天上人　VS　天下人　～暗闘！　「天皇三代」対「戦国三傑」

正親町天皇の口宣案


戦国時代の書物「瑞光院記（作者及び執筆時期不詳）」によれば、駿河国守護大名今川義元に対し、治部大輔を解いた上で三河守（三河国司）に任じ、併せて嫡男今川氏真を治部大輔に任命する旨の口宣案が、永禄3年（1560年）5月8日付にて作成されたとされています。

（瑞光院は播磨国天台宗書寫山圓教寺の塔頭）

この日付の11日後、今川義元は桶狭間の戦いで敗死しますが（没年42歳）、留意すべきは、三河国での実効支配を正当化するに際し、勅旨を得ている点です。

義元の西方経略は、正親町天皇の了解を取り付けた上での軍事行動と言いますか、むしろ朝廷からの要請によるもの、室町幕府13代将軍足利義輝の追放が目的です。


今川義元の征西が可能となったの、戦国乱世の歴代天皇による婚姻政策が下地として存在したから、その結果が天文23年（1554年）、甲州（武田信玄）と相州（北条氏康）、そして駿州（今川義元）との間に成立した三国同盟です。


具体的には、武田信玄の妻は清華家左大臣三条公頼次女（三条の方、輿入れ天文2年/1533年）、北条氏には天文元年（1532年）前後、氏康の父氏綱に摂家准三宮近衛尚通女が嫁ぎ、今川義元の母（父氏親正室）は名家中御門宣胤女寿桂尼、永正年間（1504？1520年）に駿河国へと下向しています。

その婚姻関係を梃子に、冷泉為和や三條西実枝と言った公家が現地に赴いて仲介役を務めた結果、最終的に上記の三国同盟として実を結びます。


すなわち当該同盟は、（正親町天皇の）祖父後柏原天皇と父後奈良天皇の尽力の賜物、その内容は、今川氏は「三河国以西切り取り次第」、北条氏が「関八州切り取り次第」、そして武田氏は「信州および越後国切り取り次第」であったと推察されます。

冒頭の口宣案も、義元が西上に際し、大義名分の一部として朝廷に求めたものと考えるべきと思われます。


従って桶狭間の戦いは、その軍事行動が頓挫したことを意味し、同時に天皇派の意図を挫き、足利将軍陣営を救ったと見做すべき史実です。
（了）