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日本のクリエイター業界で、高品質商品が「あまりにも安く」設定されてしまう本当の理由—根底にあるのは「自信のなさ」?(2)

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本稿は、「日本のクリエイター業界で、高品質商品が「あまりにも安く」設定されてしまう本当の理由—根底にあるのは「自信のなさ」?(1)」の続きである。

●世の中は「コト消費」から「ヒト消費」へ

喜田 スケブは、国内外から日本のクリエイターに対してイラストや音声データを有償でリクエストできる「投げ銭付きお題募集サイト」です。2018年12月に公開し、2021年11月末時点でユーザー総登録者数160万人超、クリエイター登録者数約8万人超、月間取引高約3.5億円の規模に成長しました。

これまでクリエイターエコノミーは、モノ消費とコト消費が支えてきました。「機能的に便利だから、アイフォンを買う」というのがモノ消費で、「オーガニック料理を食べる、スキューバダイビングをする」といった体験の消費がコト消費です。いまは第3の消費方法であるヒト消費が拡大しており、これがクリエイターエコノミーの中核となっています。スケブもその一つと考えて良いでしょう。

ヒト消費は別に新しいものではありません。教祖に依存するという新興宗教やアイドルもその一つです。偶像崇拝全般がヒト消費で、それが大衆化したものがクリエイターエコノミーです。

例えば、YouTubeの投げ銭機能であるSuper Chatですが、この投げ銭機能を使って、大好きなYouTuberを気軽に応援することができます。2020年のYouTube年間Super Chatランキングの世界1位は、日本のバーチャルYouTuberの桐生ココさんでした。先日、引退されたのですが、2020年の投げ銭総額は1億5,000万円超でした。世界ランキングは10位まで公開されているのですが、その多くは日本のバーチャルYouTuberや日本のインフルエンサーです。

デジタル化が進むと、ひとりで製品やサービス、コンテンツを作れるようになる一方、生産者の顔も見えやすくなります。パソコンの性能がよくなり、すばらしいツールで簡単にリッチなコンテンツを作れるような人を応援したくなるのです。

白井 ソフトウェアの能力が高くなり、容易にデジタル上の商品を作れるようになりました。便利なツールがいっぱい登場してきたからこそ、カスタマーとカスタマー、消費者同士がつながって商売ができるようになってきたのでしょうね。

喜田 ゲームがうまくなりたい人のためのコーチングビジネスも流行っています。先日、私も20歳の男の子にレッスン料として10万円を支払い、自分がゲームしているところの録画を見てもらい、指導してもらいました。プールの先生、ジムの先生のような感じです。

●クリエイターの「自身のなさ」が値下がりの原因に

白井 品質が高くなれば価格が上がるのが世の常ですが、デジタル空間の財やサービスには、当てはまらない場合もあるように思います。

喜田 そうですね。特に若年層が多いクリエイター業界は、財やサービスの価格が低く放置されています。この価格の下押し圧力の原因は、「クリエイターの自信のなさ」であり、クリエイター自身に「自分の商品なんて」と考えがちな傾向があります。

例えば、高度な技術とセンスを持った人が、「自分の作品なんて大したことないから」と思い、すごく価値ある作品を3,000円で売れば、他のクリエイターが追随せざるを得ず、結果的には価格崩壊を引き起こすのです。

特にデジタルデータの場合は、いくらでも複製できますので、製作者は販売価格がゼロ円でも原価割れにはなりません。

他方、同じ品質や性能であれば購入者は安いものを選びます。これらの構造が価格の下押し圧力を生み、エンドユーザーの手には安価で高品質な商品が届くという市場が形成されているのが、現在の状態であり、ほとんどの人が食べていけない状況、焼け野原になっています。

白井 クリエイターの「自信のなさ」に起因する価格の下げ競争ですね。デジタルデータであれば、コピーもされやすく、価格を引き下げる力が働きやすいのでしょうね。

一方で、先ほどゲームのコーチング代金として1レッスン10万円とお聞きしました。この価格差は何によるものでしょうか。

喜田 これはゲームの持つ性質によるところが大きいです。ゲームの世界にはプレイヤーランキングがあり、ダイヤ、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズのようにランクが分かれています。ランクマッチのようなもので、強い人は強い人と当たる。プロリーグ、アマチュアリーグなどが構造化されており、自分がいまどの位置なのか、どのヒエラルキーにいるのかが客観的に分かります。自分が一番上のランクだと「自分はどうもゲームがうまいらしい。みんなが褒めてくれる」といった成功体験をすることができます。

しかし、クリエイティブの世界では、それがわかりづらい。クリエイティブの世界は、ゲーム業界のようにはヒエラルキーが可視化されないため、プライシングが機能しにくいのです。

●クリエイターは、「成功体験」を得ることが大事

スケブによるクリエイターへの還元の最たるものは、売上ではなく成功体験だと思っています。スケブは30秒ぐらいで募集開始できますし、営業活動をしなくても、勝手にリクエストが届くような仕組みを目指しています。

みんなやっているから、とりあえず始めてみると、意外にもリクエストがきた。納品したら、めちゃくちゃ褒められた。「ああ、自分の絵ってお金になるんだ」、という体験に最も価値があるのです。

成功体験があれば、次のステップに進むことができます。「幾らのイラストを描くことができるのか」と、自身の価値を金額で認識するようになります。それは自分が価格を決めて、勝手に値下げしていく値段ではなく、客観的に市場でつけられた数値です。5万円も出してくれる人がいることを実感し、ある日突然、30万円もらえたという体験でさらに自信がつく。「自分はこれで食っていけるかもしれない」という成功体験が一番大事です。

白井 美術の世界にも権威付けを行う仕組みがあり、ヒエラルキーが作られています。まだ生まれてまもないイラストの市場や、生まれたてのVRのアイテムの市場でも、今後マーケットが大きくなるとともに、権威付けする仕組みが普及すれば、マーケットが正常に機能していくようになるのでしょうか。

喜田 将来的には、そのようになっていくとは思いますが、いまからそのような未来を展望して、あらゆる市場参加者が努力する必要があると思います。現状では、クリエイター自身に価格設定を任せると、無闇に価格を下げてしまいかねません。スケブの場合は、機械学習によってシステムが決定したやや高めの金額が標準設定となっている他、クライアントによってクリエイターが設定した金額以上に支払う仕組みが存在しています。

リクエストが来ない期間が続くと価格は徐々に下がっていきます。これはクリエイターが価格を一気に下げることを防ぐためです。また、価格表の掲載を禁じています。こうした設計から、スケブ側が一方的に決めた金額がほぼ流通しているような状態です。スケブが、クリエイター市場の価格決定メカニズムを適正に誘導していると言えるのです。

「日本のクリエイター業界で、高品質商品が「あまりにも安く」設定されてしまう本当の理由—根底にあるのは「自信のなさ」?(3)」に続く

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