池田清彦のやせ我慢日記
/ 2013年6月14日発行 / Vol.001
INDEX
1.長生きはしたいけれど
2.Q&Aコーナー
 
 
【1】長生きはしたいけれど
 
長生きはしたいけれども、ボケたり寝たきりになるのは嫌だと多くの人は思っているに違いない。延命技術は進歩したけれど、ボケを治したり、寝たきりの人を歩けるようにしたりするのは今の医療では不可能なので、かなりの人は希望とは裏腹に人生の終末期をかなり悲惨な状況で過ごすことになる。

2000年にWHO(世界保健機関)が「健康寿命」という概念を提案した。これは日常的に介護を受けずに自立した生活ができる生存期間のことである。

厚生労働省の2012年の発表によると2010年の日本人の健康寿命は男性70.42歳、女性73.62歳である。一方、2010年の日本人の平均寿命は男性79.59歳。女性86.35歳なので、男性では9年、女性ではなんと13年近く介護が必要な状態を経てからあの世に旅立つことになるわけだ。

これでは医療費がかかるのも無理はない。

麻生副総理が今年4月の衆議院の予算委員会で「私は72歳だが、病院にいったことはほとんどない。いい加減に生きて病院にばかりいっている人の医療費を俺が払っているかと思うとバカバカしい」と発言して物議をかもしたが、私もほとんど病院にいったことはないので麻生氏の気持ちは良くわかる。

確かに急病や怪我の場合は、病院にいかなければ命を落とすこともあるので病院にいかざるを得ないこともあるが、 どうでもいい病気で医者にかかる人が大勢いるのも事実である。 厚労省によれば、2010年度の70歳以上の医療費は16兆円、一人当たりでは70-74歳までが年間62万円、75歳以上が87万円とのことだ。

高齢者の医療費は自己負担一割、税金三割、残りは健康保険料から出ている。あと5年もすれば団塊の世代〈私もそのうちに一人です〉が70歳に達するので、このままでは健康保険システムの崩壊は時間の問題だろう。 システムが崩壊するといざ急病を患ったときに金がない人は命が助からないことになる。 これも一種のコモンズの悲劇であろう。 コモンズの悲劇とは、誰でも利用できる共有資源が乱獲されて資源の枯渇を招くことだ。

麻生氏は上記の話に加えて、「70歳以上で、一年間一度も病院にいったことがない人には10万円上げます」というのはどうだろうかとの提案を行っているが、基本的にはいい考えだと思う。これで病院にいく高齢者が2割減れば医療費は約3兆円削減されることになる。尤も、一度も病院にいかないというのでは無理して死ぬ人も出るかもしれないので、そのあたりの加減は考える必要があるとは思うけれどね。

そうは言っても病院にいって薬をもらわないと安心できない人も多いだろう。では本当に病院にいった方が長生きできるのだろうか。がん手術や抗がん剤の危険性を警告し続けている近藤誠・慶大講師は「医者によくいく人ほど、早死にする」と言っているが、これは本当だと思う。

一昔前に「フィンランド症候群」と言う言葉が流行した。

フィンランドの保険局が、1974年に40歳から45歳の上級管理職1222人を対象にほぼ半分ずつ無作為に分け、第一グループの612人には、医師による、定期検査、栄養チェック、運動、タバコ、酒 などの健康管理を4ヶ月ごと5年間にわたって行い、必要ならば投薬による治療を行った。第二グループの610人には健康管理は本人に任せ、介入は行わなかった。実験が始まった1974年から1989年の15年間の総死亡者数は、介入群で67人、非介入群では46人(有意差あり)だった。内訳は心疾患死、34:14(有意差あり)、その他の血管死、2:4(有意差なし)、がん死、13:21(有意差あり)、外因死(事故、自殺、他殺)、13:1(有意差あり)、その他の死因、5:6(有意差なし) であった。

介入群のほうが死者数が多いことに多くに人は驚き、医者に診て貰ってかえって早死にする現象をフィンランド症候群と呼ぶようになったのである。特に心疾患死と外因死は介入群で目立って多く、 医者による介入がストレスを招きその結果これらの死因の上昇につながったのではないかと思われる。 利害が絡んでいる(健康診断で儲けている)一部の医者はこの結果を快く思わず、フィンランド症候群などと言う病気はないと打ち消しに懸命になっている。

もちろん、フィンランド症候群という命名はパロディであって、そんな病気はないに決まっているが、介入群のほうが死者数は有意に高いのは事実であって、要因は定かではなくても、むやみに検診など受けたり病院に行ったりしないほうが、長生きできそうなのは確からしく思われる。

ところが困ったことに、日本では企業に対して従業員の健康診断を行うことが義務付けらており、ほとんどの勤め人はいやおうなしに健康診断を受けさせられているのが現状だと思う。受けないからといって首になったりすることはめったにないだろうが、いろいろ面倒なことになりかねないので、多くの人はイヤイヤであっても健康診断を受けさせられているに違いない。企業のトップが検診を嫌いな人であれば、会社自体は検診の義務を負うにしても従業員が受けないからといって懲戒処分を科すことはないと思うけどね。

たとえば拓殖大学の渡辺利夫総長は60歳になってから健康診断を一切受けるのをやめて、心身の調子が良くなったと公言しているので、拓大の教職員は健康診断を受けなくても恐らく懲戒処分は受けないだろう。まあ大学の先生は特殊なので、余り参考にはならないかもしれないね。私自身もう9年間健康診断を受けてないけれど、懲戒処分にするという話は聞こえてこない。昔、養老さんが僕に話してくれたところによれば、東大で健康診断の受信率が最も低いのは医学部だとのこと。医者自身は健康診断の有効性を信じてないってことだよね。でも健康診断を推進しているのは医者を含む医療関係者だから、国民の健康のためと称して金儲けのために国民をだましているのかもしれない。

血液検査くらい受けても体に悪影響はないので、むやみにレントゲン検査をされるような検診でない限り、受けたところで時間の無駄なだけで、どうと言うことはないのかもしれないが、血圧やコレステロールの値は過度に高くない限り、気にしないほうがいいと思う。1999年2月までは高血圧の基準値は収縮期血圧(最高血圧)160mmHg、拡張期血圧(最低血圧)95mmHg以上だったものが、140と90に変更されて一気に高血圧の患者が増えたのである。1998年に旧厚生省が実施した調査では高血圧の人は日本全体で1600万人。それが、2000年になって3700万人と2100万人も増えたのだ。今まで正常とされていた人が、高血圧ということにされてしまったのだ。30歳以上の全成人の4割、60歳以上では6割以上が高血圧ということになったのである。

これはどう考えても国民を高血圧にしたくてたまらない人が考えた基準変更だと思うよ。そもそも、統計学的に考えれば、多数のほうが正常で、少数のほうは異常ではないか。60歳以上の6割以上が高血圧であれば高血圧の人のほうが正常で、それ以外の人は異常ではないか。実際、高齢者で徐々に血圧が高くなるのは正常な生理的反応で、フィンランドで、75歳から85歳までの男女521人を対象に降圧剤を飲まさずに経過を見たところ、80歳のグループで5年生存率が一番高かったのは最高血圧180以上の人たちだったのである。

75歳のグループでは最高血圧の違いによる生存率の差はなく、85歳では180以上の人たちの生存率はより顕著に高かったのである。最低血圧についてもほぼ同様で80歳と85歳のグループでは100以上の人たちのほうが生存率は高かった。75歳では100を超えると生存率が低下しており、この年齢では最低血圧が余り高いのは好ましくないのかもしれない。高齢者で血圧が下がるのは活力低下につながり、元気な高齢者は血圧が適度に高いと言えそうだ(もちろん余り高いのは問題であろうが)。80歳以上の人は高血圧だと言われて降圧剤を飲むとむしろ死期を早めるかもしれないね。50歳、60歳くらいの人でも旧基準で正常範囲の人は医者にすすめられても、降圧剤は飲まないほうが安全だと思う。それに降圧剤は一度飲みだすとやめたときのリバウンドがあるので、やめるのが怖くなり一生飲み続ける羽目になりかねない。 自覚症状がないのに健康診断を受けても無駄だと思うが、 受けざるを得ない人も血圧に関しては余り記にしないほうが良いと思う。それに白衣性高血圧といって医者や看護師に測られると緊張して一時的に血圧が上がる人もいて、高血圧でもないのに降圧剤を飲まされている人も多いのではないだろうか。健康診断で高血圧と言われたら薬を飲む前に自宅で血圧を測ってみたらどうでしょうか。

私自身は健康診断に行かないばかりか、最近は自宅で血圧を測ったこともありませんけれどね。そういえば、先に話に出た近藤誠は自宅に血圧計がないと言っていました。降圧剤の市場規模は年々拡大してそろそろ1兆円に達しようとしている。 大きな要因はもちろん高血圧の基準値を大幅に引き下げたことだ。 医療資本は高血圧の患者(ということになっている人)が増えたおかげで大もうけができるわけだ、医療資本と結託した厚労省が基準値を下げることはあり得ないので自衛するしかないのだ。 医者の言うことを鵜呑みにせずに少し勉強すれば、怪しいことがわかるはずだ。

薬というのは当然ある観点から見れば毒であって、副作用のない薬というのはない。 細菌性の肺炎のように抗生物質を飲まなければ命にかかわる場合は別として、薬はなるべく飲まないに越したことはない。 降圧剤も認知症やがんのリスクが高まるのではないかとの疑いもある。 フィンランド症候群の例を見てもわかるように健康診断を受けたからといって長生きする保証はない。

自覚症状がないのに医者に行って薬を飲まされるのは、時間を使う、お金を使う、ストレスになる、副作用がある という4つのリスクをかぶることである。何もしないで好きなことをしていたほうが絶対いいよ。

 
 
【2】Q&Aコーナー
 
質問大募集!
このコーナーは、読者のみなさまからの質問に、私がお答えするコーナーです。
以下のメールアドレスより、ご質問ください。
質問受け付けメールアドレス:xxxxxx@xxxx.com

【質問のルール】
※全ての質問には答えられるとは限りません。あらかじめご了承ください。
※「400文字以内/一週間にお一人様1問まで」にてお願いします。
※毎号での回答ではなく、次号以降での回答となる場合もございます。
 
池田清彦
オフィシャルサイト:http://www.k-ikedakikaku.com/Kiyohiko/index.html
Twitter:https://twitter.com/IkedaKiyohiko

Copyright(c)池田清彦 All Rights Reserved.
本メールの無断転載を禁止します。