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オセアニア通貨のせめぎ合い【フィスコ・コラム】

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豪ドル・NZドルの通貨ペアが年初来安値から持ち直しています。金融政策方針の違いでNZドル高が進行していましたが、液化天然ガス(LNG)の需要増大で足元は豪ドル買いが優勢に。新型コロナウイルス感染抑制も豪ドルを支援し、「パリティ」は次第に遠のきつつあります。


ハト派の豪準備銀行に対しタカ派のNZ準備銀行——その政策方針を反映し、豪ドル・NZドルは3月以降にほぼ一貫して値を下げ、9月には今年最安値の1.0270ドル台を付けました。その後は一転して上昇し、10月半ばにかけて約3カ月ぶりに1.0600NZドル付近に持ち直しています。この間、NZ準備銀行は予定どおり政策金利を引き上げましたが、豪準備銀行は2024年まで金融緩和を継続する方針を崩していません。


コロナ禍に翻ろうされた両国通貨は2020年3月には一時0.9989NZドルの歴史的安値を記録しています。この時は有事のドル買いに振れ、いずれも対ドルで下落するなかで1豪ドル=1NZドルの「パリティ」を割り込みました。豪ドルはいったん反発したものの、今度はデルタ株まん延による大都市のロックダウン(封鎖)で両国政府の対応の違いが材料視され、豪ドルは再び値を下げる展開に。


やはり、人口500万人のニュージーランドの方が2500万人のオーストラリアよりも政府の対応が機敏で、それゆえ経済の回復ペースもニュージーランドがオーストラリアに差をつけました。国内総生産(GDP)はニュージーランドがコロナ禍のダメージを克服しつつある一方、オーストラリアはまだこれからといったところ。


雇用情勢や物価動向についてもニュージーランドの方が安定的な改善が示されており、中央銀行のスタンスの違いは鮮明です。NZ準備銀行は8月の定例会合で、ロックダウンの影響を理由に利上げを見送ったものの、引き締め姿勢を堅持。これは住宅価格の高騰に先手を打つ狙いもありました。対照的に、豪準備銀行は資産買い入れ規模の段階的縮小を進めていますが、一貫して利上げには否定的です。


豪ドルのNZドルに対する今年9月までの下落トレンドは、こうした背景で顕著になりました。コロナ禍後の混乱で上下動を繰り返した豪ドル・NZドル相場が足元で切り返しつつあるのは、LNG相場の上昇が主要因です。中国の電力不足が深刻化するなか、アジア諸国で冬の到来を前にLNGなどのエネルギー需要が増しています。豪ドルにとって鉄鉱石価格の下落は弱材料である一方、好調なLNG輸出が相場を押し上げています。


目先の注目材料は中国恒大集団の経営問題。ドル建て債の利払いの実施はなお不透明で、最悪の事態により中国経済の減速が顕著になれば、交易関係の深い両国への打撃は避けられません。このところ豪中関係は急速に悪化していますが、それでもオーストラリアにとって中国は最大の貿易相手国に変わりありません。対中依存度が高い分、NZドルよりも豪ドルへの影響の方が大きいとみられます。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。


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