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三重苦のメキシコ【フィスコ・コラム】

1カ月後に迫った米中間選挙の行方を、隣国のメキシコは注意深く見守っていることでしょう。トランプ前米大統領が影響力を強め、2年後の再登板がささやかれているためです。原油高に支えられるメキシコペソにとって、下押し圧力になりかねません。

メキシコ銀行(中銀)は9月29日、定例会合で政策金利の0.75%引き上げを決定。昨年6月から11会合連続、このうち直近3会合で0.75%の大幅な利上げを決め、政策金利は9.25%に到達しました。ウクライナ戦争を背景に食料やエネルギーの価格が高騰し、中銀はタカ派姿勢を維持しています。連邦準備制度理事会(FRB)に追随した政策決定で、メキシコペソはドルに対して底堅く推移している格好です。

メキシコの消費者物価指数(CPI)の伸び率は現時点で前年比+8%台後半と、20年ぶりの高水準に達しており、なおピークに達していないもようです。中銀は22年のインフレ率見通しを8.13%と、前回の7.8%から上方修正しました。また、今年8月時点で、目標の上限である4%を下回るのは2023年7-9月期とみていましたが、ピークアウトしないため後ずれし、直近では24年1-3月期に修正しています。

インフレ上昇圧力は同国経済の足かせになる見通しです。メキシコの国内総生産(GDP)は7-9月期以降の落ち込みが今後に響くとみられ、2023年は+2.4%から+1.6%に下方修正されています。ただ、今年1-3月期の前年比+1.6%から4-6月期は2.2%に加速し、2022年通期では2%台の成長を確保できる公算です。それでも、新興国のなかで経済は比較的安定しているとはいえ、全般的にはぜい弱さが残ります。

こうしたことを踏まえると、FRBに歩調を合わせる金融政策はやがて息切れし、景気を圧迫する可能性もあります。メキシコの製造業の8割は対米輸出で、アメリカの需要が不可欠です。両国の格差は、アメリカからメキシコへの過去最高に達した送金額が示しています。この送金額はメキシコからの移民やメキシコ系アメリカ人を合わせた4000万人近くによるものでメキシコのGDPの4%を占めるといいます。

2021年1月のバイデン政権発足により、メキシコからアメリカに国境越えする人が急激に増加しています。米中間選挙で民主党が敗北した場合、2年後の米大統領選でトランプ再登板のシナリオに現実味が増し、メキシコに寛容ではないアメリカに逆戻りする可能性からペソ売りにつながるかもしれません。インフレに景気減速、それにトランプ・・・メキシコは三重苦に悩まされることになりそうです。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

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