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17年5月28日号 週報『投機の流儀』【罫線・資料付】

[ はじめに ]
本稿執筆中の現在時点、G7が開催中でありトランプによって不協和音もある様子だか
ら最悪の場合は共同声明が作成されないケースもあり得る。 (いままでもそういうケー
スはあった。 )


今回、たぶんそれは無いだろうが、今週号は閉会前の原稿なのでG7は一切を割愛する。
ご了承願いたい。


=【今週号の目次】===================================================


 【1】市況は強いのか弱いのか  ★「アイランド・リバース」


 【2】日本経済新聞


 【3】NY市場に長期株価楽観論


 【4】金融庁の警告が仇となってREITに思わぬ売り手


 【5】投資家別の投資主体で年金と自社株買いが買い手


 【6】2万円に如何ほどの意味があろうか? 
   ★ 米利上げに鈍化観測、ドル高円安に鈍化観測
 

 【7】日経平均のEPSは史上初の1,400円を目前


 【8】「壮大なWボトム」と「壮大なWトップ」か


 【9】 いま、敢えてレンジを言えば・・・


【10】「レベル」か「トレンド」か―「ウサギと亀」の話


【11】「第三の矢」、内閣発足5年目に兆し在り?  今世紀初の日本企業の強さ


【12】原油価格


【13】原油価格(続き)


【14】「ポピュリズム」とは何か


【15】対米貿易黒字は日米経済対話に影響


【16】6月の米利上げはなるか


【17】フランスのマクロン大統領誕生が極右の台頭を止めたか


【18】「トルコリラの買い付けについて」のMさんとの交信(21日号に掲載)の追伸

 

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  【1】 市況は強いのか弱いのか

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25日(木)まで日経平均は「アイランド・リバース」(離れ小島)★をつくった後で
下に向いつつ小幅な動きで生体反応喪失相場の観を呈してきたが、
東証一部に上場する500銘柄で構成する日経500種は内需株の上昇に支えられて
17年7カ月ぶりの高値を付けた。 これは2000年のITバブルの時、日経平均で言
えば20,800円台という90年バブル崩壊後の最高値の値段に匹敵する。

 

東証一部の騰落レシオが5月24日164.6%にまで達した。 普通140~150%
というと(一応危険水域とみなされるが)活況を呈して過熱感を帯びて熱狂的になるも
のだ。 ところが今回の160%にはそのような気配は微塵もなく、大げさに言えば生体
反応喪失相場とでもいうべき静けさであった。 実に妙な相場付きと言わねばなるまい。

この5か月間、日経平均の年初来の最高値と年初来の最安値との差は僅かに1,700
円余の動きしかない。 出来高、売買代金・株価の上下という3次元の動きであるはずの
ものが、上下幅がほとんどないので平面上の動きになっている。 しかもその平面は縦も
横も小幅になっている。 取り敢えずマトモな売買代金の規模とされる2兆円は、先週平
均で言えば超えているが2兆500億というレベルは約5週間ぶりの低水準にとどまっ
ている。 手控えムードが強いということになる。


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【 図 1 】 5月26日現在、2017年の日経平均の高安値幅はバブル崩壊以降最も少ない。
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1

 

 


★「アイランド・リバース」(離れ小島)
19,500円から上を大きな窓を開けて短い罫線が8本続いて、あと10円、
あと2円というところで2万円に届かず、窓を開けて反落した。 従って日足で見ると
19,750円から上の8本の日足は短い陽線3本、短い陰線3本、十文字足が2本と
固まっていて離れ小島のように見える。 そして9本目に窓を開けて下離れた。 そしてこ
れも十字線を形成した。 この19,750円から上に固まった8本は離れ小島のように
見える。 これは「アイランド・リバース」(離れ小島)と昔から言われるそうだ。 下値
近辺でこの動きが出ると底入れの兆しだが、上値近辺でこの動きが出るとあまり良いこ
とではないということになっている。

(「アメリカの株価分析・副題?チャートによる理論と実際」ジョン・マギー他著 
野村證券投信委託会社訳 東洋経済 1969年刊、600頁以上にわたる大著だが)。


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【 図 2 】 2016年6月以降の日経平均での「アイランド・リバース」
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3

 


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【 図 3 】 2014年6月から2015年6月大天井の日経平均での「アイランド・リバース」
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2

 

 

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【 図 4 】 個別銘柄での天井圏での相場反転の「アイランド・リバース」の事例

東芝は16年2月の155円安値から上昇は、16年12月高値で同パターンを形成し、相場反転
となる。
小野薬品は人気化し、1000円台からの大相場となり6000円目前の最高値での同パターン
を形成し、相場反転となる。
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4-1

 

4-2

 

 

 

 


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【 図 5 】 個別銘柄での底値圏での相場反転の「アイランド・リバース」の事例

下落基調が続いていたが、16年6月安値時に同パターンを形成。 月足の長期の株価水準
も底値圏であったこともあり、相場反転のサインとなった。
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 5

 

 

 

 

 


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  【2】 日本経済新聞

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「経団連新聞」「兜町新聞」などと揶揄される時もある日経新聞ではあるが、その姉妹
紙の日経ヴェリタス(旧日経金融新聞)の先々週号の見出しは「今度の2万円は違う」
であって、ジョン・テンプルトンの遺訓★を思い出す。 既報で既述した。

ところが23日の記名入り記事でも三段抜きで「増収銘柄に熱視線」「2万円回復の原
動力になるか」とある。

 

2万円というのはそれほど重要なことなのか。 本当に強い相場なのか。 本当に強い相場
なら2万円は通り道に過ぎない。 一昨年6月に20,952円の大天井を付け、約2か
月間2万円台を維持した。 あの時2万円を超えた時には誰も2万円2万円と騒がなかっ
た。 素通りした。 今度は皆が騒ぐ。 「今度は違う」と言うならば、むしろその辺だ。
一方、日経500種平均がITバブルの最高値以来の高値に達した。

 

★ジョン・テンプルン曰く「四つの単語で成るセンテンスで投資家に一番損させるのはこれだ。 “ This time is different.”」


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【 図 6 】  Sir ジョン・テンプルトンの投資哲学
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 6-1

 6-2

 

 

 


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  【3】 NY市場に長期株価楽観論

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トランプ政権の景気刺激策の実現が危ぶまれたことは、むしろ好景気に関る手放しの楽
観を止めて、ドル高の加速を止め、株価や金利の落ち着きにつながったと見られる。 こ
こで景気回復が株価のじり高を生みやすい構図となり、一時の過熱状態は冷めた。 投資
家も株価の大幅な急上昇を見込んでおらず、慎重な態度に徹しているように見える。 し
かし27日(土)の日経新聞の記名入り記事にはこうある。 「金融政策の余地は乏しい
だけに、均衡が崩れたときのショックは大きくなりかねない」。

 

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【 図 7 】 現在の上昇相場は、史上最大のITバブル期に次ぐ
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 7

 

 

 

 

 

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  【4】 金融庁の警告が仇となってREITに思わぬ売り手

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既報で既述したことであるが、毎月分配型投信を金融庁が批判し「消費者(投資家のこ
と)のためにならない生産者(証券会社のこと)の存在に意義があるか」とREIT運
用業者に直接的な批判を浴びせた。 そこで銀行や証券会社が販売を自粛し始めた。 個人
マネーの流入が減り、それがREITの需給悪化につながることになった。 東証に上場
するREITは時価総額が約11兆円だから、それの需給悪化傾向は市場に及ぼす影響
は小さくない。 投資信託業界の会で金融庁が直接に公に運用業者に批判を浴びせたこと
がきっかけになったと思われる。 金融庁の官僚は、金融市場特有の神経機能の作用に鈍
感だ。

 

 


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  【5】 投資家別の投資主体で年金と自社株買いが買い手

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東証が25日に発表した5月第3週の投資主体では信託銀行が7週間ぶりに買い越しに
なった。 これは主として年金の動きと想定される。 次に事業法人が4週間ぶりに買い越
しになった。 これは主として自社株買いと想定される。 自社株買いの枠の設定も活発に
発表されている。

 

株主総会もなく議決も必要なく自由に行動出来る個人が一番したたかであるが、個人は
依然として現物は売り越しが続いている。 個人は高いところは売り(安くなれば買う)
という逆張りに徹してきているのが日本の個人投資家である。 依然としてその動きは続
いている。

 

 


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  【6】 2万円に如何ほどの意味があろうか?

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「ロシアゲート」疑惑の高まりで米国株が急落する前日(5月16日)の東京市場で
は、日経平均が取引時間中に2万円まで1.5円のところまで上昇した。 先週の米国
市場でNYダウなどが急落前の水準を回復したこともあり、目先の日経平均は2万円
に再トライする可能性はあろう。

 

しかし2万円に如何ほどの意味があろうか?

今から一段高となるには、円相場が少なくとも「ロシアゲート」疑惑が高まる前の
1ドル=113円台までの円安が必要だろう。 ★

 

★米利上げに鈍化観測、ドル高円安に鈍化観測
トランプ政権の経済運営への期待は、もともとあまり根拠はなかったが益々それがしぼ
んだということ、米景気の拡大への不透明感がまだ強いということ、米インフレ期待が
少しずつ後退していること、以上の点から米利上げのペースが鈍化するとの観測が市場
で強まっている。 これは取りも直さずドル高の期待が弱まっていることにもなる。 ドル
高円安への見方が弱くなっていることになる。


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【 図 8 】 米10年債利回りの上昇は弱い
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 8

 

 

 

 

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  【7】 日経平均のEPSは史上初の1,400円を目前

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日経平均のEPSは史上初の1,400円を目前に1,395円となった。 すると今の
株価収益率は約14倍である。 一昨年6月の大天井の時は、EPSは1,520円だっ
たからPERは16.5倍だった。 今のほうがずっと割安だということになるが、日本
国内の政局の安定度、海外要因、ポピュリズムとテロリズムの恐れ、米国政局の不安定
等の外部要因を入れれば、このPERのレベルだけでは測れない。 割安か割高かは「静
体のレベル」で株価が決まるわけではなく、「動体」のトレンドで決まることは言うま
でもない。

 

 

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  【9】 いま、敢えてレンジを言えば・・・

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先々週、日経平均株価では、裁定買残が年初来ピーク(13.01億株)に接近してい
る。 海外投資家の買戻しも終了しており、需給面ではリスクに敏感になりやすいと思わ
れる。

 

ドル円が110円、NYダウが20,400ドルを維持していると、19,000円が
下値めどになると考えられる。 ドル円が108円、NYダウが20,000ドルまで下
落すると、18,500円が下値めどになると思われる。 20,000円乗せはあった
としても少々先送りになろう。 6月のメジャーSQ日(9日)あたりにはっきりするだ
ろう。

 

6月SQ頃までに20,000円を回復してもその後は調整局面を迎える可能性がある。
但し押し幅は深くはないと見る。 昨年大統領選挙の前に長保合した17,000円台で
累積売買代金が膨らんでいるから、その辺りではなかろうか。

 

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【 図 9 】 ショック安などの大きな出来事がなければ、日経平均はメジャーSQ値を
挟んで、概ね±1000円幅のレンジ推移
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 9

 

 

 


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  【10】「レベル」か「トレンド」か―「ウサギと亀」の話

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先ほどは日経平均銘柄の1株当たり純益EPSとPERについてレベルだけから見れば
今のほうが割安だと述べた。 従って、一昨年の大天井圏内よりも今のほうがずっと株価
は安い位置だと述べた。

 

今回は全銘柄つまりTOPIXについて考える。
一株当たりEPSは予想が101.5円であったのに対して直近の修正値は109.0
円である。 そのため日経平均2万円の時のPERは、修正前は16倍弱であったが、修
正後の現在は14.5倍となる。 つまりレベルとしては安いことになる。
2013年アベノミクスの相場が始動して以降の平均PERが14.5倍ぐらいだった
と思う。 従って大天井圏に比べるとかなり割安なレベルにあることになると思う。

 

またドル円相場と日経平均との連動は、民主党時代は1ドル円につき日経平均200円、
アベノミクス相場は1ドル円につき日経平均250円と言ってきたが、その連動性が薄
くなったと昨年本稿で述べた。


が、また連動性が極めて強くなり、しかも「1ドル円当たり日経平均300円」という
連動になっている。 以上のEPSとドル円との関係から言えば、EPSが修正後の
109.0円、ドル円は108円から115円とすれば、日経平均は下値が
18,500円から上値が20,500円と算定することになるが、
これはレベルの問題である。

 


本稿では「レベル」よりも「トレンド」を考える。 つまり株価を「動体」としてその方
向を見る。 方向によってレベルが違うのである。

 

「ウサギと亀」の話しは陸上での競争の話しだった。 これがプール内で行われたらどう
か。 やはり亀が勝ったということで結果は同じであろう。 だがそのプロセスで大いに違
う。 陸上ではウサギは昼寝をしていて遅れをとった。 プール内ではおそらくウサギが溺
死して遅れをとったということになろう。 陸上で昼寝をしている合間に隙を見て勝ちを
とったという狡猾な亀は、水中ではウサギが溺れていても救わないでまっすぐに目的地
に向かったという非人道的な亀であろう。 つまり、陸上でも水中でも亀が勝ったがその
プロセスに大いに違いがある。 競争相手は陸上では昼寝、プールでは溺死、であった。
本稿で述べたいところはこういう差である。 同じ「2万円」でも「上昇過程で黙って素
通りして行く2万円」と「2万円まであと2円で届かず」「今度の2万円は違う」と大
騒ぎする2万円とは意味が違う。

 

 


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  【11】 「第三の矢」、内閣発足5年目に兆し在り?

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日経新聞のまとめによると2017年の設備投資動向が全産業で13.5%増となる。
これはアベノミクスが始まった翌年の、株式で言っても一番勢いのあった2013年以
来4年ぶりのことだ。 昨年の3.8%減から見れば13.6%増とは大きく上昇するこ
とになる。 株安や円高の是正、法人税低下で企業が国内に投資する環境が生まれつつあ
ると見る。

 

「設備投資につながる成長戦略」が第三本目の矢であった。 これは安倍内閣発足当時か
ら本稿では、「第一の矢は金融当局、第二の矢は財政当局が進め、その責任者には両方
とも自分の盟友を置いた、これはやりやすかろう。 だが第三の矢は民間企業がやること
だ。 よって簡単には進まないはずだ」と水を差すようなことを述べ続けたが、ようやく
安倍内閣発足5年目にして前年比13.6%増の設備投資動向となったので、この4年
ぶりの成果を歓迎したい。

 


今世紀初の日本企業の強さ

 

一方、企業は頑張っている。 この低成長下に高収益を上げている。 今年3月期は上場企
業の決算は売り上げが減っているのに利益は史上最高になった。 減収で最高利益という
のは少なくとも今世紀の我が国の企業の損益分岐点を避け(その見返りの犠牲は出てい
るであろうが)かなり粘り腰な強い収益力となっている。

 

 

 

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  【12】 原油価格

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原油価格の高低は勿論、日本株の高低に影響する。 一昨年後半の続落のプロセスで諸悪
の根源は産油国の財政赤字であると本稿で何度も述べた、あれである。

 

今回25日(木)にウィーンで開かれた年に一度のOPECの総会で協調減産を9カ月
延長することに決定した。 非加盟国の主要産油国も合意した。 米国のシェールオイルの
増産でOPECの減産にもかかわらず、原油の供給過剰が続いていることに対応する。
これを好感してドバイ原油は53ドル超まで上昇した。 ドバイ原油は毎日日本経済新聞
の左下に価格が発表になっているが、これはメジャーとの提携がほとんどなく、小売り
に近いから広く原油価格の指標として、WTI原油や北海原油と並んで便利に使われる
からである。

 

産油国の財政赤字のために産油国が日本株を大量に売った。 原油価格が下がれば輸入国
の日本は得するという単純な図式ではない。 OPEC最大の産油国サウジアラビアは減
産の延長には消極的と当初は見られていた。 しかし競合相手である米国シェールオイル
の生産は底堅く、3月以降の原油市場では米シェールオイルのために原油市場が値崩れ
する懸念もあった。 14年の60数ドルのピークから30ドル割れまで暴落したのを見
ても判るように、市場に委ねていても良いわけではない。 緊縮財政で国民の不満が強ま
る中で経済構造の改革を急ぐ必要があるが、具体策の多くは国民に痛みを強いるもので
ある。 民衆の不満が爆発してエジプトの政権はあっさり転覆した。 これを目撃したサウ
ジは国民感情に神経をとがらせているはずだ。 市場ではロシアとサウジの合意を好感し
て北海ブレンド原油先物が大きく上伸した。

 

だが市場の懸念が完全に払拭されたわけではない。 問題の一つは中国経済の台頭に伴う
エネルギー需要の拡大が頼りだったが、現在の中国経済は「重厚長大」から「軽薄短小」
への質の転換を図ろうとしている。 日本が第1次オイルショックの後、福田さんが「日
本は全治2年の重傷を負った」と言って、重厚長大から軽薄短小への模範的な転換をし
てみせて世界に省エネルギー国のもとになったことがある。 中国にあれが出来るかどう
か判らないが、中国がそれをすれば、省エネルギー=原油価格上昇の見方にならない、
ということになる。

 

 


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  【13】 原油価格(続き)

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先週週初から東京の原油先物が続伸した。 東京証券取引所の原油先物が続伸したが、
「減産拡大も選択肢に入る」と言う報道がきっかけだったようだ。 海外相場も堅調だ。

 

NY市場の原油先物は19日に1バレル50ドル台になり、毎日日経新聞の1面の左側
に載っているドバイ原油も上向き矢印や斜め上向き矢印が書かれていて52.7ドルと
なっている。 ドバイ原油は筆者も取引所に立ち寄ってみたことがある。 学校の教室ぐら
いの広さの部屋で取り引きされていたので少々びっくりしたが、これはメジャー業者と
提携していないから小売りに近い状態で値動きするから指標になっているのだという。
原油価格の高騰で資源関連株が買われた。 原油高で収益が改善されるという期待である。

先々週末に比べて先週は、石油精製会社3社、非鉄金属の一部、建機の一部等が原油高
のおかげで収益が改善されるという国際商品価格の戻り歩調を受けて買われた。 しかし
相場の体制を左右するほどの動きではなかった。

 

26日にはNYマーカンタイル取引所(NYMEX)の原油先物相場が急落し、東京市
場の関係銘柄の下げが目立った。 まだ原油市場は安定していない。 減産が延長されても
不透明感は残る。 サウジが調整役を続けるとサウジの市場シェアを失いかねず、夏場の
需給期には国内の石油消費量が増えて輸出量が減り、石油収入が落ち込んでしまうとい
う恐れがある。 サウジ自身がこれを懸念しているであろう。

 

 

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  【14】 「ポピュリズム」とは何か

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5月21日号で述べた。 下線部分の続きである。
「ポピュリズムとテロリズムという2頭の妖怪が欧米の天地を激震させる恐れは将来大
いにあり得る。 大衆の怒りを政治的な力に結集させるという政治技術が開発されて、そ
の活用方法を昨年6月に英国が、11月にトランプが実現させて見せたからだ。 ナチス
政権もポピュリズムの結果として民主的な憲法のもとで選挙によって生まれたのだとい
う人類の血の教訓を銘記したい。 この件は週を改めて詳述したい。  」

 

このテーマは3週間前から「来週のテーマ」として後回ししてきたものだ。 今回はこれ
を簡潔にまとめよう。 2014年、スコットランドがイギリスから離脱して独立するこ
とを国民投票にかけた。 辛うじて英国に残ることになった。

 

だいたい、イギリスで発展した新古典派理論経済学・自由市場経済学のルーツと目され
たアダム・スミス、推理小説の金字塔シャーロック・ホームズ、あるいは007シリー
ズの主役ジェームス・ボンド、これらの発生の地であるエジンバラを首都に持つスコッ
トランドが大英帝国から離れるなどということは普通の常識では考えられない。 これを
国民投票にかけた。 結果的にはスコットランドは分離されないことに落ち着いたが、こ
の時から筆者は「ポピュリズム」というものの恐ろしさを知った。
(その5年ほど前に「吉田茂 伝」(北 康利 著、講談社、2009年刊)を読んだ
が、その副題が「ポピュリズムに背を向けて」だった)。  

 

それ以降今日まで欧米の政治・社会を主導するものは2014年のスコットランドの国
民投票以来、グローバリズムの中でのポピュリズムであった。 ポピュリズムは普通「大
衆迎合主義」と訳されるが、これは2014年のスコットランドの国民投票以来、欧米
を主導したのはグローバリズムの中でのポピュリズムであった。 ポピュリズムは普通
「大衆迎合主義」と訳されるが、これはそう簡単なものではない。

 

グローバリズムの発展→「新自由主義」という市場主義とは似て非なるものが生まれ→
格差の極端な拡大→反グローバリズム→ポピュリズム、という流れが伏在した。 格差が
拡大し、生活を脅かされた人々は「反グローバリズム」あるいは「排他主義」という
左右のポピュリズムに向いつつある。

 

14年のスコットランド国民投票の後の16年の英国BREXIT、今年5月のフラン
ス大統領選挙における極右勢力の急伸、昨年11月米大統領選のトランプの勝利、これ
らはすべてこの流れである。 エスタブリッシュメントやエリート階級に生活を脅かされ
たとする大衆の怒りを結集させて政治力に使うという政治技術を発明したのが1848
年「共産党宣言」におけるマルクス・エンゲルスであった。

 

「欧州の天地に一個の怪物徘徊する」から始まり、岩波文庫で正味51ページの「共産
党宣言」の最後の文言は「万国のプロレタリアート、団結せよ」で終わる。 これを体得
して政治技術に応用したのがレーニンである。 その結果生まれたのが「レーニン革命」
でありソビエト社会主義共和国連邦の誕生である(1917年)。 そしてまた東洋では
毛沢東であった。 その結果生まれたのが中華人民共和国の誕生である(1949年)。

 

その間、欧州でこの政治技術を使ったのがヒットラーである。 その結果生まれたのがナ
チス政権であり、ナチスドイツである。 何度も言うがナチス政権やヒットラーは暴力革
命やクーデターで誕生したのではない。 民主的な憲法の下で正当な選挙で生まれたのだ。
つまりポピュリズムが生んだのだ。 聡明だったと思われていたゲルマン民族においてさ
えこうだった。

 

トルストイを生み、ドストエフスキーを生み、権謀術数に優れたピョートル大帝を生み、
ナポレオンの進撃を撃退させた「冬将軍」の知恵を生んで、聡明だったと思われていた
スラブ民族においても、また規律正しい聡明な民族とされたゲルマン民族でさえも、こ
のようなポピュリズムが勝った。 また現に昨年6月アングロサクソンの本拠地の大英帝
国でさえ、このポピュリズムにかかった。 2014年にスコットランドに投票したもの
は45%だった。

 

奇しくもこれはトランプの支持率と同じである。 だがこの45%の団結は、ほかの55
%の団結よりもはるかに固い。 ポピュリズムを団結させる政治手法というものはそうい
うものだ。 ポピュリズムというものはカリスマ的主導者が議会や政党を通さないで有権
者に直接訴える政治技術である場合が多い。 ヒットラーもそうだったし、毛沢東もそう
だったし、トランプも当選するまではそうだった。 だがこのカリスマというのは今日世
俗的にはカリスマ美容師だとか、カリスマディーラーとか「超・優秀な」とか「伝説的
に優れた」という意味で使われることが多いが本来はマックス・ウェーバーが使った言
葉で、伝統的支配・合理的支配・カリスマ的支配の3つに分類したものの一つであり、
これは議会や政党を迂回して個人の持っているパワーを直観的・生理的に、直接に民衆
に作用させるという、よく言えば英雄的行為であるが、民主政治とは折り合いのつかな
いものである。

 

筆者は現職の頃、カリスマ的リーダーと言われることを強く禁止した時代があった。 ま
たそれを極端に排した。 カリスマというものは本来正統なものではない。 知的レベルが
標準以下の者を結集させる生理的感覚的なパワーである。 そしてこれを多用したものが
ポピュリズムなのであり、その結果出来たものがポピュリズム政党である。 ポピュリズ
ム政党が政権を獲れば、自由主義・民主主義を壊す危険性がある。 しかし人々に不満や
不安がある限りポピュリズムは常に伏在するのである。 これを上手く引き出して政治技
術として開発した者がポピュリズム政権を構築する。 危険なことである。

 

2017年、2018年の国際政治、場合によっては日本国内も読み解く上で欠かせな
いのはポピュリズムの危険性である。 ちなみに水島治郎千葉大学教授の小著に「ポピュ
リズムとは何か」という名著がある(中公新書 2016年刊)。 これによればポピュ
リズムとはパーティーに現れる泥酔客に例えている。 迷惑ではあるが、その言葉にうな
ずく人々が少なくないという意味だ。 「この珍客をどう扱うかによって民主主義の真価
が問われる」のである。

 

 

 

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  【16】 6月の米利上げはなるか

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ロシアゲート事件の影響で6月の米利上げの確率は少し確度が落ちたと市場では見てい
るであろう。 トランプが23日に予算教書を発表し、公表された議事要旨を手掛かりに
米利上げ観測が再び強まれば、ドル高円安が進み、日本株の追い風になる可能性もある
が、ロシアゲート事件のために6月利上げが遠のくのではないかという懸念もある。

 

 

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  【17】 フランスのマクロン大統領誕生が極右の台頭を止めたか

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極右・国民戦線のルペン党首から見れば、マクロン新大統領は社会党のオランド政権で
の経済相だったから左派だと見えるであろう。 マクロン自身は、自分は右派でも左派で
もないと言っている。

 

ここで思い出すのは、さすがにラテンの盟主国の大統領の就任スピーチだと筆者が感銘
を受けた、30数年前のミッテランの就任演説だ。 彼は社会主義者だった。 閣僚内に共
産主義者を二人入閣させたりもした。 これを時の米大統領レーガンは大いに心配し、当
時は冷戦の真っ最中だったから、フランスからロシアへ西側陣営の情報が筒抜けになる
のではないかと心配し、個人的にミッテランと親しい関係を持つブッシュ・シニアを個
人の資格でミッテランに会わせて、その安心度をはからせたことがある。
その結果ブッシュ・シニアは「ミッテランはともに語るに足る男だ、信用出来る男だ」
とレーガンに報告し、米仏の関係は良好に継続された。

 

このことを後にブッシュ・ジュニアが大統領になってフランスを訪問した時に、
フランスはこれを覚えていて大いに恩に着て最高のワインでもてなしたという。 一方、
クリントンが訪仏した時には大学生が飲む安いワインでもてなしたという(こういう差
別をつけるのを「食卓外交」と言うのだそうだ)。

 

前述の筆者が感銘を受けたミッテランの就任演説はこうだ。
「私は(右でも左でもなく)『科学』に仕える。 そして哲学を謙虚に具現するのみだ」
と格調高かった。 さすがにラテン国の盟主の大統領の演説は格調高いと感銘を受けたこ
とがある。 思えば30数年前のことだった。

 

 

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  【18】「トルコリラの買い付けについて」のMさんとの交信
                                          (21日号に掲載)の追伸

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先生ありがとうございます。
感謝致します。
山登りと同じ、つべこべ言わず、足を1歩前に出す。 ですね。

 

筆者より    

その通りです。 立ち止まってしまったら何も進みません。
ただし「あせらず、慌てず、諦めず、一歩一歩を確実に」です。 これは古代ローマの
賢帝と言われた王様で哲学者でもあったアウグスティヌスの「ゆっくり急げ」という
言葉をシーザーが説明した言葉として残したものです。

 

「ゆっくり急げ」は「急がば回れ」ではありません。
「あせらず、慌てず、諦めず、一歩一歩を確実に」です。

 

因みにシーザーは自分が皇帝になるという野心を持っていると誤解されて、議会の最中
で暗殺されるが、彼が書き残したものを見るとアウグスティヌスを皇帝にすべきだと
主張していたのです。 そして上記のように書き残しました。

 

 

 

 

[ 以下、定型 罫線資料 ]


[ 大局観 ]

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【 参考資料 1 】 東証一部時価総額からは600兆円の壁が意識されるところ
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 s1

 

 

──────────────────────────────────∞
【 参考資料 2 】 現在の相場の位置を確認し、投資姿勢を考えると、現在は大相場を
取りにゆく相場ではない。 一部個別銘柄の大底以外は、現金比率を高めておく。
──────────────────────────────────∞

 s2-1

 s2-2

 

 


 
 

[ 名目GDPから相場を測る ]

──────────────────────────────────∞
【 参考資料 3 】 「バフェット指標」では過熱圏での推移が続く
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 S3

 

 


[ マネーストックから相場を測る ]

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【 参考資料 4 】 「山崎指数」は2017年4月末時点で57.95%
──────────────────────────────────∞

 S4

 

 

 


[ 中期視点:アベノミクス相場の日経平均、ドル円推移 ]

──────────────────────────────────∞
【 参考資料 5 】 日経PBR 1.20倍水準は18899円(5/26)に上昇。
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 S5

 

 

──────────────────────────────────∞
【 参考資料 6 】 PBR1.20倍水準が下値支持となるには、

ドル円相場の想定レート以上で 推移が必要に。 108円43銭が分岐点として注視される。
──────────────────────────────────∞

 S6

 

 

 


[ 短期視点:各短期テクニカル指標 ]

*米国市場

──────────────────────────────────∞
【 参考資料 7 】 NYダウは再度切り返し、史上最高値水準に。
 ただ個別銘柄の新高値銘柄は若干の減少傾向。
 再び、恐怖指数は1993年・2007年以来の10割れに。
──────────────────────────────────∞

 S7-1

 S7-2

 

 

 


*東京市場

──────────────────────────────────∞
【 参考資料 8 】 騰落レシオは依然140%台の過熱圏。
 当面の物色は拡大し難く、選別物色が顕著になる展開か。
──────────────────────────────────∞

 S8-1

 S8-2

 

 

 


*商品市場

──────────────────────────────────∞
【 参考資料 9 】 WTI原油価格は、シェールオイル採算ラインを挟んで±5ドル幅
(45-55ドル)での推移。 5月25日のOPEC総会では9ヵ月延長、減産量は現行水準を維持。
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 S9

 

 

──────────────────────────────────∞
【 参考資料 10 】金価格は260線水準での推移。 直近再度260線を若干上回る。
──────────────────────────────────∞

 S10

 

 

 

*為替市場

──────────────────────────────────∞
【 参考資料 11 】 ドル円は「三角保合い」形成の動きが続く。
         方向性の出るきっかけは、6月13・14日FOMC後か。
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 S11

 


【本文】山崎 和邦    

【罫線・資料作成】石原 健一(大和証券・投資情報部出身)


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