が柔らかいのと、右前脚の外向がかなりキツくて大変だった部分も多々
ありましたが、ひまわりのことを思うと苦労した記憶はあまりありませんでした。
だからこそなのか、ジョーとの約7年間よりもひまわりとの特に半年間のほうが強烈な印象が
今もありますし、密度でいえばあの半年間はただならぬものがあったと現在も感じます。
そしてそのひまわりは運良く馬が余生を過ごすにあたって最高の場所で過ごすことができました。


ちなみに私のメールやブログのアドレスも彼の名前、「himawari」が由来です。
言葉に出したことは一度もありませんでしたが、
「誰よりも自分が一番ひまわりのことをわかっているんだ」
という気持ちでずっと接し続けたことは今も私の財産になっています。
ひまわりは私にとってそのような馬です。


馬が無事に引退を迎える、しかもまだやれると惜しまれながら引退できることは
滅多にありません。
馬の引退はしんみりとするものがありますが、それでも馬はまず無事に過ごすことが、
傍から見るよりもずっと大変な動物です。このような節目を迎えられた喜びの気持ちも
持ち続けながら見守りたいものです。


ちなみに先週末は京都競馬場のほうにいました。
日曜日に行われた3歳馬による重賞競走きさらぎ賞(G3)(*2)は前評判どおり、
トーセンスターダム号とバンドワゴン号の一騎打ちになりました。
結果のほうは最後に外から伸びてきたトーセンスターダムが内で逃げ粘ろうと
したバンドワゴンをとらえて勝利を飾りました。
この2頭の走りを見て春の日本ダービーなどのクラシックレースがさらに楽しみになりました。
トーセンスターダムは最後の速い脚(メディアでは"末脚"や"瞬発力"という言葉がよく
使われているように見受けられます)、バンドワゴンはたぐいまれなスピードとその持続力が
現時点での最大の武器であると考えられます。関係者の方たちは馬の持っている能力を
どのようにすればさらに引き出せるのだろうか、思索してそれを馬に提案する日々が
続くのではないでしょうか。


撮影する立場のものとしてこのきさらぎ賞のように接戦でかつ、勝つと思われる馬が
内と外に離れていてどちらが勝つのだろうか判断が難しいことは多々あります。
もちろん判断は難しいのですが、この馬は勝った、負けたはなんとなくわかるときがあります。
そのなんとなくの根拠は騎手の表情にでるときもあるし、顔を横に向けているなどから
判断していることが多いように思います。



(*1)
換算式は立飲み屋”馬糧庫"
http://bon212.blog104.fc2.com/ 『ユキチャン花ざかり』より
http://bon212.blog104.fc2.com/blog-entry-561.html

(*2)競馬には重賞競走という高額賞金のレースがあり、賞金額によりG1、G2、
G3と分けられています。(本来はローマ数字ですが機種依存文字の関係でアラビア
数字で表記しました)そして日本中央競馬会(JRA)が開催する重賞競走はすべて
国際レースとなっておりますので、海外で調教をされている馬がJRAの重賞競走に
出走することが可能となっております。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


3.サンプル号のあとがきとして


このサンプル号では【馬の引退式】をテーマにして執筆しましたが、
その当該週に見せてくれた馬たちの走りをもとに、馬とはこのような
生き物であるなどを執筆していきます。
そして馬も生き物、自然ですし良くも悪くもこちらの予測、予想、
想像、想定どおりに動くことは滅多にありません。これは私たちの
普段の生活においても同じなのではないでしょうか。

しかしその予想などを越えたものをするのが馬、何よりも自然の
怖さでもあり醍醐味でもあると思うのです。
そのような予想などが裏切られるのも楽しみながら執筆して
いきたいものです。

=====================================================================
発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/
購読解除はマイページより行えます。
https://mypage.mag2.com/Welcome.do(PC・スマートフォン用)
https://mypage.mobile.mag2.com/Welcome.do(携帯端末用)
有料メルマガの購読、課金に関するお問い合わせは、
reader_yuryo@mag2.comまでお願いいたします。
=====================================================================
■ Web:http://himawarikazushijapan.blogspot.jp/ (HORSE PHOTOGRAPH)
■ Twitter:http://twitter.com/IshidaKazushi
■ Facebook page:http://www.facebook.com/kazushi.ishida.73
=====================================================================
□ 発行元:発行責任者:石田和史

※本メルマガに掲載される記事の著作権は発行元及び発行責任者に帰属します。
記事の引用、転載、雑誌掲載などは事前連絡なくご自由に行っていただいて
結構ですが、引用については公正な慣行、転載については常識の範囲内で
お願いできれば幸いです。
引用、転載、雑誌掲載いずれの場合も、本メルマガのコンテンツを利用される
場合は出典を付記するようお願いいたします。

※このメルマガの発行日は年末年始を除く火曜日です。競馬開催日程により、
水曜日に発行する場合もあります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 0001628063
  • 2017/12/05
  • 毎月 第1火曜日・第2火曜日・第3火曜日・第4火曜日(年末年始を除く)