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日本版ニューディール構想(2) - ドリームジャンボな大型給付金の試論
12/12に発表された「今年の漢字」に「変」が選ばれた。前の記事で予想して並べ
た8字の候補の中の6番目が選ばれ、今年はどうにか面目を保てた。この世相は何
となくよく分かるような気がする。「危」とか「恐」とか「崩」ではなく、
「変」が選ばれた理由は、日本人の気分がすでに経済ではなく政治に向かってい
るということを意味している。政治を早く変えたいのだ。「変」を求めている。
麻生内閣を変えなくては、自民党政権を変えなくては、最早一刻も生きていけな
いという気分の発現なのだ。この経済の状況を単に客観的に受け止めているので
はなく、主体的に「変えなくては」というところまで立ち至っているのであり、
現実に経済的に追い詰められているのである。新しい年に必ず「変」を起こして
次へ行くのだという決意のようなものが伝わってくる。世相を見る眼差しが変わ
ってきて、内面がアクティブになっている。これまでの延長線上には誰も幸福な
人生はないのだ。
オバマの新しい経済政策は、「グリーン・ニューディール」と呼ばれている。百
年に一度の危機に対応する政策は百年に一度の歴史的なものでなくてはならな
い。米国が80年前の大恐慌を克服したルーズベルトの「ニューディール政策」を
今回の対策の名前に付けるように、日本は日本の経済政策の成功体験を名前に付
ければいい。「ニューディール政策」ほど世界的に有名ではないが、韓国や中国
などアジアの人々は「所得倍増計画」を知っている。その政策で日本が今日の成
功と繁栄を導いた現代史を承知している。だから、日本人は日本人の歴史を大事
にして、自分たちの成功体験を足下に踏みしめて、誇らしくそこに立ち戻って、
新しい歴史的経済政策の挑戦に「所得倍増計画」の看板を付ければよいのであ
る。+5%の成長を15年間続ければ、GDPは2倍になる。15年間は長いが、バブル崩壊
からすでに16年間も経っていて、この間、経済はゼロもしくはマイナス成長だっ
た。
異常に長い足踏みを日本経済は続けていたのであり、誤った新自由主義政策のた
めに日本は病気になっていたのであり、国民の時間とエネルギーを無駄に浪費し
たのであり、日本人は鬱屈と停頓の人生の時代を送ってきたのだ。もうそろそろ
立ち上がる時期であり、われわれ日本人が持つ技能と生産力を正当に経済成長の
軌道に乗せ、人の暮らしを欧州並みの先進国らしい豊かさのレベルにして、経済
大国に相応しい充実した公共のストックを持つべきときなのだ。バブル崩壊のあ
と、不良債権処理のために、われわれは間違った薬を新自由主義者に投与され、
その薬を服用し続けたためにさらに体を害した。死の一歩手前で処方の誤りを悟
ったのであり、この毒薬を体に入れることをやめれば、身体は元通り正常な状態
に回復する。国内市場は25年前の時のように活性化する。新自由主義のイデオロ
ギーに汚染された思想と法制度を洗浄すれば、毒を吐き出した日本は自然治癒で
体力を回復することができる。
ここに、定額給付金についての森永卓郎の議論がある。給付金など無意味で論外
だとする世論が圧倒的に多い中、エコノミストの森永卓郎の主張は少し異なった
視角と評価のもので、今回の給付金が景気対策として効果薄なのは、給付金の政
策そのもののに問題があるからではなく、規模が小さすぎるからだと言ってい
る。投入する総額を2兆円ではなく15兆円規模にして、1世帯50万円ほどにすれ
ば、消費を刺激する効果が十分出るという見解を示している。私も森永卓郎と同
じ意見だが、さらに規模を大きくして、20兆円ではなく200兆円を投入すれば、確
実な景気対策の効果が現れるだろうと考える立場である。森永卓郎は、専門家の
認識として、15兆円の財源は簡単に出せると論じている。ここでは財源の問題を
横に置いて、経済効果の面だけを考えてみよう。2兆円で4人家族の1世帯で6万5千
円の支給、これが麻生首相の給付金政策。規模を15兆円にして1世帯50万円の給付
金、これが森永卓郎の給付金政策。
であれば、麻生首相の2兆円の10倍の200兆円を投入して、4人家族1世帯に650万円
を支給したらどうなるか。財源の問題さえ捨象すれば、おそらく森永卓郎はこの
提案に賛同し、専門家の見地から景気対策として大いに効果ありと判断すること
だろう。1世帯に650万円が支給されたらどうなるか。住宅ローンの残債を返済で
きて毎月の生活に余裕ができる世帯が増えるだろう。子供の大学進学の費用で頭
を痛めていた家庭は救われるだろう。マイホームを諦めていた若い世帯に新築マ
ンションを手に入れる頭金ができるだろう。マイカーを手放してしまった世帯が
一括払いでトヨタの高級車を買うことができるだろう。資金繰りで苦しむ中小零
細の自営業者にとっては慈雨の恵みになるはずだ。仮に全体の半分が貯金に回っ
たとしても、半分は消費に回り、その経済効果は計り知れないほど大きくなると
想像される。日本経済の不況対策というのは、これくらいのスケールで考える必
要があるのであり、この規模でようやく効果を期待できるのだ。
給付金政策をやるなら、ドリームジャンボな規模で実施しなくてはならない。財
源の問題を暫く横に置いて考えたとき、労働者の家計に配分を返し、それを消費
に回させて下から内需を拡大しようとすれば、最も手っ取り早い方法は、国家が
一気に巨額の現金をサラリーマンと自営業者の家計にぶち込むことである。日本
の労働者と中小零細業者は15年間の長きにわたって分配を削られ、銀行と大企業
に収奪され続け、税と保険の負担を増やされ、消費生活を切り詰めさせられてき
た。民間消費支出がこれほど縮小して肝硬変のようになったのは、家計がサハラ
砂漠の如く干上がって、サラリーマンの購買力が失われてしまっていたからであ
る。日本経済には(米国や欧州と違って)産業はあり、優良な製品をわんさと生
産する能力はある。無いのは市場であり、製品を買う消費者がいない。否、人間
はいるが購買力がないので市場(消費者)にならない。ならば、資金を政府が供
給して国内市場を作ればいい。これが200兆円給付金の政策思想である。恵みや施
しではない。
国内市場を作る。政策によって個人消費を創出する。社会科学の発想とはこうい
うものだ。それは科学的に作り出すことができる。法制度のオペによって実現す
ることができる。エンジニアが技術でシステムやメカニックを開発するように、
政治や経済を専門にする者は、社会科学による政策で無から有を生み出さなくて
はいけない。ケインズの名前で呼ばれる経済政策は、本質的にこうした考え方に
依拠するものであり、個別企業が自社の利益追求に奔って全体経済を阻害する方
向に導くのを、公共政府が調整役として全体をコントロールし、資金と労働のリ
ソースがバランスよく理想的に回るように調節する。現時点で、給付金を200兆円
出せなどと誰かが言ったら、周囲から狂人扱いされて揶揄と罵倒を浴びせられる
だけだろう。私自身も、これは試論として提出しているのであって、政策の考え
方の基本を問題提起しているのである。だが、よく考えれば、200兆円の財政負担
についても検討する余地はある。15年後の所得倍増が実現するのなら、200兆円の
財政出動は決して無駄な投資ではない。
現在、国の借金は857兆円ある。竹中平蔵が経済財政担当相の頃は、毎日のように
テレビで国の借金時計の報道がされ、「聖域なき構造改革」の正当性を国民に納
得させる言説装置として使われてきた。小泉構造改革の間に、イージス艦が大量
購入され、東京湾横断道路と中部国際空港と神戸空港と静岡空港が建設され、財
政赤字は際限なく膨張したが、マスコミは政府の無駄遣いや官僚天下りと公益法
人については何も言わず、国の借金時計を報道するときは、社会保障費の削減を
言い、合わせて消費税増税を訴え、社会保障か消費税かどちらを取るかを視聴者
国民に迫っていた。それは小泉純一郎と竹中平蔵の代弁だったが、「改革」が言
説の勢いと妥当性を失った現在でも、マスコミは「社会保障か消費税か」の二択
脅迫は言い続け、その主張を決してやめようとしない。その主張を補強する材料
として「財政赤字」を言い続ける。日本の財政赤字は官僚が作り出したものであ
り、官僚が天下りと無駄遣いのシステムを維持する限りは財政赤字は膨らみ続け
る。857兆円の赤字はすぐに1000兆円を超え、1100兆円を超える。
官僚が無駄に税金を使い、財政赤字を膨らみ続けさせるのなら、ここで思い切っ
て給付金200兆円を財政出動した方が、国民経済にとってよほど合理的で効果的な
のではないか。百年に一度の国難の経済危機を打開するとき、通常の経済政策の
手法や規模は恐らく通用しない。肉を切らせて骨を断つ乾坤一擲の大型政策の決
断が必要であり、それは歴史的な政策であり、そのためには経済政策の立案と実
行を官僚の手から奪い、言わば「革命政府」の手で実行する必要があるだろう。
家計の無駄や家計の貯蓄のことを考えて欲しい。心がけ次第で金が貯まり、心が
け次第でズルズルを金を失うことを私たちは知っている。ほんのちょっとした生
活態度によって、お金が浪費されたり貯蓄されたりする。日本の官僚はぐうたら
で、浪費体質が染みつき、言わば、競馬とパチンコとキャバレー三昧の日常生活
から離れられないのである。高い寿司屋と焼肉屋でしか外食ができず、国民の税
金をドブに捨てる反復行動でしか日常業務ができない。官僚の頭の中にあるの
は、新しい公益法人を作って予算を付けることだけだ。ネイティブに散財される
仕組みが回っている。
何もしなくても借金は857兆円から1057兆円になる。官僚が計画的に財政赤字を増
やして行く。それならば、国民のために200兆円の財政資金を使い、危機打開のた
めの歴史的な内需創生に振り向け、日本版ニューディールである「新所得倍増計
画」を起動させることに賭けた方がいいのだ。