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コロナ禍の「富裕税」論議【フィスコ・コラム】

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パンデミック(感染症の世界的流行)への対応で、各国の財政は火の車。そんななか、所得や資産の格差を和らげようと、富裕層に対する期間限定の課税に乗り出した国もあります。富裕層の税金逃れを厳格化する日本で、導入の議論は進むでしょうか。


アルゼンチン政府は昨年12月、一定の資産を保有する同国の高額所得者に対し、1回限りとする富裕税の導入を決めました。アルゼンチンは通貨安と高インフレによる経済の混迷で同年5月に9回目のデフォルト(債務不履行)に陥り、新型コロナウイルス対策まで手が回らないのが実情です。徴収見込みの5400億円相当を、新型コロナの感染対策や中小企業への補助金、貧困層への給付などに充てる方針です。


イギリスでも富裕税導入の気運が高まり、学者などで構成する専門委員会が報告書を取りまとめました。試算によれば、高額所得者を対象に5年間に年1%を課税した場合、実に総額36兆円相当の税収入を見込めるといいます。富裕税の火付け役となったのはピケティの「21世紀の資本」です。つまり、経済成長のために資本主義を放置すれば、ますます格差が拡大するとの見方が根底にあります。


アメリカでも、1月20日に正式に発足したバイデン政権が超富裕層に対しキャピタルゲイン課税の強化や所得控除の制限といった公約を掲げており、その実現が期待されています。2019年には著名投資家のジョージ・ソロス氏をはじめとする超富裕層が、税制の歪みを是正し気候変動や不平等社会の改善などに対応するよう主張し、富裕税導入を訴えたことが話題になりました。


主要国ではこれまで、富裕層や大企業を優遇する政策により経済活動を活性化し、低所得者の生活レベルを引き上げる政策を推進してきました。富める者が富めば貧しい者にも富が行きわたるとの「トリクルダウン」の考え方が背景にあります。ただ、最近の研究から富は富裕層に蓄積され、必ずしも低所得者にまで浸透しないとの見方に変わりつつあり、適切な所得再分配が求められてきています。


富裕税は過去に日本でも導入された経緯があります。戦後、所得税の税率引き下げに伴い、富裕税で補うようシャウプ使節団が勧告し、1950年に導入。ただ、当時の日本で富裕層自体が少なかったことや個人の資産を把握するのが困難だったことから、わずか3年で廃止されました。日本の税制は、税金逃れの抜け道対策の厳格化が最近の主流で、課税による財源確保の議論は現時点ではあまり耳にしません。


富裕税を導入した場合、富裕層の国外流出により、結局は徴税できなくなり税収の減少をもたらしてしまうといったデメリットもあります。そのため、各国の導入も期間限定の措置なのでしょう。とはいえ、世界的な緊急時に、まとまった税収を得る決め手となるかもしれません。


※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。


(吉池 威)


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