竹内薫
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竹内薫のシュレ猫日記<101冊目の始まり>自薦集+書き下ろし

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竹内薫のシュレ猫日記<101冊目の始まり>自薦集+書き下ろし

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サイエンス作家の竹内薫がお送りする、ちょっぴり笑えて、考えさせられる、猫と科学と教育のディープなお話。質問コーナーもあります。

著者プロフィール

竹内薫

小学校時代、父親の転勤でニューヨークの現地校にいきなり転校させられ、泣きながら英語を勉強する。帰国後、今度は漢字が書けずに不登校になる。大学院でカナダのモントリオールに渡り、マイナス20度の極寒の中、月300ドルの安アパートでなんとか凌ぐ。帰国後、就職できずに、気がついたらプログラミングと執筆で生計を立てるようになり、そこに猫がたくさん棲み着き、現在にいたる。自分が不登校だったこともあり、「学校に行かない選択」「多様な学び」を応援している。

猫好きサイエンス作家。四半世紀にわたり、サイエンスの伝道師として、書籍、テレビ、ラジオ、講演等で活躍。AI時代を生き抜くための教育を実践する、YESインターナショナルスクール校長を務める。また、不登校・ホームスクール・ハイブリッドスクールなど、多様な学びができる「居場所」作りに奔走中。好きなこと=物理学の数式をいじくること、猫と戯れること、カポエイラの新しいアクロバットを練習すること、最新のデジカメやレンズを買い替えること、野鳥撮影。

サンプル号
竹内薫のシュレ猫日記
101冊目の始まり
自薦集+書き下ろし

<リニューアル第一回>

 こんにちは! サイエンス作家の竹内薫です。
 まぐまぐ!を始めてから3ヶ月が経ち、いろいろと試行錯誤を続けてきましたが、周囲から「竹内さんといえばサイエンス、それも宇宙や物理なんだから、もっとサイエンスの話を書いてよ」という忠告をいくつももらいました。
 出版界が未曾有の構造不況で、音を立てずに崩れていくなか、これまで「四半世紀かけて100冊書いた自著」を読み返して、おそらく自分にとって最後となる、次の四半世紀の活動につなげていきたいという思いが日増しに強くなってきました。
 そこで、ここまでのメルマガ配信で好評だったコンテンツ(VISION、小学生からのビブンセキブンなど)は不定期で残しつつ、毎回一冊ずつ、過去の著作を取り上げて、じっくりと読み解くコーナーを据えることにしました。
 その当時、編集部とどんな交渉をしたのか。ボツになった原稿の方がいまだに良いと信じている。出版直後に大きな誤りが見つかって大騒ぎになった。翻訳の解釈について原著者と何度もやりとりした。全然売れなくてへこたれた。逆にベストセラーとなって一息つけた、などなど、盛りだくさんの裏エピソードを書いていきます。
 また、「品切れ重版未定」となっている過去作については、数ページから10ページ程度を掲載し、ダイジェストとして「読んだ気分」になっていただくことを狙います。
 読者にとっては、「え? これが自薦に入るの?」という作品もあるかもしれませんが、実は、出版社、編集者、読者目線での「竹内薫の代表作」と、著者目線での代表作とは、必ずしも一致しなかったりするのです!
 日頃、あまり表に出ない、「仕事としてのサイエンス作家」の素顔を晒そうと考えております。乞うご期待!
 とはいえ、今週の最初は不定期連載「小学生からのビブンセキブン」です。前回、お金の複利計算とネイピア数をご紹介しましたが、今回はその続きで「もしも利子が虚数になったら」というSFチックな世界についてお話しいたします。



・101冊目の始まり <1>
『アインシュタインと猿 パズルでのぞく物理の世界』

 自薦の1冊目に取り上げる本は、やはり、
『アインシュタインと猿 パズルでのぞく物理の世界』(日経サイエンス社1989年5月刊・850円)です。たしか初版が5千部で、重版ならず。ほろ苦い作家デビューとなったため、いまだに当時の状況が脳裏に浮かびます。
 そもそもの始まりは、さまざまな伝手を頼り、日経サイエンス編集長をしていた餌取章男(えとり・あきお)さんに、いきなり原稿を持ち込んだことです。しかし、応接室で私と会ってくれた餌取さんの口からは、衝撃的な発言が。
「ごめんねぇ、お役に立ちたいんですが、私はこれから担当重役に辞表を提出しにいくところなんですよ」
 いやはや、しょっぱなからこんな調子だったのです、私の作家人生は。苦労に苦労を重ねて面会した人がその日、辞めるなんて……ふつうはありえませんよね。まさに躓きの連続。
 しかし、持ち前の粘り腰で、日経サイエンスの副編集長だった松尾義之(まつお・よしゆき)さんに原稿を見てもらい、最終的に原稿は本になりました。このとき、私はカナダのモントリオールにあるマギル大学大学院に留学中で、ゲラのやりとりなどをした覚えがありません。手書き原稿をワープロで打ち直して、あとはイラスト案を松尾さんに託し、私は、一時帰国を終えてモントリオールに帰り、博士論文執筆のための計算に明け暮れる日々を送っていました(アインシュタイン方程式の計算機シミュレーションばかりやっていましたねぇ)。
 冬が過ぎて、松尾さんからは何も連絡がなく、「ああ、やはりこんな駆けだしの若造の原稿なんか出版されることはないのだ」と、諦めかけていたとき、いきなり日経サイエンスから国際郵便が届きました。包みを開けてみてびっくり。中には、私の名前が冠された処女作が10冊入っていたのです。生まれて始めて「自分の名前」で書いた本です。私はページを開いて、本の中に顔を突っ込んで、思い切り息を吸いました。大好きなインクの匂いがしました。
(もしかしたら、作家になれるかもしれない)
 そんな希望が湧いてきました。
 しかし、よくよく本の中身を見てみて、二度目の驚きがありました。なんと、そこには、ド下手としかいいようのない私のイラスト案が、そのまま掲載されていたからです!
(えええ? オレのイラスト案を元にイラストレーターが描き起こすんじゃなかったの? こんな絵を出版してしまって大丈夫なのか?)
 今から考えると、辞めた編集長の「案件」だったため、引き継いだ松尾さんは、それなりに切羽詰まってしまって、なるべくコストがかからない形にして、なんとか本を世に送り出してくれたのだと思います。
 当時も、単行本の出版には、決まったルートがあるわけでもなく、持ち込み原稿を出版してもらうのは至難の業。文芸作品なら、たくさんの新人賞があり、新人発掘のシステムが存在しますが、サイエンス・ライティングの世界には新人賞などありゃしません。やみくもに行動して、人の伝手を辿って、編集者に原稿を見てもらうしか方法がなかったのです。
 今なら、インターネットのブログやメルマガといった形で原稿を配信し、それを見た編集者から声がかかって出版にいたる、という道がありますが、1989年当時は、そんなものもありませんでした。
 われながら、よくもずうずうしく原稿を持ち込んだものだと思います。若くて怖い物知らずだったからできたのですね。いまなら事前にいろいろと考えて、絶対に初対面の編集者に原稿を持ち込むなんてことはいたしませんよ。若さにはそれなりの意味があるのかもしれません。
 さて、そんな記念碑的な処女作の当時の表紙はこんな感じ:

(表紙スキャン入る)←配信号では画像が入ります

 おや? 29歳の竹内薫には毛がたくさんあるように見えます。なんと羨ましい。
 ついでに中身も見てみましょう。

(中身のスキャン入る)←配信号では画像がたくさん入ります

 おおお! たしかに掲載されていますね、私がテキトーに描いたイラストが(汗)。よくテレビでタレントさんが、デビュー当時のCDの歌を流されて「恥ずかしい!」と言っていますが、あれとよく似ていて、デビュー時は、作家といえども、かなり恥ずかしいことを平気でやっていたりするわけですね……いや、だから、私の場合は、プロのイラストレーターに頼む費用がなかっただけなのでしょうが……。
 ちなみにこの本、のちに版元が変わり、2010年に大幅に中身をアップツーデートして再刊行されました(『アインシュタインと猿』竹内薫・原田章夫、サイエンス・アイ新書、1028円)。このときは、さすがに昔のド下手なイラストではなく、きちんとプロがイラストを描いてくれました。ちゃんちゃん。



・小学生からのビブンセキブン

 前回は、年利100%(=1)の複利計算の話をしました。復習から始めましょう。
 まず、利子が1年に1回しかつかないのであれば、1年後に受け取る金額は、

1+1=2倍

になりますよね。同じように年利が1でも、途中で利子計算がなされる場合はどうでしょう。たとえば半年に1回、利子がつくとします。その場合、「複利」なので、元本だけでなく、生じた利子にもさらに利子がつくため、半年後には、

1+1/2=1・5倍

1年後には、2回の利子計算がなされ、

(1+1/2)^2=2・25倍

のお金を受け取ることとなります。利子がつく時期をどんどん短くして、1ヶ月ごととすると、年に12回の利子計算がなされ、

(1+1/12)^12=2・613035……

 さらに、毎日利子がつくのであれば、

(1+1/365)^365=2・714567……

 となります。そして、無限小の時間で利子がつく「極限」がネイピア数eとなります。

(1+1/n)^n →nが無限の極限→2・718281……=e

 さて、ここまでは年利が1としてきましたが、今度は、年利xの場合、単純に(1/n)を(x/n)に変えればよいので、

(1+x/n)^n →nが無限の極限→2・718281……のx乗=e^x

となり、これを指数関数と呼びます。
 はい、ここまでが前回の復習です。

 いよいよ禁断の領域に入る時がやってまいりました。このxは、これまで暗黙の了解として、実数だと思って計算してきたわけです。なぜなら、お金につく利子なので、実ではなく虚だと困ってしまうからです。読者のみなさんは、虚数の金利なんて欲しいですか? うーむ。
 しかし、第四次産業革命のいま、世界は変わりました。考えてみれば、中央銀行が発行権をもたず、採掘(マイニング)のみによって発行される「仮想通貨」が世界を席巻しつつある今、どこかの銀行が生き残りを賭けて「虚数金利」を導入しても不思議ではありせん。
 そこで、思い切って、そんなSFチックな世界がやってきたとして、x=iπという金利になったとしましょう。その値をnを徐々に大きくしながら計算してみましょう(手計算でもかまいませんが、素早く結果が欲しければ、Google検索で計算してくれます。是非、やってみてください)。

(1+iπ)=1 + 3.14159265 i
(1+iπ/2)^2=-1.4674011 + 3.14159265 i
(1+iπ/3)^3=-2.28986813 + 1.99321204 i
(1+iπ/4)^4=-2.32059739 + 1.20370036 i
(1+iπ/5)^5=-2.16856903 + 0.759016818 i
(1+iπ/6)^6=-2.00552104 + 0.506767409 i
 ……
(1+iπ/12)^12=-1.48493905 + 0.102563155 i
(1+iπ/365)^365=-1.0136113 + 0.0000786311771 i
 ……
(1+iπ/n)^n → nが無限大の極限 → -1.0

 つまり、この虚数金利の世界では、どれくらい頻繁に利子がつくかによって、もらえるお金の実数部分と虚数部分が変動してゆき、最終的に、無限小の時間で金利計算がなされるようになると、虚数部分は消滅して、実数部分が「-1」になるのです。
 これをネイピアの数を用いて書いてみると、

e^iπ=-1

右辺を左辺に移項すると、

e^iπ+1=0

となって、われわれの出発点であってオイラーの等式に戻ってきたわけなのです!
シュレ猫「まとめてにゃ」
 はい。われわれは、手始めに、金融でふつうに使われる「複利」、つまり、元本だけでなく、利子が利子を生むような世界で、年利1(100%)の計算をしてみました。
 ただし、利子が1年ごとに計算されるのではなく、半年、1ヶ月ごと、一日ごと、無限小時間ごと、というふうに極限の計算をしてみました。すると、しまいに、1年たったときに、お金がネイピア数(e=2・718281……)倍に増えることがわかりました。
 次に、仮想通貨に恐れをなした銀行の一部が「虚数金利」を導入する事件が起こりました。そして、年利は1ではなくiπとされました(その銀行の判断の裏に何があったかは不明のままです)。すると、しまいには、利子がついて増えるはずのお金は、逆に減ってしまって、なんと「マイナス1倍」のお金を受け取るはめに!
 つまり、「当行は虚数金利の導入に踏み切りました!」という謳い文句に騙されて、10万円を預けたあなたは、1年後、この銀行から10万円の支払い請求を受ける状況に陥ったのです。な、なんて怖い銀行なんだ。ほとんど詐欺ではないか。
 このコワ〜い世界こそが、オイラーの等式の意味するところだったのです……。
シュレ猫「世界一美しいどころか、世界一怖い等式にゃん!」
 いや、まあ、美しいバラには棘があるということで。(続く)
 


 竹内薫のシュレ猫日記、リニューアル第一弾、いかがだったでしょう? 今回の『アインシュタインと猿』は単行本だったので、一部の紙面しかご紹介できませんでしたが、今後、短編については、そのまま全文を掲載する予定です。
 次回以降、「デッドソルジャーの弁明」の連載については、読者のみなさまのご要望をお受けしながら判断したいと思います。
 引き続き、竹内薫のシュレ猫日記をご贔屓に。それではまた来週、お目にかかりましょう!


**************

 このサンプル号の最後に、質問状のルールを書いておきますね。毎月一回くらいのペースで質疑応答コーナーがあります。

質問ルール
・一人あたり、毎回、一問、400字以内でお願いいたします。
・どんなことを質問していただいてもかまいませんが、お答えできない場合もあります。
・宣伝広告は避けてください。
・政治・宗教・主義主張に深くかかわる質問は避けてください(単なる喧嘩になる恐れがあります)。
・応援メッセージはいつでも歓迎です。
・返信は、内容によって、次の週になることもあれば、月末になることもあります。即答はできませんので、あらかじめご了承ください。
・読者のみなさんと私がつながる、楽しいやりとりの場になれば幸いです。
・このルールは予告なく(告知にて)変更することがあります。
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毎週 金曜日(祝祭日・年末年始を除く) 今月3/5回(最終 2018/08/17)
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2018/07/27 第十五回
2018/07/20 第十四回
2018/07/13 第十三回
2018/07/06 第十二回
2018/06/29 第十一回
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