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スイスの金融大国卒業【フィスコ・コラム】

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リスク回避の場面で、スイスフランは今後も安全通貨として選好されるでしょうか。永世中立国の立場を放棄してまでウクライナを支援する一方、有力行がロシア富裕層の制裁逃れを援護した疑いを持たれています。国際社会からの信用低下は免れません。

欧米諸国はウクライナに侵攻したロシアに対し昨年から経済制裁を継続していますが、スイスのUBSとクレディ・スイスを含む主要行がロシアの新興財閥(オリガルヒ)への制裁回避に協力したとの疑いが浮上。米司法省は両行への調査を開始したと報じられています。2行に取引履歴など情報提供を求めています。米バイデン政権は対ロ制裁を強め資金面で封じ込める意向のようです。

通信社の報道によると、クレディ・スイスはロシアの富裕層を多く顧客に持ち、最盛期には600億ドル(約8兆円)規模の資金を管理。年間の収益は5-6億ドル(約800億円)にのぼったようです。ただ、最近では資金洗浄(マネーロンダリング)への関与も明らかになり、経営悪化により2021年と2022年には2008年のリーマンショック以来の巨額損失を計上。国際的な信用は失墜しています。

もともとスイスの金融機関は顧客情報を明かさない秘密主義を貫き、世界中の資産を集め金融大国の地位を確立してきた経緯があります。これまでにもサッカーの団体や中南米の石油会社の汚職に関わったことが取りざたされ、今回の米司法省による調査の過程で詳細が明らかにされるか注目されます。コンプライアンス重視の世の中となり、秘密主義が限界となれば資金が流出する可能性も出てきます。

資産凍結などを含む制裁の対象となった顧客との取引や審査の内容などで両行に不正が認められれば、巨額の制裁金が科されるといいます。ただ、経営難に陥ったクレディ・スイスをUBSが買収することで合意したばかり。シリコンバレー銀行の破たんをきっかけとした欧米金融不安がくるぶるなか、対ロ制裁のために金融機関の経営をさらに圧迫すればむしろ危機を作り出す要因にもなりかねません。

スイスは西側の一員としてロシアに対する制裁に参加し、200年以上続く永世中立国を事実上放棄しました。スイスが輸出した軍事兵器の交戦地に向けた再輸出は禁じられていますが、最近ではウクライナ支援の一環として認める方向にあります。その一方で主要行がロシア財閥への制裁逃れを援助していたとなれば、風当たりは強まるでしょう。

UBSによるクレディ・スイス買収は金融危機を抑止したものの、国民負担を伴う政府の救済策として課題を残しました。スイスの金融大国としてのかつての強固な信頼は揺らいでおり、このままだとフランが安全通貨でなくなる日も近いかもしれません。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

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