最高裁,知財高裁大合議裁判例情報

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主に,知財事件を中心に,それに関係のする最高裁判例,また,是非知っておくべき知財高裁が繰り返し引用する重要な最高裁判例,知財高裁大合議事件をまとめて情報提供するものです。 主な対象は,知財事件に関わる弁護士,弁理士等の実務家向けのものです。

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最高裁,知財高裁大合議裁判例情報
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2010年10月10日
 
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メールマガジン最新号

……………………………………………………………………………

         最高裁,知財高裁大合議裁判例情報

……………………………………………………………………………3号

発行人の「うつぼいわ」です。

このメルマガは,主に知財事件を扱う最高裁判例,知財高裁が繰り返し判示す
る最高裁判例,重要な実務指針となる知財高裁大合議事件裁判例を,まとめる
ものです。

通常の知財高裁判例のまとめは,

有料「知財法律文書作成マニュアル」
(http://www.mag2.com/m/0001170331.html)

で書いていますが,
・本当に固まったものと考えられるもの

・最高裁判例
固まっていなくても実務上の重要な指針となる

・知財高裁大合議裁判例
を,取り上げます。

今までの目次についても,
http://utsuboiwa.jimdo.com/
に掲げています。

そのままコピペできるようにして,より簡単に,より正確に努めます。

内容としての構成は,
・タイトル
・裁判所名等
・原文抜粋
・縮小版(これがコピペ対象です)
・コメント(まとめ現在のコメント)
ここでは,判例に対するコメント,可能ならば位置付け等も加えて書きます。

第3号は,いわゆるリサイクルカートリッジ事件です。

最一小平成19年11月8日判決(平成18年(受)第826号特許権侵害差
止請求事件/第61巻8号2989頁)
知財高裁大合議平成18年1月31月判決(平成17年(ネ)第100212
号特許権侵害差止請求控訴事件

を取り上げます。

この知財高裁大合議判決は,極めて大きい紙幅を取り判断基準(第1類型・第
2類型基準)を立てましたが,この基準自体は,最高裁で変わっています。

個人的にも大変に思い入れがある事件で,私は,上告審段階で,上告人・上告
受理申立人(被控訴人,一審被告)の補助参加代理人として上告審判決にもいっ
ています。日本で,最も早くこの判決を聞いた(当たり前ですが)ひとりです。
あとは,最後のコメントとブログ(http://utsuboiwa.blogspot.com/)で書きます。

まずは,最高裁の全文を載せ,必要な限り知財高裁判決(泣く泣く削りまし
た)を載せることとします。

3号のメニューはコチラです。

■裁判例 ■編集後記

………………………………………………………………………………

■裁判例

………………………………………………………………………………

……………………………………………………

3.特許:特許消尽論
最一小平成19年11月8日判決(平成18年(受)第826号特許権侵害差
止請求事件/民集第61巻8号2989頁)
知財高裁大合議平成18年1月31月判決(平成17年(ネ)第100212
号特許権侵害差止請求控訴事件)

……………………………………………………

最一小平成19年11月8日判決(平成18年(受)第826号特許権侵害差
止請求事件/民集第61巻8号2989頁)
の判示(全文)

1 本件は,インクジェットプリンタ用インクタンクに関する特許権を有する被
上告人が,上告人の輸入販売するインクジェットプリンタ用インクタンクにつ
いて,被上告人の特許の特許発明の技術的範囲に属するとして,上告人に対
し,そのインクタンクの輸入,販売等の差止め及び廃棄を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 本件特許権

被上告人は,発明の名称を「液体収納容器,該容器の製造方法,該容器のパッ
ケージ,該容器と記録ヘッドとを一体化したインクジェットヘッドカートリッ
ジ及び液体吐出記録装置」とする特許(特許第3278410号)に係る特許
権(以下「本件特許権」という。)を有している。

(2) 本件発明

ア上記特許の願書に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,
次のとおりである(以下,この請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。

「互いに圧接する第1及び第2の負圧発生部材を収納するとともに液体供給部
と大気連通部とを備える負圧発生部材収納室と,該負圧発生部材収納室と連通
する連通部を備えると共に実質的な密閉空間を形成するとともに前記負圧発生
部材へ供給される液体を貯溜する液体収納室と,前記負圧発生部材収納室と前
記液体収納室とを仕切るとともに前記連通部を形成するための仕切り壁と,を
有する液体収納容器において,

前記第1及び第2の負圧発生部材の圧接部の界面は前記仕切り壁と交差し,

前記第1の負圧発生部材は前記連通部と連通するとともに前記圧接部の界面を
介してのみ前記大気連通部と連通可能であると共に,前記第2の負圧発生部材
は前記圧接部の界面を介してのみ前記連通部と連通可能であり,

前記圧接部の界面の毛管力が第1及び第2の負圧発生部材の毛管力より高く,
かつ,

液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保持可能な量の
液体が負圧発生部材収納室内に充填されていることを特徴とする液体収納容
器。」(上記記載の本件発明の構成のうち,「前記圧接部の界面の毛管力が第
1及び第2の負圧発生部材の毛管力より高く」されているという構成を「構成
要件H」,「液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保
持可能な量の液体が負圧発生部材収納室内に充填されている」という構成を
「構成要件K」ともいう。)

イ本件発明は,インクジェットプリンタに使用されるインクタンクに関するも
のである。従来技術によるインクタンクとしては,インクタンク内のインクが
外部に漏れないようにこれを保持しつつ,インクタンクの単位体積当たりのイ
ンク収容量を増加させ,かつ,インクを安定的に供給することができるように
するために,インクタンクの内部を仕切り壁によって複数の部屋に分け,プリ
ンタヘのインク供給口のある側の部屋(負圧発生部材収納室)に,負圧発生部
材(ウレタンフォーム等の多孔質体やフェルト等のインク吸収体)を収納して
インクを含浸させる一方,それ以外の部分(液体収納室)には,負圧発生部材
を収納せずにインクを直接充てんするという構成のものがあった。しかし,こ
の構成のインクタンクにおいては,使用開始前の輸送時や保管時に液体収納室
が負圧発生部材収納室の上に置かれる姿勢で放置されると,負圧発生部材収納
室内の空気が気液交換動作によって液体収納室内のインクと入れ替わって液体
収納室内のインクが連通孔を通って負圧発生部材収納室に流出し,負圧発生部
材のうちインクが含浸されていなかった領域にもインクが含浸されて負圧発生
部材収納室のインクが過充てんとなり,開封時に液体供給口等からインクが漏
れ出して,使用者の手などを汚すという問題があった。本件発明は,「1」負
圧発生部材収納室に2個の負圧発生部材(液体収納室との連通部側に第1の負
圧発生部材,大気連通部側に第2の負圧発生部材)を収納し,これらを互いに
圧接させ,その境界層である圧接部の界面の毛管力を上記各負圧発生部材のそ
れよりも高くする(構成要件H)とともに,「2」インクタンクの姿勢のいか
んにかかわらず,前記圧接部の界面全体がインクを保持することが可能な量の
インクを負圧発生部材収納室に収納する(構成要件K)などの構成を採ること
によって,上記圧接部の界面において常にインクを保持した状態とし,これに
より空気の移動を妨げる障壁を形成する機能を果たさせて,インクタンクがど
のような姿勢にあっても液体収納室内のインクが負圧発生部材収納室に流出し
て負圧発生部材収納室のインクが過充てんとなることのないようにし,開封時
のインク漏れを防止しようというものであり,構成要件H及び構成要件Kの双
方の構成を,その本質的部分,すなわち,当該特許発明特有の解決手段を基礎
付ける技術的思想の中核を成す特徴的部分とするものである。


(3) 被上告人製品

ア被上告人は,本件発明の実施品(製品番号BCI-3eBK,BCI-3e
Y,BCI-3eM,BCI-3eCのインクジェットプリンタ用インクタン
ク。以下「被上告人製品」という。)を我が国において製造し,国内及び国外
において販売している。また,被上告人から許諾を受けた被上告人の関連会社
等も,被上告人製品を国外において販売している。なお,国外で販売された被
上告人製品については,譲受人との間で販売先又は使用地域から我が国を除外
する旨の合意はされていないし,その旨が被上告人製品に明示されてもいない。

イ被上告人製品は,インクジェットプリンタに装着されて印刷に供されると,
内部のインクがインク供給口から供給されて減少し,ある程度の使用がされると,
繊維材料から成る第1及び第2の負圧発生部材の圧接部の界面の一部又は全部がイ
ンクを保持しなくなる。ただし,それ以降も印刷をすることは可能である。

ウ被上告人製品は,インクが不足してくると,使用済みのものとしてプリンタ
から取り外されるが,使用済みの被上告人製品においては,液体収納室の壁
面,第1及び第2の負圧発生部材の内部,両負圧発生部材の圧接部の界面,イ
ンク供給口等に若干量のインクが残っている。そして,プリンタから取り外さ
れた使用済みの被上告人製品は,時間が経過するに連れてインクタンクの内部
に残存していたインクの乾燥が進行し,取り外しから1週間~10日程度が経
過した後には,圧接部の界面を含む負圧発生部材の繊維材料の内部に形成され
た多数の微細なすき間にインクが不均一な状態で乾燥して固着し,そのすき間
の内部に気泡や空気層が形成され,その結果,負圧発生部材において新たにイ
ンクを吸収して保持することが妨げられている状態となる。それゆえ,使用済
みの被上告人製品にその状態のままインクを再充てんした場合には,これをイ
ンク収納容器としてインクジェットプリンタに装着して印刷に供することは可
能であるが,たとえ液体収納室全体及び負圧発生部材収納室の負圧発生部材の
圧接部の界面を超える部分までインクを充てんしたとしても,圧接部の界面に
おいて空気の移動を妨げる障壁を形成するという機能が害されることになる。

なお,被上告人製品には,インク補充のための開口部は設けられていない。

エ被上告人製品の1個当たりの小売価格は,800円~1000円程度である。

(4) 上告人製品

ア上告人は,本件発明の技術的範囲に属する原判決別紙物件目録(1),(2)記載
のインクタンク(以下「上告人製品」という。)を,中華人民共和国のマカオ
所在の会社(会社名不詳。以下「甲会社」という。)から輸入し,我が国にお
いて販売している。上告人製品は,甲会社の関連会社(会社名不詳。以下「乙
会社」という。)が使用済みの被上告人製品のインクタンク本体(以下「本件
インクタンク本体」という。)を我が国及び国外から収集し,乙会社の子会社
(会社名不詳。以下「丙会社」という。)がこれを買い受け,後記のとおり,
本件インクタンク本体を利用し,その内部を洗浄してこれに新たにインクを注
入するなどの工程を経て製品化したものであり,甲会社は,これを丙会社から
買い入れて,上告人に輸出している。

イ本件インクタンク本体は,プリンタから取り外されてから丙会社において上
告人製品として製品化されるまでに既に内部に残存するインクが固着する期間
である1週間~10日程度を超える期間が経過しており,その製品化されるま
での間,負圧発生部材において新たにインクを吸収して保持することが妨げら
れ,圧接部の界面において空気の移動を妨げる障壁を形成する機能が害された
状態となっている。

ウ丙会社における上告人製品の製品化の工程は,「1」本件インクタンク本体
の液体収納室の上面に,洗浄及びインク注入のための穴を開ける,「2」本件
インクタンク本体の内部を洗浄する,「3」本件インクタンク本体のインク供
給口からインクが漏れないようにする措置を施す,「4」上記「1」の穴か
ら,負圧発生部材収納室の負圧発生部材の圧接部の界面を超える部分までと,
液体収納室全体に,インクを注入する,「5」上記「1」の穴及びインク供給
口に栓をする,「6」ラベル等を装着する,というものである。

エ上告人製品においては,本件インクタンク本体の内部の洗浄により,そこに
固着していたインクが洗い流され,圧接部の界面において空気の移動を妨げる
障壁を形成する機能の回復が図られている。また,液体収納室にインクがほぼ
満杯に充てんされているとともに,負圧発生部材収納室には,第1の負圧発生
部材と第2の負圧発生部材との圧接部の界面の上方までインクが充てんされて
おり,インクタンクの姿勢のいかんにかかわらず,圧接部の界面全体がインク
を保持することができる状態になっている。


オ上告人製品の1個当たりの小売価格は,600円~700円程度である。

(5) 被上告人による使用済みインクタンクの回収等

ア被上告人は,使用済みのインクタンクにインクを再充てんして再使用するこ
ととした場合には,インクタンクの内部に残存して乾燥したインク等がプリン
タヘッドのインク流路及びノズルの目詰まりの原因となり,印刷品位の低下や
プリンタ本体の故障等を生じさせるおそれもあることなどを理由に,被上告人
製品について,インクを再充てんして再使用するのではなく,1回で使い切
り,新しいものと交換するものとしている。そして,被上告人製品がこのよう
な使い切りタイプのインクタンクであることを示すとともに,使用済み品の回
収を図るため,被上告人製品の包装箱,被上告人製品が使用される被上告人製
のインクジェットプリンタの使用説明書,被上告人のホームページにおいて,
被上告人製品の使用者に対し,交換用インクタンクについては新品のものを装
着することを推奨するとともに,使用済みインクタンクの回収活動への協力を
呼び掛けている。


イ被上告人を含むインクジェットプリンタの製造業者は,それぞれ自社のプリ
ンタに使用されるインクタンク(いわゆる純正品)の販売を行っている。他
方,純正品のインクタンクの使用済み品にインクを再充てんするなどしたイン
クタンク(いわゆるリサイクル品)が,複数の業者により販売されている。こ
のようなリサイクル品の製造方法は,おおむね丙会社による上告人製品の製造
方法と同じである。また,インクタンクの使用者がインクを再充てんするため
に用いるインク(いわゆる詰め替えインク)も販売されている。しかし,被上
告人は,リサイクル品や詰め替えインクの製造販売をしていない。


3 原審は,次のとおり判示して,被上告人の請求を認容した。特許権者又は特
許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において当該特許発明に係る製品
(以下「特許製品」という。)を譲渡した場合には,当該特許製品については
特許権はその目的を達したものとして消尽し,もはや特許権者は,当該特許製
品を使用し,譲渡し又は貸し渡す行為等に対し,特許権に基づく差止請求権等
を行使することができないというべきである(最高裁平成7年(オ)第
1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁参照)。
しかしながら,「1」当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過して
その効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型),又は,
「2」当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を
構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(第2類型)に
は,特許権は消尽せず,特許権者は,当該特許製品について権利行使をするこ
とが許されるものと解するのが相当である。また,我が国の特許権者又はこれ
と同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合,特許権者は,譲受人
に対しては,当該特許製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外す
る旨の合意をしたときを除き,譲受人から当該特許製品を譲り受けた第三者及
びその後の転得者に対しては,譲受人との間でその旨の合意をした上で当該特
許製品にこれを明確に表示したときを除き,当該特許製品を我が国に輸入し,
国内で使用,譲渡等する行為に対して特許権に基づく権利行使をすることはで
きないというべきである(前掲最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決)。し
かしながら,「1」当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してそ
の効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型),又
は,「2」当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部
分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(第2類
型)には,特許権者は,当該特許製品について権利行使をすることが許される
ものと解するのが相当である。本件において,被上告人製品は,当初に充てん
されたインクが費消されたことをもって,製品としての本来の耐用期間を経過
してその効用を終えたということはできず,上告人製品について,上記第1類
型に該当するということはできない。しかし,丙会社における上告人製品の製
品化の工程は,本件発明の本質的部分である構成要件H及び構成要件Kを充足
しない状態となっている本件インクタンク本体について,その内部を洗浄して
固着したインクを洗い流した上,これに構成要件Kを充足する一定量のインク
を再充てんするという行為を含むものである。そして,丙会社の上記行為は,
再び圧接部の界面の機能を回復させて空気の移動を妨げる障壁を形成させるも
のであり,被上告人製品中の本件発明の本質的部分を構成する部材の一部につ
いての加工又は交換にほかならない。したがって,上告人製品については,国
内で販売された被上告人製品を利用したもの,国外で販売された被上告人製品
を利用したもののいずれに関しても,上記第2類型に該当するものとして,本
件特許権の行使が制限されないというべきであり,被上告人は,上告人に対
し,上告人製品の輸入,販売等の差止め及び廃棄を求めることができる。

4 論旨は,原審の特許権行使の可否に係る判断基準,及びこれに基づいて本件
特許権の行使が制限されないとした判断について,法令違反をいうものである
が,採用することはできない。その理由は,以下のとおりである。

(1) 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者(以下,両者を併せて
「特許権者等」という。)が我が国において特許製品を譲渡した場合には,当
該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや
特許権の効力は,当該特許製品の使用,譲渡等(特許法2条3項1号にいう使
用,譲渡等,輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をいう。以下同じ。)には及
ばず,特許権者は,当該特許製品について特許権を行使することは許されない
ものと解するのが相当である。この場合,特許製品について譲渡を行う都度特
許権者の許諾を要するとすると,市場における特許製品の円滑な流通が妨げら
れ,かえって特許権者自身の利益を害し,ひいては特許法1条所定の特許法の
目的にも反することになる一方,特許権者は,特許発明の公開の代償を確保す
る機会が既に保障されているものということができ,特許権者等から譲渡され
た特許製品について,特許権者がその流通過程において二重に利得を得ること
を認める必要性は存在しないからである(前掲最高裁平成9年7月1日第三小
法廷判決参照)。このような権利の消尽については,半導体集積回路の回路配
置に関する法律12条3項,種苗法21条4項において,明文で規定されてい
るところであり,特許権についても,これと同様の権利行使の制限が妥当する
ものと解されるというべきである。


しかしながら,特許権の消尽により特許権の行使が制限される対象となるの
は,飽くまで特許権者等が我が国において譲渡した特許製品そのものに限られ
るものであるから,特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工
や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新た
に製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,
特許権を行使することが許されるというべきである。そして,上記にいう特許
製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発
明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判
断するのが相当であり,当該特許製品の属性としては,製品の機能,構造及び
材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材の交換の態様としては,加
工等がされた際の当該特許製品の状態,加工の内容及び程度,交換された部材
の耐用期間,当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮
の対象となるというべきである。

(2) 我が国の特許権者又はこれと同視し得る者(以下,両者を併せて「我が国
の特許権者等」という。)が国外において特許製品を譲渡した場合において
は,特許権者は,譲受人に対しては,譲受人との間で当該特許製品について販
売先ないし使用地域から我が国を除外する旨の合意をした場合を除き,譲受人
から当該特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては,譲受人
との間で上記の合意をした上当該特許製品にこれを明確に表示した場合を除い
て,当該特許製品について我が国において特許権を行使することは許されない
ものと解されるところ(前掲最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決),これ
により特許権の行使が制限される対象となるのは,飽くまで我が国の特許権者
等が国外において譲渡した特許製品そのものに限られるものであることは,特
許権者等が我が国において特許製品を譲渡した場合と異ならない。そうする
と,我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品につき加工や部材の
交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造さ
れたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,我が国に
おいて特許権を行使することが許されるというべきである。そして,上記にい
う特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては,特許権者等が我が国に
おいて譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合と同一の基準に
従って判断するのが相当である。

(3) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,被上告人は,被上
告人製品のインクタンクにインクを再充てんして再使用することとした場合に
は,印刷品位の低下やプリンタ本体の故障等を生じさせるおそれもあることか
ら,これを1回で使い切り,新しいものと交換するものとしており,そのため
に被上告人製品にはインク補充のための開口部が設けられておらず,そのよう
な構造上,インクを再充てんするためにはインクタンク本体に穴を開けること
が不可欠であって,上告人製品の製品化の工程においても,本件インクタンク
本体の液体収納室の上面に穴を開け,そこからインクを注入した後にこれをふ
さいでいるというのである。このような上告人製品の製品化の工程における加
工等の態様は,単に消耗品であるインクを補充しているというにとどまらず,
インクタンク本体をインクの補充が可能となるように変形させるものにほかな
らない。


また,前記事実関係等によれば,被上告人製品は,インク自体が圧接部の界面
において空気の移動を妨げる障壁となる技術的役割を担っているところ,イン
クがある程度費消されると,圧接部の界面の一部又は全部がインクを保持しな
くなるものであり,プリンタから取り外された使用済みの被上告人製品につい
ては,1週間~ 10日程度が経過した後には内部に残存するインクが固着する
に至り,これにその状態のままインクを再充てんした場合には,たとえ液体収
納室全体及び負圧発生部材収納室の負圧発生部材の圧接部の界面を超える部分
までインクを充てんしたとしても,圧接部の界面において空気の移動を妨げる
障壁を形成するという機能が害されるというのである。そして,上告人製品に
おいては,本件インクタンク本体の内部を洗浄することにより,そこに固着し
ていたインクが洗い流され,圧接部の界面において空気の移動を妨げる障壁を
形成する機能の回復が図られるとともに,使用開始前の被上告人製品と同程度
の量のインクが充てんされることにより,インクタンクの姿勢のいかんにかか
わらず,圧接部の界面全体においてインクを保持することができる状態が復元
されているというのであるから,上告人製品の製品化の工程における加工等の
態様は,単に費消されたインクを再充てんしたというにとどまらず,使用済み
の本件インクタンク本体を再使用し,本件発明の本質的部分に係る構成(構成
要件H及び構成要件K)を欠くに至った状態のものについて,これを再び充足
させるものであるということができ,本件発明の実質的な価値を再び実現し,
開封前のインク漏れ防止という本件発明の作用効果を新たに発揮させるものと
評せざるを得ない。

これらのほか,インクタンクの取引の実情など前記事実関係等に現れた事情を
総合的に考慮すると,上告人製品については,加工前の被上告人製品と同一性
を欠く特許製品が新たに製造されたものと認めるのが相当である。したがっ
て,特許権者等が我が国において譲渡し,又は我が国の特許権者等が国外にお
いて譲渡した特許製品である被上告人製品の使用済みインクタンク本体を利用
して製品化された上告人製品については,本件特許権の行使が制限される対象
となるものではないから,本件特許権の特許権者である被上告人は,本件特許
権に基づいてその輸入,販売等の差止め及び廃棄を求めることができるという
べきである。

5 以上によれば,所論の点に関する原審の判断は,結論において正当であり,
論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官才口千晴裁判官涌井紀夫)

……………………………………………………

知財高裁大合議平成18年1月31月判決(平成17年(ネ)第100212
号特許権侵害差止請求控訴事件)
の判示(特に,方法の発明に関して)

第3 当裁判所の判断
1 国内販売分の控訴人製品にインクを再充填するなどして製品化された被控
訴人製品について物の発明(本件発明1)に係る本件特許権に基づく権利行使
をすることの許否

(1) 物の発明に係る特許権の消尽

第1類型,第2類型についての記述は,http://utsuboiwa.blogspot.com/
内の
http://utsuboiwa.blogspot.com/2010/10/blog-post_9457.html
に移しました(スペースの都合です。申し訳ありません)。

2 国内販売分の控訴人製品にインクを再充填するなどして製品化された被控
訴人製品について物を生産する方法の発明(本件発明10)に係る本件特許権
に基づく権利行使をすることの許否

(1) はじめに

 控訴人は,丙会社が使用済みの国内販売分の控訴人製品を用いて被控訴人製
品として製品化する行為は,本件発明10を実施する行為であるから,当該行
為により製品化された被控訴人製品を輸入,販売する被控訴人の行為は,本件
発明10に係る本件特許権を侵害すると主張する。

 前記1において判示したとおり,国内販売分の控訴人製品に由来する被控訴
人製品については,控訴人は,本件発明1に係る本件特許権に基づき,輸入,
販売等の差止め及び廃棄を求めることができるから,国内販売分の控訴人製品
に由来する被控訴人製品について控訴人が本件発明10に係る本件特許権に基
づく権利行使をすることができるかどうかを判断することは本来必要でない
が,事案にかんがみ,この点についても判断を示すこととする(なお,被控訴
人は,特許権の消尽の主張と併せて,予備的に黙示の許諾の主張をもしている
が,控訴人による本件発明10に係る本件特許権に基づく権利行使が許される
かどうかについては,これらを併せた観点から,判断を示す。)。

(2) 物を生産する方法の発明に係る特許権の消尽
ア 物を生産する方法の発明の実施

 特許法においては,物を生産する方法の発明の実施として,その方法の使用
(特許法2条3項2号)と,その方法により生産した物(以下,物を生産する
方法の発明に係る方法により生産された物を「成果物」という。)の使用,譲
渡等(同項3号)が,規定されている。前者は,方法の発明一般について規定
された実施態様であるが,後者は,物を生産する方法の発明に特有の実施態様
として規定されたものである。

 物を生産する方法の発明に係る特許権の消尽については,上記の各実施態様
ごとに分けて検討することが適切である。

イ 成果物の使用,譲渡等について

 物を生産する方法の発明に係る方法により生産された物(成果物)について
は,特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において
これを譲渡した場合には,当該成果物については特許権はその目的を達したも
のとして消尽し,もはや特許権者は,当該特許製品を使用し,譲渡し又は貸し
渡す行為等に対し,特許権に基づく権利行使をすることができないというべき
である。なぜならば,この場合には,市場における商品の自由な流通を保障す
べきこと,特許権者に二重の利得の機会を与える必要がないことといった,物
の発明に係る特許権が消尽する実質的な根拠として判例(BBS事件最高裁判
決)の挙げる理由が,同様に当てはまるからである。

 そして,(ア) 当該成果物が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用
を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型),又は,(イ) 当該
成果物中に特許発明の本質的部分に係る部材が物の構成として存在する場合に
おいて,当該部材の全部又は一部につき,第三者により加工又は交換がされた
とき(第2類型)には,特許権は消尽せず,特許権者は,当該成果物について
特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解するのが相当である。
この点については,物の発明に係る特許権の消尽について前記1(1)に判示した
ところがそのまま当てはまるものである。

ウ 方法の使用について

 特許法2条3項2号の規定する方法の発明の実施行為,すなわち,特許発明
に係る方法の使用をする行為については,特許権者が発明の実施行為としての
譲渡を行い,その目的物である製品が市場において流通するということが観念
できないため,物の発明に係る特許権の消尽についての議論がそのまま当ては
まるものではない。しかしながら,次の(ア)及び(イ)の場合には,特許権に基
づく権利行使が許されないと解すべきである。


(ア) 物を生産する方法の発明に係る方法により生産される物が,物の発明の
対象ともされている場合であって,物を生産する方法の発明が物の発明と別個
の技術的思想を含むものではないとき,すなわち,実質的な技術内容は同じで
あって,特許請求の範囲及び明細書の記載において,同一の発明を,単に物の
発明と物を生産する方法の発明として併記したときは,物の発明に係る特許権
が消尽するならば,物を生産する方法の発明に係る特許権に基づく権利行使も
許されないと解するのが相当である。したがって,物を生産する方法の発明を
実施して特許製品を生産するに当たり,その材料として,物の発明に係る特許
発明の実施品の使用済み品を用いた場合において,物の発明に係る特許権が消
尽するときには,物を生産する方法の発明に係る特許権に基づく権利行使も許
されないこととなる。


(イ) また,特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が,特許発明に
係る方法の使用にのみ用いる物(特許法101条3号)又はその方法の使用に
用いる物(我が国の国内において広く一般に流通しているものを除く。)であっ
てその発明による課題の解決に不可欠なもの(同条4号)を譲渡した場合にお
いて,譲受人ないし転得者がその物を用いて当該方法の発明に係る方法の使用
をする行為,及び,その物を用いて特許発明に係る方法により生産した物を使
用,譲渡等する行為については,特許権者は,特許権に基づく差止請求権等を
行使することは許されないと解するのが相当である。その理由は,「1」 この
場合においても,譲受人は,これらの物,すなわち,専ら特許発明に係る方法
により物を生産するために用いられる製造機器,その方法による物の生産に不
可欠な原材料等を用いて特許発明に係る方法の使用をすることができることを
前提として,特許権者からこれらの物を譲り受けるのであり,転得者も同様で
あるから,これらの物を用いてその方法の使用をする際に特許権者の許諾を要
するということになれば,市場における商品の自由な流通が阻害されることに
なるし,「2」 特許権者は,これらの物を譲渡する権利を事実上独占している
のであるから(特許法101条参照),将来の譲受人ないし転得者による特許
発明に係る方法の使用に対する対価を含めてこれらの物の譲渡価額を決定する
ことが可能であり,特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているか
らである(この場合には,特許権者は特許発明の実施品を譲渡するものではな
く,また,特許権者の意思のいかんにかかわらず特許権に基づく権利行使をす
ることは許されないというべきであるが,このような場合を含めて,特許権の
「消尽」といい,あるいは「黙示の許諾」というかどうかは,単に表現の問題
にすぎない。)。

 したがって,物を生産する方法に係る発明においては,特許権者又は特許権
者から許諾を受けた実施権者が,専ら特許発明に係る方法により物を生産する
ために用いられる製造機器を譲渡したり,その方法による物の生産に不可欠な
原材料等を譲渡したりした場合には,譲受人ないし転得者が当該製造機器ない
し原材料等を用いて特許発明に係る方法の使用をして物を生産する行為につい
ては,特許権者は特許権に基づく差止請求権等を行使することは許されず,当
該製造機器ないし原材料等を用いて生産された物について特許権に基づく権利
行使をすることも許されないというべきである。

(3) 本件についての判断

 そこで,本件において,上記のような観点から,国内販売分の控訴人製品に
由来する被控訴人製品について,物を生産する方法の発明である本件発明10
に係る本件特許権の行使が許されるかどうかについて検討する。

ア 本件発明10について

・・・充填の方法については,特許請求の範囲に何ら具体的な記載はされてお
らず,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載によれば,公知の方法を利
用することができるとされている(前記1(2)イ(カ),本件明細書段落
【0105】参照)。

(イ) まず,成果物の使用,譲渡等(前記(2)イ)についてみる。

 控訴人製品が,本件発明10の技術的範囲に属する方法により,控訴人によっ
て製造され,控訴人及び控訴人の許諾を受けた者により販売されたことは,当
事者間に争いがなく,被控訴人製品が,丙会社により,上記控訴人製品のイン
ク費消後の本件インクタンク本体にインクを再充填するなどして製品化された
ものであることは,前記1(2)オ認定のとおりである。したがって,前記(2)イ
のとおり,被控訴人が,本件発明10の成果物としての被控訴人製品を譲渡す
る行為について,本件発明10に係る本件特許権に基づく権利行使が許される
かどうかについては,物の発明である本件発明1に係る本件特許権が消尽する
か否かと同様に検討すべきである。

 そうすると,前記1において判示したのと同様の理由により,本件発明10
の成果物である控訴人製品が,当初に充填されたインクが費消されたことをもっ
て,本件発明10の成果物が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用
を終えたものとなる(第1類型)ということはできないが,本件発明10にお
いて,2個の負圧発生部材を収納し,その圧接部の界面の毛管力が各負圧発生
部材の毛管力よりも高い負圧発生部材収納室を備えた液体収納容器を用意する
という工程(構成要件H')及び液体収納容器がどのような姿勢をとっても圧接
部の界面全体が液体を保持することが可能な量の液体を充填するという工程
(構成要件K')は発明の本質的部分を構成する工程の一部を成すものであり,
その効果は本件発明10の成果物である控訴人製品中の部材(本件発明1の構
成要件H及びKを充足する部材)に形を換えて存在するというべきところ,丙
会社によって前記工程により被控訴人製品として製品化されたことで,当該部
材につき加工又は交換がされた場合(第2類型)に該当するから,控訴人は,
本件発明10に係る本件特許権に基づく差止請求権等を行使することが許され
るというべきである。

(ウ) 次に,方法の使用(前記(2)ウ)についてみる。

 丙会社による被控訴人製品の製品化の方法が本件発明10の技術的範囲に属
することは,当事者間に争いがない。また,上記(ア)によれば,本件発明1 0
は,本件発明1に係る液体収納容器を生産する方法の発明であって,インクを
充填して使用することを当然の前提とする液体収納容器に,公知の方法により
液体を充填するというものであるから,本件発明1に新たな技術的思想を付加
するものではなく,これと別個の技術的思想を含むものではないと解される。
そうすると,本件発明1に係る本件特許権が消尽するときには,本件発明10
に係る本件特許権に基づく権利行使も許されないこととなるが,本件発明1に
係る本件特許権が消尽しない以上,同様の理由により,丙会社が本件発明10
の技術的範囲に属する方法により生産した成果物である被控訴人製品につい
て,控訴人が本件発明10に係る本件特許権に基づく権利行使をすることは許
されるというべきである。

 また,被控訴人製品は,上記のとおり,丙会社がインク費消後の控訴人製品
を用いて,これにインクを再充填するなどして製品化したものである。そうす
ると,丙会社による本件発明10に係る方法を使用しての被控訴人製品の製造
については,控訴人及び控訴人の許諾を受けた者により販売された本件インク
タンク本体が,製造機器ないし原材料等として用いられていると解することも
可能であるが,控訴人製品は,前記第2の2(4)のとおり,本件発明1の技術的
範囲に属するものとして,インクが充填された状態で販売されているものであっ
て,インクタンク製造のための製造機器ないし原材料等として販売されている
ものではない。加えて,前述のとおり,本件発明10は,本件発明1に係る液
体収納容器を生産する方法の発明であって,本件発明1と別個の技術的思想を
含むものではないところ,本件発明10における「前記負圧発生部材収納室
に,前記液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保持可
能な量の液体を充填する第2の液体充填工程」(構成要件K')との点は,本件
発明10の本質的部分の一つであるから,丙会社がインクの費消された後の控
訴人製品(本件インクタンク本体)に上記一定量のインクを充填する行為は,
単に控訴人等の販売に係る本件インクタンク本体にインクを再充填する行為と
いうにとどまらず,本件発明10のうち本質的部分に当たる工程を新たに実施
するものである。これらの点を考慮すれば,本件において,控訴人及び控訴人
の許諾を受けた者が本件発明10に係る方法を使用してのインクタンクの製造
のための製造機器ないし原材料等を販売したということはできないから,控訴
人が本件発明10に係る本件特許権に基づく権利行使をすることが許されない
ということはできない。

ウ 結論

 以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,本件発明10に係る本件特許権
に基づき,国内販売分の控訴人製品に由来する被控訴人製品の輸入,販売等の
差止め及び廃棄を求めることができる。


3 国外販売分の控訴人製品にインクを再充填するなどして製品化された被控
訴人製品について本件特許権に基づく権利行使をすることの許否

(1) 物の発明に係る特許権について

この部分も,
http://utsuboiwa.blogspot.com/2010/10/blog-post_9457.html
に移しました。

(2) 物を生産する方法の発明に係る特許権について

ア 控訴人は,丙会社が使用済みの国外販売分の控訴人製品を用いて被控訴人
製品として製品化する行為は,本件発明10を実施する行為であるから,当該
行為により製品化された被控訴人製品を我が国に輸入し,国内において販売す
る被控訴人の行為は,本件発明10に係る本件特許権を侵害すると主張する。

 上記(1)において判示したとおり,国外販売分の控訴人製品に由来する被控訴
人製品については,控訴人は,本件発明1に係る本件特許権に基づき,輸入,
販売等の差止め及び廃棄を求めることができるから,国外販売分の控訴人製品
に由来する被控訴人製品について控訴人が本件発明10に係る本件特許権に基
づく権利行使をすることができるかどうかを判断することは本来必要でない
が,事案にかんがみ,この点についても判断を示すこととする。

イ 物を生産する方法の発明の実施態様のうち,まず,当該方法により生産さ
れた物(成果物)の使用,譲渡等(特許法2条3項3号)について,検討する。

 物を生産する方法の発明に係る方法により生産された物(成果物)について
は,我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において成果物を譲渡し
た場合,特許権者は,譲受人に対しては,当該成果物について販売先ないし使
用地域から我が国を除外する旨の合意をしたときを除き,譲受人から特許製品
を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては,譲受人との間でその旨の
合意をした上で成果物にこれを明確に表示したときを除き,当該成果物を我が
国に輸入し,国内で使用,譲渡等する行為に対して特許権を行使することはで
きないというべきである。なぜならば,この場合には,国際取引における商品
の自由な流通を尊重すべきことなど,物の発明に係る特許権について判例
(BBS事件最高裁判決)の挙げる理由が,同様に当てはまるからである。本
件において,国外で販売された控訴人製品については,譲受人との間で販売先
又は使用地域から我が国を除外する旨の合意はされていないし,その旨が控訴
人製品に明示されてもいないことは,前記(1)アのとおりである。

 しかしながら,(ア) 当該成果物が製品としての本来の耐用期間を経過してそ
の効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型),又は,
(イ) 当該成果物中に特許発明の本質的部分に係る部材が物の構成として存在す
る場合において,当該部材の全部又は一部につき,第三者により加工又は交換
がされたとき(第2類型)には,特許権者は,当該成果物について特許権に基
づく権利行使をすることが許されるものと解するのが相当である。この点につ
いては,物の発明に係る特許権について判示した理由(前記(1)ア参照)が,同
様に当てはまるものである。

 そして,本件については,物の発明に係る特許権について前記(1)イに判示し
たのと同様の理由により,本件発明10の成果物である控訴人製品が,当初に
充填されたインクが費消されたことをもって,製品としての本来の耐用期間を
経過してその効用を終えたものとなる(第1類型)ということはできないが,
本件発明10において構成要件H'及びK'は発明の本質的部分を構成する工程
の一部を成すものであり,その効果は本件発明10の成果物である控訴人製品
中の部材(本件発明1の構成要件H及びKを充足する部材)に形を換えて存在
するというべきところ,丙会社によって前記工程により被控訴人製品として製
品化されたことで,当該部材につき加工又は交換がされた場合(第2類型)に
該当するから,控訴人は,被控訴人に対し,本件発明10に係る本件特許権に
基づき,国外販売分の控訴人製品に由来する被控訴人製品の輸入,販売等の差
止め及び廃棄を求めることができる。ウ 次に,物を生産する方法の発明の実
施態様のうち,特許発明に係る方法の使用をする行為(特許法2条3項2号)
について判断する。

 物を生産する方法の発明に係る方法により生産される物が,物の発明の対象
ともされており,かつ,物を生産する方法の発明が物の発明と別個の技術的思
想を含むものでない場合において,特許権者又はこれと同視し得る者が国外に
おいて譲渡した特許製品について,物の発明に係る特許権に基づく権利行使が
許されないときは,物を生産する方法の発明に係る特許権に基づく権利行使も
許されないと解するのが相当である。本件発明10は,本件発明1に係る液体
収納容器を生産する方法の発明であって,インクを充填して使用することを当
然の前提とする液体収納容器に,公知の方法により液体を充填するというもの
であるから,本件発明1に新たな技術的思想を付加するものではなく,これと
別個の技術的思想を含むものではないと解されるが,本件発明1に係る本件特
許権に基づく権利行使が許される以上,控訴人が本件発明10に係る本件特許
権に基づく権利行使をすることは,許されるというべきである。

 一方,特許権者又はその許諾を受けた実施権者が,特許発明に係る方法の使
用にのみ用いる物(特許法101条3号)又はその方法の使用に用いる物(我
が国の国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明
による課題の解決に不可欠なもの(同条4号)を我が国の国内において譲渡し
た場合においては,譲受人ないし転得者がその物を用いて当該方法の発明に係
る方法の使用をする行為,及び,その物を用いて特許発明に係る方法により生
産した物を使用,譲渡等する行為について,特許権者は,特許権に基づく権利
行使をすることは許されないというべきであるが(前記2(2)ウ(イ)参照),特
許権者又はこれと同視し得る者がこれらの物を国外において譲渡した場合にお
いて,これらの物を我が国に輸入し国内でこれらを用いて特許発明に係る方法
の使用をする行為,及び,国外でこれらの物を用いて特許発明に係る方法によ
り生産した物を我が国に輸入して国内で使用,譲渡等する行為について,特許
権に基づく権利行使をすることが許されるかどうかは,判例(BBS事件最高
裁判決)とは,問題状況を異にする。すなわち,この場合には,国外での取引
行為によりこれらの物を取得した譲受人ないし転得者が,国内でこれらの物を
用いて特許発明に係る方法の使用をし,あるいはこれらの物を用いて生産した
物を国内で使用,譲渡等することをも,特許権者が黙示的に許諾したと解する
ことができるかどうかは,なお,検討を要する課題というべきである。

しかし,本件においては,前記2(3)イ(ウ)のとおり,控訴人及び控訴人の許諾
を受けた者が本件発明10に係る方法を使用してのインクタンクの製造のため
の製造機器ないし原材料等を販売したということはできず,前記検討課題の前
提を欠くものであるから,その結論のいかんにかかわらず,控訴人は,被控訴
人に対し,本件発明10に係る本件特許権に基づき,国外販売分の控訴人製品
に由来する被控訴人製品の輸入,販売等の差止め及び廃棄を求めることができ
るというべきである。

4 結語

 以上によれば,控訴人の請求はいずれも理由があるから,これを棄却した原
判決を取り消し,控訴人の請求をいずれも認容することとして,主文のとおり判決
する。なお,仮執行の宣言は相当ではないので,これを付さないこととする。



……………………………………………………

縮小版

……………………………………………………

・国内消尽の判断基準

「特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者(以下,両者を併せて
「特許権者等」という。)が我が国において特許製品を譲渡した場合には,当
該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや
特許権の効力は,当該特許製品の使用,譲渡等(特許法2条3項1号にいう使
用,譲渡等,輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をいう。以下同じ。)には及
ばず,特許権者は,当該特許製品について特許権を行使することは許されない
ものと解するのが相当である。この場合,特許製品について譲渡を行う都度特
許権者の許諾を要するとすると,市場における特許製品の円滑な流通が妨げら
れ,かえって特許権者自身の利益を害し,ひいては特許法1条所定の特許法の
目的にも反することになる一方,特許権者は,特許発明の公開の代償を確保す
る機会が既に保障されているものということができ,特許権者等から譲渡され
た特許製品について,特許権者がその流通過程において二重に利得を得ること
を認める必要性は存在しないからである(前掲最高裁平成9年7月1日第三小
法廷判決参照)。このような権利の消尽については,半導体集積回路の回路配
置に関する法律12条3項,種苗法21条4項において,明文で規定されてい
るところであり,特許権についても,これと同様の権利行使の制限が妥当する
ものと解されるというべきである。
 しかしながら,特許権の消尽により特許権の行使が制限される対象となるの
は,飽くまで特許権者等が我が国において譲渡した特許製品そのものに限られ
るものであるから,特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工
や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新た
に製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,
特許権を行使することが許されるというべきである。そして,上記にいう特許
製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発
明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判
断するのが相当であり,当該特許製品の属性としては,製品の機能,構造及び
材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材の交換の態様としては,加
工等がされた際の当該特許製品の状態,加工の内容及び程度,交換された部材
の耐用期間,当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮
の対象となるというべきである。」(最一小平成19年11月8日判決(平成
18年(受)第826号特許権侵害差止請求事件・第61巻8号2989頁))




・国外消尽の判断基準

「我が国の特許権者又はこれと同視し得る者(以下,両者を併せて「我が国の
特許権者等」という。)が国外において特許製品を譲渡した場合においては,
特許権者は,譲受人に対しては,譲受人との間で当該特許製品について販売先
ないし使用地域から我が国を除外する旨の合意をした場合を除き,譲受人から
当該特許製品を譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては,譲受人との
間で上記の合意をした上当該特許製品にこれを明確に表示した場合を除いて,
当該特許製品について我が国において特許権を行使することは許されないもの
と解されるところ(前掲最高裁平成9年7月1日第三小法廷判決),これによ
り特許権の行使が制限される対象となるのは,飽くまで我が国の特許権者等が
国外において譲渡した特許製品そのものに限られるものであることは,特許権
者等が我が国において特許製品を譲渡した場合と異ならない。そうすると,我
が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換が
され,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたも
のと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,我が国において
特許権を行使することが許されるというべきである。そして,上記にいう特許
製品の新たな製造に当たるかどうかについては,特許権者等が我が国において
譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合と同一の基準に従って
判断するのが相当である。」(最一小平成19年11月8日判決(平成18年
(受)第826号特許権侵害差止請求事件・第61巻8号2989頁))



……………………………………………………
H22.9.14現在のコメント

この事件では,
まったく話題になっていませんが,

私も補助参加人として参加し,
補助参加人の立場で,

上告申立理由書,上告受理申立理由書
を書いています。

・上告審の補助参加の可否

・基準論の変更

・特に第2類型の「特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部
又は一部」の部分についての,「一部」についての基準論自体

を大きく展開しました。

自ずから,法律的見解,法律的な論法の持って行き方も,上告受理申立人(被
参加人)とは異なるところもあります。



問題点は,
・国内・物の発明に関する消尽論
・国外・物の発明に関する消尽論
・国内・方法の発明に関する消尽論
・国外・方法の発明に関する消尽論
です。知財大合議判決は,それぞれを論じていますが,

最高裁は,「特許製品」(当該特許発明に係る製品)の当該特許製品の使用,
譲渡等(特許法2条3項1号にいう使用,譲渡等,輸出若しくは輸入又は譲渡
等の申出をいう。以下同じ。)の使用,譲渡等(特許法2条3項1号にいう使
用,譲渡等,輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をいう。以下同じ。)を問題
にし,国内or国外(これは一応分けてあるが同じ基準)を問うていません。ま
た,方法の発明については知財高裁でも述べていますが「国内販売分の控訴人
製品に由来する被控訴人製品については,控訴人は,本件発明1に係る本件特
許権に基づき,輸入,販売等の差止め及び廃棄を求めることができるから,
国内販売分の控訴人製品に由来する被控訴人製品について控訴人が本件発明
10に係る本件特許権に基づく権利行使をすることができるかどうかを判断
することは本来必要でない」のです。

事実認定・法律論については,知財高裁がかなり詳細にいってはいます。特
に,方法の発明については最高裁が明示はしていませんので,考え方を知るに
も残しておきます。



本当は,上告受理申立て理由書をさらすことができれば,一番いいのですが,
できませんので,ブログ(http://utsuboiwa.blogspot.com/)に少しづつ考え
るところ,考えるべきところ等を書いていくことにします。




なお,上告受理申立て理由書で相反する判例として取り上げたのは,

最三小平成9年7月1日判決(民集第51巻6号2299頁,BBS事件最高裁判決)
東京高裁平成13年11月29日判決(判例時報1779号89頁,アシクロビル高裁判決)

です。
……………………………………………………

________________________________

■編集後記
___________________________________

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「最高裁,知財高裁大合議裁判例情報」が、ご利用いただいている皆さんに役立てば幸いです。

ご感想・ご意見は、お気軽に

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では、またお会いしましょう!!            (うつぼいわ)


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