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秋月便り

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秋月便り第528号

教育における革命~実践編

.1 第一章 橘研究所

..1.1 第一節 政治団体の設立

...1.1.1 第一項 世界と日本

「情報革命」という巨大な潮流が起こっている。「革命」とは、社会の変化・変革が急激
に加速する時期のことを言う。「情報」とは「敵情を報知する」からきているように、判
断し行動するための知らせを、様々な媒体を通じて報じ、また得ることだ。その情報の世
界に、これまでとは明らかに違う速度で変化が発生している。
この社会的な激変と同時に、世界のパワーの中心は西洋から東洋に移行するだろう。16世
紀、パワーの中心はオスマン帝国から西欧に移行した。スペイン、ポルトガルからオラン
ダ、さらに17世紀後半にはイギリスに覇権は移行し、西欧文明は繁栄を極めた。そして、
20世紀後半には、世界のパワーの中心は大西洋を渡ってアメリカに移行した。西欧 文明
から西欧文明に由来するアメリカに渡ったパワーの中心が、今度は太平洋を渡りアジアに
移行しようとしている。
例えば人口を見てみよう。ヨーロッパの人口が急激に増加し始めたのが16世紀、ちょう
ど大航海時代からで、中でも西欧への人口の集中が大きい。18世紀の産業革命後からは
さらに人口の増加が加速し、帝国主義時代の増加率は特に著しい。しかし20世紀前半で
人口の増加は鈍化し、これからは減少局面に入ると予想されている。
一方、アメリカは一次関数のように順調に人口が増加しているが、近年は特に移民によ
る人口補填分が大きい。人種別にみてもアフリカ系、アジア系、ヒスパニック系など、
非白人人口の増加が目立ち、ヨーロッパ系の割合は低下している。

戦後著しく人口が増加した国は日本や中国である。周知のように日本はすでに人口の減
少局面に入っている。中国も2030年にはインドに抜かれ、2050年には人口の減少が予想
されている。しかしインド、インドネシア、バングラディシュなどの南アジア諸国はま
すます人口が増加することが予想されているのだ。
人口の多さは力を持つ。民主主義をとる政体において、選挙権を持つ人口が多ければそ
の民意は無視できない。また、労働力、購買力、さまざまな面で人口の規模が多ければ
それが力になる。人口も面からみても21世紀はアジアの世紀となるのは確実を見られて
いる。
しかし、現在も白人の資本家は多い。資本力という点では未だに力を持っており、その
優位性を振るっているではないか。あるいは、学術分野は未だに西欧が主流であり、西
欧の学術的権威のお墨付きを得なければ認められないという傾向は、未だに強いではな
いかという疑問が生じる。

それに対する一つの答えが第44代アメリカ大統領バラク・オバマの選挙だ。オバマはソ
ーシャル・ネットワーキング・テクノロジーに代表される情報革命を実に巧みに活用し
た。Facebook、My Space、Twitterといったソーシャル・ネットワーキング・サービス
(SNS)を活用し、オバマ自身がソーシャルネットワークに参加した。簡単な手続きで
1ドルからのオンライン献金が出来るようにし、選挙に参加しやすくした。支持者は
SNSで他の支持者と交流できるようになっており、共通の基盤を共有する仲間意識を
高めた。その結果、395万人から総額7億4500万ドル(約750憶円)という過去最高の
資金調達を実現し、230万人のサポーター、200万人のボランティア、1300万人の
メールアドレスを集めたといわれる。
Facebookは対立候補もやっている。マケインもFacebookで59万人を集めたが、343万人
を集めてオバマは圧倒的だった。寄付で言えばヒラリー・クリントンは大口の寄付に
支えられていたが、オバマの資金調達力に押され、やがて資金力不足に陥った。なぜ
これほ どまで差がついたのか。
オバマは、Facebookなどの情報テクノロジーに親しんだ若い層を取り込み、彼らの協
力を得ながら、様々な支持者が情報テクノロジーを使いこなせるよう、敷居を低くし
つつ誘導した。支持者が情報空間に参加できるよう教育していったのである。アップ
ルやグーグ ルなどのハイテク企業も、オバマを支援したのは当然である。
また、オバマは従来のコミュニケーション戦略とは明らかに異なる手法で、人種も宗
教も考え方も違う多様な人々に訴求し、様々な違いを超えた共通の基盤を設定し、そ
こに人々を誘導した。無名で実績の乏しい黒人のオバマが、アメリカ建国の原点を訴
え、Change を呼びかけ、「Yes,we can」と語りかける。これは多様な背景を持つサイ
レントマジョリティーを一つにまとめ、新しい選択をするよう促す。これが浸透する
ほど、有名で実績 があり白人であるマケインやクリントンは、いかにも古くさい旧来
の体制の象徴に見えて くるのだ。
つまり、白人主導の西欧文明、大きなテレビ枠を使った宣伝、大企業からの献金とい
った 旧来の枠組みから、それぞれに価値観が異なる多様な人々、ソーシャルメディア
を活用した相互交流、少額から可能な個人献金とボランティアといったように、オバ
マは従来の土 俵とは違う場所で勝負した。つまり戦場を移転し、見事に勝利したのだ。
これは明らかに 西欧文明という旧来の世界からのパラダイムシフトである。
情報化による選挙活動の変化はアメリカのコピーである日本でもおこる。ただし日本
では利権構造が強固で変化が起こりにくり構造になっているため、かなり遅れてやっ
てくる。黎明期はいわゆる「ブログ市長」が既存メディアに依存せず、自ら情報を発
信することで注目を集めた。日本での選挙における情報化の成功例は、2011年の橋本
徹による大阪市 長選挙での勝利だろう。守旧派の抵抗やマスメディアからの様々な
中傷に晒されながらの 彼の勝利は、旧来のマスメディアを使った選挙活動の凋落を
印象づけ、時代の変革を予感 させた。

...1.1.2 第二項 政治への投資
遠隔教育「秋月」おいて投資部門を受け持つ佐藤浩二は、情報革命の加速と西洋から東洋
への力の移行が起こることを予見し、政治への投資を行っている。彼はパソコン通信の時
代からの先駆者であり、形骸化した建前や表面的な綺麗事で固められた現実世界の中では
なく、仮想空間の中に本音でコミュニケーションができる世界を開拓しようと「橘研究
所」を設立し「水素文明を生み出す士官学校メーリングリスト」を運営している。
佐藤は政治にも投資しているが、その方法の一つは装備への投資である。選挙となれば、
街頭演説や立ち会い演説会などが必要になる。そこに投入する資材・装備に最新のテクノ
ロジー、最高の性能に投資したのだった。これは資金さえあれば誰でも真似をすることが
できる。彼と同じようなことをする人が増えれば、それで日本が良くなるというようなや
り方だ。なぜ彼は最先端のテクノロジー、最高の性能の装備にこだわるのか。
例えば彼は2008年当時まだ普及していなかったHDMI端子のついたプロジェクターを購入
している。彼はHDMI規格について研究し、今後はHDMI規格によるデジタル伝送が主流に
なると確信していた。映像情報をアナログ出力でやりとりするのではなく、デジタルフ
ルハイビジョン規格で機器間をHDMIで繋ぐようになる。映像音声データ周りのインター
フェースを単純化しておいたほうが汎用性が高く使い回しができる。プロジェクターを
WXGA規格に準拠したものにしたのも16:9サイズが主流になるという判断からだ。
演説用講演用のワイヤレス・スピーカー・システムもまた、乾電池とニッカド充電池と
ACアダプタに対応した汎用性の高いものである。ポータブル、誰でも操作できるオール
インワンタイプのものだ。メガホン型の肩掛けスピーカーに比べても外見がスマートで
見栄えがいい。
佐藤は、テクノロジーのロードマップを見ながら最先端の規格に準拠した物が主流にな
るだろうと予測し、それらがブレークスルーするタイミングを見て購入している。ゆえ
に、常に高性能な機能を使うことができる。それになんと言っても最新型というのは見
栄えが 良く、それだけで興味を惹き印象づけることができる。装備で印象づけられる
のなら、選挙用のツールとしては好都合だ。そう考えて彼は最高の物を選択したのだ。
それに最新、最高のものを購入することは、メーカーの技術開発力を支援する。最先端
のものが一定量売れることで、メーカーは常に新しい技術を開発することができるから
だ。しかし、最先端の技術は高い。普及段階なら高性能を発揮する機会も少ない。今、
必要としない技術に投資するだけの価値はあるのだろうか。価格がこなれて来て、十分
普及してからでも、遅くはないのではないか。そのほうがより効率的にお金を使えるの
ではないかという疑問もあるだろう。

確かにその時点では確かに高い。しかしそのぶん損をしたのかというと、いち早く最先
端の技術に接することができ、その性能を享受する時間は長い。初期コストはかかるが、
常に最先端の技術に触れ、早くから技術に習熟することができれる。また、新しいモノ
や高 性能なモノ、すぐれたデザインのものはそれだけで注目を集め、関心を引き起こし、
見る 人を驚かせたり感嘆させたりすることができる。
規格は陳腐化するが、新しい規格のものを買っておけば、すぐに時代遅れになることが
ないため結局は長く使える。長く使える結果として、製品寿命から見ればランニングコ
ストを含めると実はあまり変わりないし、コスト以外の付加価値を勘案すれば割安にも
なる。
日本人は所得が少なくなり、新しいもの、性能の良いものを買わなくなった。「もった
いない」という精神は資源の無駄を省くという点では重要だが、新しい技術に対する購
買力が低下したのでは普及もしない。日本のメーカーが競争力を維持できていたのは、
中間所得層が最新機種、最上位機種をどんどん買い、メーカーはそれを開発費に回すこ
とにより 日々フィードバックが効いていたころ、つまり「カイゼン」が機能していた
頃である。
新しいテクノロジーも売れなければ商品段階でコスト負けするので、結局は世に出せ
ない。日本が新しいモノ、高性能なモノに投資をしなかったら、新興国の後発メーカ
ーとの 技術的な差異はなくなる。価格勝負になれば、人件費が安く生産設備が新しい
新興国に勝 てるわけがないのだ。売れないから開発に投資しなくなる。魅力がないか
ら売れなくな る。こうしてダメスパイラルになる。新しいものに触れていなければ、
新しい技術は身に つかない。教育と装備に投資しなくなった日本が、競争力で負ける
ようになったのは必然 なのである。
佐藤は当時最新で最高の装備を総選挙に立候補しようとしていた峯山政宏に提供した。
最新、最高のものだからこそ、時を経ても通用する。実際これらの装備は2011年の京
都会議においても十分実用に耐えるものだった。佐藤は身銭を切ってこれらの投資を
行っている。だから弱みがない。何かに投資をする際、それを補助金や政党助成金に
頼れば「それ がないと出来ない」という弱みができる。補助金頼みの自治体は補助
金に支配される。寄 付金頼みの大学は寄付金に支配される。“人の金”で何かする
ということは、結果として独 立性と自発的意志を奪ってしまう。佐藤は自分自身の
資本から投資しているからこそ、借りがない、弱点がないのだ。

...1.1.3 第三項 対象の選考
巨大な変革の時代に際して、日本は大きなリスクを抱えていた。地震のリスクと、
原子力発電所の事故リスク、そして硬直的な無能な政治システムである。近い将来、
巨大地震が来るだろうことは予想されていた。また、原発事故が起こるだろうこと
も予測されていた。そして、日本の原発利権は決して原発を止めないだろうという
ことも判っていた。
だとすれば、近い未来の何時かの時点で、深刻な原発事故が起こるということは確
定している。問題はそれがいつなのかが判らないことである。そこで取り得る策は
何か。深刻な原発事故が起こることが確定しているのならば、それが起こった時に
人々の力を結集するための旗印、反原発の拠点を作っておくのがよい。政治的拠点、
政治団体の設立である。
装備がいかに最新でも、実際に動くのは人である。人材の補給は物資の補給よりも
難しい。優れたリーダーとなればさらに難しい。戦艦を建造するのは数年でも、艦
長を育てる のは20年かかる。佐藤は次代を導くリーダー育成の必要を感じて「水素
文明を生み出す 士官学校メーリングリスト」を運営するとともに、実際に人にも投
資している。彼が投資 した一人が峯山政宏だった。佐藤はなぜ、峯山を支援の対象
として選択したのだろうか。
峯山は旧帝大理数系の出身で、環境問題やエネルギー問題に対しての知的ベースが
あった。また、シンガポールや北マリアナ諸島、アラブ首長国連邦などに渡り砂漠
緑化や代替 エネルギーの実証実験に関わったこともあるなど、国際経験や環境問
題への取り組みとい う実績もある。さらには、アブダビ中央拘置所に拘留されな
がらも生還したということで 度胸もある。彼は帰国後「地獄のドバイ」を出版し、
週刊誌からインタビューを受けたり、テレビ番組で取り上げられたりと追い風が
があった。つまり「天の時」に恵まれていたのだ。

また、彼が立候補を予定した滋賀3区は彼の地元であり、政界の重鎮のような強力な
対立候補がいない。滋賀県は早くから琵琶湖の浄化に取り組んだり、ソーラーパネル
の工場があったりするなど環境に対する意識が高く、バイオディーゼル燃料など再生
可能エネルギーに対する市民活動も活発だ。一方では産業廃棄物の水銀問題なども取
りざたされており、争点もある。近江は古くから交通の要所であるため交通に便利で、
応援の支持者を呼ぶにも便利だ。つまり「地の利」があるのだ。

孟子曰、「天時不如地利。地利不如人和。」
孟子曰はく、「天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず。」

佐藤は、峯山の資質に加え、天の時と地の利と勘案して、最新最高の装備を提供した
のであった。あとは人の和をどのように結集するかというところが重要になる。そこ
に情報テ クノロジーを活用することで、多くの支持を集めようと考えていた。
とはいえ、日本の選挙は「地盤(支持基盤)・看板(知名度)・鞄(資金)」と言われる。
しばらく地元を離れていた若い彼には、地盤も資金もない。「地獄のドバイ」の追い
風で多少の知名度がある程度だ。それで本当に選挙戦を勝つことができるのだろうか。
誤解すべきではないのは、彼一人が国会議員になったところで、それですぐに原発が
止まるわけではないということだ。しかし、反原発を掲げていれば無視もできない。
国政調査 権を使って情報を公開しつつ“目立ちながらも相手にされない”というよ
うな状態で籠城していれば、いずれその時は来る。仮に選挙に落ちていればその体
験を公開しつつ、次を目指して政治団体を維持できればいい。困難な中で戦ったこ
とで知名度もあがり、さらに共感を呼ぶだろう。
2008年、峯山政宏後援会が設立された。同年12月には東京と大阪でオフ会が開催され、
多くの賛同者が彼のもとに集まった。しかし、彼の支援者への脅迫に屈し、峯山は政
治活動を凍結することを決断する。2009年正月、峯山の戦いは「滋賀の大敗」という
形で終 結した。もしも諦めずに選挙戦を戦っていたらどうなっていただろう。原発
が予想通り爆 発したのは2年後の2011年だった。2009年の総選挙で躍進した民主党
もボロボロに なった。2年間頑張って政治団体を維持していれば、彼は一気に政治
資本を高めることが できたのである。
では、佐藤の投資は無駄になったのか。彼の投資は直接的には実を結ばなかったが、
それは決して無駄にはならなかった。この時提供したプロジェクターやワイヤレスス
ピーカー システムは2011年の京都会議でも十分に役にたったし、この時、後援会に
集まった人の 中には、後に秋月に参加することになった人も多い。秋月に参加し互
いに学ぶ中で、書籍 や電動バイクやソフトウェアといった成果物となって結実して
いる。

それに佐藤は決してあきらめたわけではない。

いまこの瞬間も、第二、第三の次の世代の リーダーが登場するよう、
若い世代に対する教育を通じて「若者にたいする無形有形の支援」を続けている。

《次週に続く》

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  • 2012/05/25
  • 毎週 月・水・金曜日(年末年始を除く)