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北京への道【中国問題グローバル研究所】(2)

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【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、フレイザー・ハウイー氏の考察「北京への道【中国問題グローバル研究所】(1)」の続きとなる。

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■中国は何をもたらすことができるのか

中国はもはや単なる、世界の成長をけん引する経済大国や世界の工場ではない。中国経済はパンデミック前からすでに諸問題に直面しており、そうした問題はすべて解決されぬまま残り、あるいは経済が直面する別の問題へと変化している。厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ政策」の緩和により、経済が短期的に回復したとはいえ、今や世界は中国にそれをはるかに上回るものを求めている。

欧州諸国が中国に期待しているのは、グローバルなリーダーシップをもっと発揮し、ロシアによるウクライナへの攻撃を抑える取り組みに力を入れることである。中国が外交的影響力を高めている証として、長年にわたり対立関係にあったサウジアラビアとイランが中国の仲介により最近和解したことを挙げる向きもあるかもしれない。これは確かに中国の立派な外交的業績であり、米国がこれを仲立ちすることは間違いなくできなかっただろう。だが同時に、この成果を過大評価すべきではない。

中国の隣国にとっては、貿易と経済が依然として鍵を握るが、今の中国は昔の中国ではない。今月には、インドが中国を追い抜き、世界で最も人口の多い国になる。中国の人口はすでに減少し始めており、2100年までにほぼ半減する可能性があるとする予測もある。米国主導の対中半導体制裁措置はすでに、中国ができることとできないことに影響を及ぼしている。また、自国のサプライチェーンから完全に中国を排除する国はほとんどないとはいえ、経済の原動力(economic engine)という中国の役割は、失速していないものの、間違いなくシフトダウンしている。国内に目を転じても、習国家主席の下で、民間企業や起業家に対する締め付けを強化しており、コロナ禍には特にその傾向が強まった。大手IT企業はいずれもその標的となっており、民間事業の支援について、指導部からある程度前向きな発言があったものの、ITセクターに対する規制・法的な枠組みで緩和されたものがないのが現状である。現在の情勢を反映する2つの話題にも、投資家の意欲を高める効果はほとんどない。数多くのIT企業のIPOを手がけてきた中国を代表するIT投資銀行家の包凡(バオ・ファン)氏は、場所は不明だが身柄を拘束されたままで、当局による規制締め付けの「手助け」をしている。また報道によると、国内の(ChatGPT など)大規模言語モデルAIに対する新たな規制措置で、「コンテンツには、社会主義の中核的価値観を反映させる必要があり、また国家の権力を転覆させるような内容を含んではならない」ことが徹底されるはずだ。このようなテクノロジーが力を発揮できるオープンで自由な環境とはとても言えない。危険にさらされているのは中国人のビジネスパーソンだけではない。日本のアステラス製薬の社員も先日、拘束された。中国で経済的人質を取ることは今に始まったことではない。

ルーラ大統領のブラジルとプーチン大統領のロシアが望んでいるのは、BRICSの復活だ。そうなれば、当初の5カ国だけでなく、別の途上国やグローバルサウス諸国もこれに加わることは十分あり得る。こうした復活の成否を左右するのは、中国がその先頭に立つかどうかになるが、これが実際にどのように機能するか想像することは難しいように思われる。中ロ間で人民元建ての貿易が拡大していることからも、ロシア経済が中国に依存していることは明らかである。一方、ルーラ大統領の米国に対する不信感と、BRICS通貨創設の願いは、経済の健全化より、政治的イデオロギーに基づく側面が強い。だが、インドには、こうした通貨を支持する理由が果たしてあるだろうか。インドは堅調な成長を見せており、30年前に中国が持っていた利点の多くを持っている。そのため、特にヒマラヤ山脈の国境地帯で中国との衝突が続いているときに、中国との関係を強化する必要はない。インドは日本、米国、オーストラリアと共にクアッド(Quad)を創設した。その背景には、中国がより攻撃的・好戦的になることへの懸念がある。一方、BRICSの復活は、経済的に意味がなくなり、立ち消えることになるだろう。習国家主席はこれまで中国式グローバル化(Globalization with Chinese Characteristics)とも言うべき「一帯一路」構想を国際交流の主要な施策としてきた。だが、これに参加する途上国の多くは現在、困窮にあえぎ、債務不履行に陥る可能性が高い。こうした問題に対処し、債務不履行を回避するために中国が過去5年間に行った救済融資の総額は1,850億米ドルに上るとハーバード大学の経済学者、カーメン・ラインハート(Carmen Reinhart )氏は推計している。債務を永遠に借り換え、損失計上を回避するという国内モデルを世界に輸出しているのである。少なくとも、中国は国内外で不良債権を抱え込むことを望んでいない。他国と同様、財政上の制約があることを理解しているのだ。

中国には多くのことが求められているが、少なくとも短期的には、最近訪中した首脳全員を失望させることになる可能性が高い。習氏が国家主席の座に就き、中国に対する世界各国の好意の多くを無駄にして10年が過ぎた今、中国が万が一にもプーチン大統領率いるロシアの危険性に気がついて、世界の平和に一役買い、ウクライナから撤退するようロシアに圧力をかけるとすれば、それは自国にとって大きな追い風となるだろう。ライエン委員長のディリスキング政策は、中国との関係再構築に向けた第一歩としてふさわしい。改革・開放時代には、中国でビジネスを行うことの実情や、中国による国際協定違反について話すことを嫌がる国家首脳や企業トップが多かった。中国についての、また中国との率直な議論を最重要課題にしなければならない。そうした議論が、より良い政策を定め、その結果として、より現実的な成果を上げる一助となる。中国は、諸問題を抱えているとはいえ、多くのサプライチェーンと、グローバルな問題の解決において不可欠な存在であることに変わりがない。北京を訪れ、中国政府と交流をすればいい。だが、それにより何を得られるかについては現実的な視点を持つ必要がある。おそらく、期待をはるかに下回る成果しか得られまい。

写真:新華社/アフロ

※1:https://grici.or.jp/

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