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コラム【新潮流2.0】:「ホワイト過ぎても」(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)

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◆武田砂鉄の『わかりやすさの罪』に、こんな一節がある。「毎日豆腐を食べている人に、せんべいを差し出すと、毎日豆腐を食べているのでもっと柔らかいものを出してほしいと言われる」。わかりやすいものばかり咀嚼すれば、噛み砕く力は弱くなるというメッセージである。

◆僕は娘も犬も過保護に育ててスポイルしてしまった苦い反省がある。犬には箸で口までごはんを運んで食べさせる甘やかしようである。そのせいか好き嫌いが激しくウエットタイプのフードしか食べず、ドライフードなど見向きもしない。それでは噛む力が弱くなると心配したが、そんな心配は無用だった。テーブルや椅子の足、箪笥の引手など、家じゅうのあらゆるものを噛み砕いてボロボロに破壊している。柔らかいものばかり口にしていればダメになると犬でもわかるのだ。

◆「職場がホワイト過ぎて辞めたい」と仕事の「ゆるさ」に失望し、離職する若手社会人が増えているという。残業もさせてもらえず、パワハラの指摘を恐れるあまり上司は腫れ物に触るかのようにバカ丁寧に接してくる。そんなぬるま湯みたいな職場にいては、別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと不安を募らせる若者が増えているというのだ。ブラックな職場は言語道断だが、ホワイト過ぎるのも自らの成長にはよろしくない。あまい環境に安住せず厳しさを求める志向は頼もしい。結構なことではないか。

◆だめなのは企業のほうだろう。日本の上場企業は「あまく」「ゆるい」のだ。先週金曜日の日経新聞・スクランブルのタイトルは「危機感無き業績未達」。緊張感を欠く経営陣の姿勢がリストラを急ぐ米企業と対比をなし、失望を招いていると手厳しい。土曜日に開催したマネックス・アクティビスト・フォーラムでパネルディスカッションに登壇した富山和彦氏は「日本企業は仲良しクラブで過去30年、『安定』を選択してきた。そう簡単に変われるわけがない」と喝破した。

◆自ら、すなわち内部から変われないなら、外部からの外圧によって変わるしかない。身内から厳しい意見は出しにくい。外からの厳しい意見にどれだけ耳を貸せるかが変革のカギである。そこにアクティビストの存在価値がある。資本効率の改善、不採算事業からの撤退、構造改革。日本企業に求められるのはタフな意思決定だ。一方、今の時代、ESGやウエルビーイングも追及していかなければならない。「男はタフでなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格がない」。何事においても厳しさと優しさの両方が求められるのはボギーの時代から変わらない真理である。


マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
(出所:2/6配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)



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